第30話 この国に何があるというのか(別視点)

「──ご苦労。あとは宰相達の仕事だ」


 かしこまりました、と告げてから疑問を投げかける。


『それにしても、よろしかったのですか。シュヴァルツ副団長の息子を手放して』

「はっは、惜しいさ。一番は予知夢を見たというキルシュネライトの次男坊が欲しかったがな、その子が我が子の婚約者であるアインホルン嬢の守りを固めるべきだと判断しているんだ」


 ぎしりと執務室の椅子に背を預けそう言ったのは、このファルケ王国の国王であり我が主人だ。俺自身は別室でそんな疲れた様子の主人の様子を見ているだけだが、慰めるような事はしない。


『確か、宰相夫人の事故を予知夢で見たと報告がありましたね。私は所用で居ませんでしたが』

「あれは……予知夢なのだろうか」

『というと?』


 陛下は重いため息を吐いてから、ぽつりとこぼすように言った。


「あれは──予言に等しい。予知夢であったとしてもあんなに正確に口に出来るものなのか? そう考えるほどにな」


 予言。確かにこの国には予知夢で王国の危機を回避したという事象はあるものの、その予知夢は予言と言わしめるほどの正確さがあったのだろう。


「アインホルン公爵夫人は、予知夢では死んでいたそうだ。それを事故で済ませる事が出来た」

『幸いにございましたね』

「その功労者が、今度はアインホルン嬢の守りを固めている……副団長の息子を引き抜いてまで。もう、これはまだ何かあると考えてもおかしくはないだろう?」


 流石の俺も、そうですね、と言わざるを得ない。

 というのも俺は、キルシュネライト団長の次男とあの赤い髪の男爵令嬢がケンカしていた姿を見ていたはずなのに「仲直りする直前の記録がない」のがずっと、まるで、時間が飛んでしまったように感じてならないのだ。ちなみにこの件は陛下にも報告していない、こちらの不具合の可能性もあるからだ。

 しかし、あの少年には何か、人智を越えたものがある……そう思えてくる。


『一体、この国に何があるというのか。気になりますね』

「まるで他人事のように……その何かがあった時、対処し責任を取るのは我々なんだぞ」

『嫌ですねぇ、地位ってやつは』

「全く、気楽に……クラウスの件も考えなくてはいけないというのに」


 何やったっけあのガキ? と思考を巡らせる。

 そういえば、シュヴァルツ副団長の息子が要らないなどと言っていたんだったか。あの子は異国の剣術を使いこなす副団長によく似て、剣筋もあの歳にしては悪くはなく魔法の才能だって高い。キルシュネライト団長の長男と彼のどちらかが次代の騎士団を率いるだろうという気がする。


「副団長の息子を貶した件は確かにこちらの教育が甘かったせいだろう。しかしそれだけではない……中心となっている己の婚約者と上手くいっていないのも問題なんだ」

『ああ、陛下のお耳にも届きましたか。妃殿下は既に代理で花束などを贈ったりはしておいででしたが、もう殿下はそれが効く歳ではありませんよ』

「分かっていた、分かっていたんだがその王妃が一番息子達に甘い」

『政にかまけたツケですよ、殿下』


 あはは、と笑いながら水分を口に含む。すると殿下は眉間にシワを寄せた。


「水だろうな」

『水ですよ。ちょっと果実が入った、ね』

「……薬ではないならいい。お前はその体質で身体の方が弱いんだ、あまり無理をするんじゃない。体質を改善出来ればいいのだが」

『俺の身体の心配をするのは殿下くらいですよ。それに、なんとかなるような身体ではありませんし』


 ふと時計を見ると、もう巡回の時間だ。


『俺は警備に当たります。殿下も執務はほどほどにお早くお休みください』

「ああ……そうだな。この案件を終わらせてから休むとしよう」


 疲れた顔の殿下を見ながら魔術式をいじると、水鏡の中の殿下が遠のく。


『では、おやすみなさい』


そう告げて、俺は王城の巡回を始めた。


+ + +


「──この国に何があるというのか、か。分かれば苦労は無いが」


 まるで見てきたかのように詳細な予知夢を、古くからの友人達の口から聞かされた時は頭を抱えたのを思い出す。


 かつての頃の冗談のような内容を真剣な顔のふたりが言ったのが、最初は信じられなかった。

 信じている友人だからこそ、その話を信じたくなかった、のかもしれない。


 真面目なアイツが心から愛する女を亡くし、娘の心が壊れるかもしれないと涙ぐみ。ひとりで幼馴染とその母を守ろうとした息子の成長を胸に、騎士として救える命があるのなら救ってみせるという意思を隠した笑顔を見せて。

 自分は、まるで、そんな事はなく。


 ──本当は、友人達が子供達を愛している事が、ひどく羨ましくなっただけだった。


 それがどうだ、今度は副団長の息子が自分の息子から離れた。

 対して自分の息子は、ただの子供のように負け惜しみのような事を言っただけ。10の子供より、小さな子供のように。

 自分も違う行動をしていれば……何か、変わったのかもしれない。でも王族の教育は国民にとっての普通じゃない。

 それが自分達にとっての普通だ。


「分かっている、分かっているんだ……王族と彼らとでは差があるなんて事は」



 ああ。

 こんな弱音、アイツに聞かれなくて良かった。


「聖霊様……この国に何があるのです?」


 空に向かってそう問わずにはいられない。

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