第36話 呼び出しって怖いよな

「なぁ……気が重いんだけど」

「仕方ないわ、学園長様が私とエデルと話したいとおっしゃるんでしょう?」


 前世でも校長先生に呼び出されるとか無かった気がするんだけどなー!

 そもそも……呼び出しって怖いよな。何言われるんだろ。

 というのも、昨日親父が兄貴の手紙を読んですぐに学園長へ詰め寄ったらしい。分かりやすく言うなら王族が居るのに侵入者を入れるとは何事だーって予定通り行ったわけだ。俺達自身にはまだそれくらいしか伝わってない……まぁそれが狙いなんだろうとは思うけど。

 はっきり言って今回の件、大事にしたのは被害を受けた紛れもない俺自身だ。俺がそんな事無かった、大袈裟でした、そう言えば学園側に非は無くなる。


「──ふざけんな、って言わないとな」


 過保護? 大袈裟? 上等だよ。俺本人を狙ったものだから王族への警備を怠った訳ではないとか抜かすなら全力で徹底抗戦だ。子女子息に安定した学びを、が理念だって言ってるのはそっちだろ。初代創設者の言葉だから無効? 知ったこっちゃない、そこから変えてないのはそっちだって話だ。


「エデル。眉間にシワが寄っているわよ」

「怒るとこじゃないって?」

「そうよ、まだ何も私達は聞いていないもの。憶測はしても聞く姿勢は嫌でも持たなくちゃいけないわ。ましてや私は準王族になるべくして教育を受けているの、冷静に判断して最善を探さないとダメよ」

「んな事言っても……もし示談に持ち込もうとしても、俺は折れねェからな」


 周りへの影響を考えた時に自分が耐えればいいという選択肢がリリィの中にはある。それは確かにリリィの優しさだし美徳ってやつだと思っている。

 でも、ここは折れろとリリィに言われても、俺は折れたくない。

 そんなリリィは呆れるような、仕方ないとでも言いたげに笑っているけど。


「もう。でも良いわ、エデルが私を見ていてくれるなら私は私の考える公平さだけを見ていられるという事だもの」


 だからね、エデル。とリリィが笑みを消して俺を見つめる。


「私は私自身の情ではなく公平な目で見ると約束するわ。代わりにエデルも私の判断が正しいか貴方も公平な目で見て」


 私を信じて欲しい、と言っているようだった。信じられないなら貴方がちゃんと止めて、とも。

 確かにそれなら文句はないしリリィを信じていない訳じゃない。俺だってこのまま誤解されたくはないし、やり過ぎも良くないのは認める。


「──分かった、分かったよ。目先の利益ではなく長期的な目で見定める、そういう事だろ」

「分かってくれて嬉しいわ。じゃあ、そういう方向で行きましょうって約束、ね?」


 にっこりと嬉しそうなリリィに差し出されたのは左の小指。細くて俺より小さなその指に少しの気恥ずかしさを感じつつ、同じく左の小指を絡めた。


「はい、指切り。ふふ、おまじないだなんて久しぶりね」

「嘘ついたら針千本、って改めて考えると怖いけどな」

「それだけ覚悟しておいてねって話じゃないの?」

「そう考えると口約束っていうより契約みてェだなぁ、これ」

「案外そうなのかも。子供でも知ってる契約の方法なんだとしたら、尚更さっきの事は守ってねエデル……約束よ?」


 にっこりと笑うリリィに苦く笑いながら応える。

 ──そういえば前世の俺も、姉とも、よくこうやって約束させられた。


『いい? 相手に「いいよ」しないまま仲直りする事だって出来るの。仲直りしてから相手を「いいよ」していいかどうか考えてもいいんだよ。ウチは姉弟仲良いけどお兄ちゃんお姉ちゃんと仲悪い子だって居るでしょ、仲良しかどうかなんて人それぞれなの。だから会いに行って来な、それでも許せなかったらお姉ちゃんに明日言って。約束ね』


 長い髪をひとつに括った、当時中学生の姉が指切りしてそう言った。大体今の俺と同じくらいの、姉が。


「ああ……約束するよ」


 姉と、リリィに。



「いや──早朝から呼びつけてしまい、申し訳ない。改めて顔を合わせた上で謝罪と当時の状況を聞かせてもらいたくて」


 にっこりと笑う学園長。

 淡くも金に輝くすっきりとした長髪。サファイアを思わせる色が濃すぎて黒に近い青。

 体が弱いからか儚さを思わせるほっそりとした人。


(そうだった、学園長ってハーゲンドルフ公爵家の人じゃね?)


 やべぇ。忘れてた。

 リリィの前で啖呵切ってたけど、学園長はハーゲンドルフ公爵家の次男だったはずだ。しかも二代か三代前は王族で、学園長は特に色濃く王族の色をしているとかで一時期話題になってた、らしい。母さんがそういってた気がする。

 公爵は大抵「臣籍降下した王族か建国から続く王族の親戚」が該当する。前者がハーゲンドルフ公爵、後者がリリィのアインホルン公爵だ。そう考えるとリリィの髪の色が王族と違うのは、その血が王族と遠くなったからなのかもしれない。


「学園長、おはようございます。アインホルン公爵の娘、リリアーネでございます」

「──キルシュネライト伯爵家、エデルです」

「そう固くならずに。こんな早い時間に来て頂いたのはこちらだ、さぁ座って」


 学園長の言葉につられるように部屋の中のソファに向かうと、学園長も移動した。

 ──車椅子の、まま。

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