第24話 この人は、そんなに怪しい人じゃないから…
学校近くの店屋の方ではなく、街中にある一般よりも階級の高そうなファミレス。
店内を見渡せば、落ち着いた感じの人が多い。
敷居が高いために、三十代以上の男女しか入らなそうな空気感を漂わせていた。
普段であれば、湊は踏み入れることのない領域。が、今は
ソファに座る湊は、テーブルの反対側にいる楓音と、おじさんを見やる。
傍から見たら、家族と思われてしまうかもしれない。
おじさんは怪しいといっても、しっかりとした黒いスーツを身に纏っており、無職とか、そういう感じではなかった。
どこかの会社に勤めているような印象を受け、湊は、そのおじさんからチラッと視線を向けられたのだ。
「それで、君は、この子とどういう関係ですか?」
急におじさんから問われた。
「それは、ただのクラスメイトですけど」
「クラスメイト?」
「はい」
「では、なぜ、私たちの後をつけてきていたんだね?」
「え……?」
湊は体をビクつかせた。
心を見透かされている感じになり、湊は、視線を別のところへと向けてしまったのだ。
不自然な態度に、おじさんから疑われてしまう。
「なにかい? もしや、私らが気づいていないとでも思っていなかったのかな?」
「……」
湊は俯き、押し黙る。
「まあ、私もわかってたけどね」
調子のいい感じに、楓音が割り込んで話に乗っかってくる。
「本当かい?」
「一応……」
「なんか、ハッキリとしない話し方だね」
「……そういうことにしておいてください」
楓音は普段見せないような優しい笑みを浮かべている。
新鮮な感じがした。
「なに、あんたは」
「え? いや、俺は何も」
楓音の笑みを見つめていると、逆に彼女から睨まれてしまう。
普段通りの瞳で、罵られた。
「バレてたんですね」
「そうだよ。それで、ただのクラスメイトの君が、私たち二人になんの用かね?」
「それは……その学校で噂になってたんで」
湊は言った。
「噂? 私が休んでいる時に、そんな意味不明な噂が流れてるの?」
「え、まあ……」
「それで、私の噂の真相を知るために尾行していたってこと?」
「そうなるね」
「でも、それ、ストーカーとやってること一緒じゃない?」
「俺は別にストーカーとかじゃないから」
湊は気まずげ反論した。
「というと、君は、楓音ちゃんの悪い噂を明らかにするためってことでいいね」
「はい……」
湊は頷いた。
「もしかして、私のことを、怪しいおじさんだと思われているのかな?」
「ち、違います。俺は、怪しいだなんて、一回も思ってないですから」
湊は全力で否定する。
内心、物凄く思っていたことだが、その件について問われると、素直に口にはできなかった。
「というか、湊に尾行されていたとか。考えるだけで、寒気がするんだけど」
「それは言い過ぎだと思うけどな」
湊は軽く、呆れた感じにツッコミを入れた。
「ストーカーって、あんたさ、私のことを?」
「は? そんなことあるわけないだろ」
「私だって、ごめんなんだけど」
「それが、俺だって同じだから。お前みたいな奴と、付き合うわけないだろ」
「はぁ? それ、私のセリフなんですけど。バカじゃん、死ね」
「なんだよ、その言い方はさ」
「それは、あんたから好感を持たれても嫌だからよ」
「俺はさ、お前みたいな奴を好きにはならないって。言ってんじゃんか」
「……」
楓音は押し黙った感じになりつつも、顔を真っ赤にしていた。怒りが内面から混みあがってきているのだろう。
その睨む視線が、先ほどよりも強くなったような気がした。
「二人っとも、騒がないでほしいんだがね」
おじさんから注意された。
湊と楓音はゆっくりと大人しくなり、辺りを見渡す。
店内にいる他のお客から変な目で見られていたのだ。
場違いすぎて、目立ってしまっている。
「すいません……」
「私も、勢い任せで、すいません……」
二人は各々の謝罪を口にした。
「楓音ちゃんも、余計なことを言わないでほしい」
「はい……本当にごめんさなさい」
楓音は大人の人がいると、なぜか礼儀正しい。学校では、そんなことがないため、別人のように感じてしまった。
「では、話を戻そうとするか。そろそろ本題に入らないと、このファミレスに来た意味がなくなるからね」
おじさんは淡々とした口調で、その場を仕切っていた。
「湊君には、自己紹介が遅れたね。ただ、怪しい存在だと思われるのもしゃくなので、一応、こういう者とだけ。名刺があればわかりやすいかな?」
おじさんは仕事用のバッグから、名刺ケースを取り出す。その中から、一枚ほど抜き取り、名前が見える方を上に、湊に見せてきたのだ。
「……」
湊は名刺を貰ったことなんて一度もなかったことで対応に困っていた。一応、会釈してから、受け取ったのだ。
湊が名刺を見ると、
肩書きとしては、芸能事務所と簡易的に記載があった。
「芸能事務所?」
「はい。私は、スカウトをしているモノでして。楓音ちゃんに、私の事務所に入るかどうかで相談していたという経緯でありまして。決して、如何わしい関係ではないと、言っておきます。名刺も渡しましたので、大丈夫だと思いますが」
「はい……変な関係じゃないことはわかりましたが、なぜ、楓音が芸能事務所に?」
「それはですね」
須崎が口を開こうとした刹那。おじさんの隣に座っていた楓音が話し出す。
「それについては、ここではいいから……私が後で、話すから」
「そうかい?」
「はい……この話はここで、終わりにしませんか?」
「楓音ちゃんが、そういうなら、この話は終わりってことで。それと、君たちは、お腹が減っていないかい?」
「え? でも、先ほどレストランに行ってきたって。言ってませんでした?」
「そうよ。でも、別に、コーヒーだけご馳走になっただけ。別に、そこまで食べていないわ。湊は? なんか食べた?」
「俺は……」
ハンバーガー店で一応食べたものの、一番安いものしか口にしていない。
むしろ、奢ってくれるならば、ここのファミレスの料理を食べたいと思い、申し訳程度に頷いて反応を示したのだ。
少しだけ、楓音のことには謎があるものの。湊が楓音の方を見た頃には、おじさんが、テーブル上に、メニュー表を広げていた。
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