一、ここにいるよ

寄席の楽屋でも不思議な事はあります。


これはK師匠の襲名披露興行の時です。

仲入り(休憩)に披露口上の準備をしていると、障子がバンッと大きな音をたてて閉まりました。

準備をしていた全員が気がつく大きな音でしたが、そこには誰も居ない。

風が吹いたわけでもなく、誰かが閉めたわけでもない。

なんだろうとても不思議でした。


口上の最中にまた大きな大きな音が出てはいけないので、何度も確かめましたが

人が閉めない限り障子は閉まりませんでした。


ただ、不思議と怖いという気持ちにはなりませんでした。

なんだろうねと皆で話し合っていると、古株のお囃子のお師匠さんがポツリと


「E師匠(K師匠の師匠)が見に来たんじゃない、お弟子さんの襲名披露興行だもの」


それを聞いてその場にいる全員納得。

なるほど師弟関係って良いもんだな。

私の師匠は亡くなってからも私の高座見てくれるかなぁ、師弟関係って改めて

本当に良いなって、ニヤニヤしてたら。


「バカヤローっ! ニヤニヤしてないで楽屋手伝えっ!」


師匠に怒鳴られました。


そうだ師匠はまだまだ元気だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る