3月27日:☼:

3月27日。晴れ。

堆肥葬たいひそう』というものを知った。


「……」

 僕は、お祖母ちゃんの部屋から出られるベランダにいた。

そして、灰色のプランターに茶色の土と黒い肥料を詰め、種を埋めていた。

『輪廻の堆肥』というラベルが付いた袋には、お祖母ちゃんの遺体から生成された堆肥が入っていた。

 散骨よりさらに踏み込んだ自然葬の一種として、堆肥葬を希望する高齢者や遺族は近年増えている。墓所の用地不足だとか、土葬した遺体による土壌汚染の深刻化だとか、そういう事情も、普及の要因らしい。


 堆肥葬について、世間の評価はまちまちだった。

 堆肥葬で生成された肥料を緑化団体に寄付する運動が世界規模で広がり、食糧難に苦しむ人々が感謝しているというニュース記事。

 早死にした妻の堆肥で綺麗な花を咲かせ、それでポプリを作って枕に忍ばせたら、夢の中で彼女に会えたという怪しい美談。

 自殺した息子の堆肥で色々育てようと苦心したが、結局全てを枯らし、荒れ果てた庭の写真を最後に更新が止まっている誰かのブログ。


 僕は色々考えた挙げ句、お祖母ちゃんの堆肥で、小さな仏壇に供える花を育てることにした。


 ──何かを育てるっていうことは、けっこう大変なことなんだよ


 僕の頭に、お祖母ちゃんの言葉が蘇る。

 お祖母ちゃんのことだ。僕がうっかり枯らしても、怒ったりはしないだろう。


 土に触るたび。

 種をまくたび。

 水をあげるたび。

 そして、つぼみを眺めるたび。

 お祖母ちゃんとの思い出に、静かな気持ちで向き合う。

 そのことの方が、きっと大事なんだ。


「……」

 そう自分に言い聞かせ、僕は土だらけの手を叩いた。


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