沙羅との出会い

仮眠室にやってきた私は、紗羅からの電話に振り回されていた。


しんさん、新しい女が出来たのよ。私と最近キスもしないの…。眠れなくてね。めいちゃん。聞いてる?」


「大丈夫だよ。心配しすぎ。紗羅が、思ってる程、兄貴はモテないから」


「そんな事ないよ。また、帰ってきたら抱き締めてくれる?来週から、他の病院に技術教えに行くでしょ?しばらく、いないから寂しくて寝れないの。子供達は、お義母さんとお義父さんと寝てるじゃない?命ちゃんが寝てくれなきゃ無理なの」


「わかったよ。帰ったらね」


「じゃあ、また30分したらかけるからね」


「はいはい」


電話が切れた。


何なの?


知らないからってふざけんな。


仮眠室のベッドに横になった。


今頃、朝陽はあの日の私のような思いをしている気がしていた。


紗羅と出会ったのは、高校二年の夏だった。


一つ下の学年だった。


あの日は、朝陽と先輩の試合を見に行っていた。


「やっぱり、かっこいいよね」


「奈子ちゃんは、本当に藤代先輩が好きだよね」


同じように見にきてる子がいた。


「トイレ行ってくる」


「ああ」


朝陽を置いてトイレに行った。


手を洗ってると、可愛らしい女の子が隣に並んだ。


「誰かの応援ですか?」


「あー。近峰ちかみね先輩の」


「へー。好きなんですか?」


「興味ない。ただ、応援に来てって言われただけ」


「そうなんですね。あっ、私。一年の南条紗羅なんじょうさらです」


「二年の瀬野命せのめいです」


「よろしくお願いします」


そう言って、手を握られた。


ドキッとした。


初めて、胸が突き動かされた。


初めて人を好きになったのがわかった。


それから、紗羅とは学校で話をしたり勉強をしたりした。


壊したくなくて、気持ちは伝えなかった。


卒業して会わなくなった。


卒業から8年後ー


友達に連れて行かれた飲み会で出会った子と付き合って一年が経ったので結婚をします。と神が写真を見せてきたのは間違いなく紗羅だった。


家に連れてきた時に、私は紗羅がまだ好きなのに気づいた。


捨てきれなかったのだ。


あの日、会わないと決めたのは気持ちを伝えそうな自分が怖かったからだった。



二年前、神が浮気をした。


誰がどう見たって浮気をしているのがわかった。


神の浮気に気づいた日、紗羅は高熱にうなされていた。


子供達は、両親と寝ていた。


紗羅は、私についていて欲しいと頼んだ。


熱にうなされた紗羅は、深夜突然、私と神を勘違いし始めた。


下で寝ていた私の上にまたがって、キスをしてきた。


「神、抱いて。愛してる」


まな板みたいな胸だからか、私をまったく女と認識していなかった。


自分の胸に私の手を持っていく。


「神、お願い」


涙を流しながら、神のふりをした。


下半身にれられないようにした。


気づいてないのなら、もっとしてやろうと思う気持ちはあったけれど…。


神と呼ばれる度に、貫く胸の痛みで


涙が止まらなくて


さわる手が震えていた


気づかれないように、すればする程に涙が止まらなかった。


「神、キスして」


そう言って、舌を絡ませてこられると


もう、消えてなくなりたいと思った。


なのに、紗羅にれられると感じていた。


馬鹿な体。


そう思ってるのに、紗羅にしてあげたかった。


忘れさせてあげたかった。


泣きながら事が済んだ。


紗羅は、隣に寝転がった。


私は、紗羅を抱き締めていた。


「はい」


「まだ、起きてた?」


「うん」


一瞬寝てたけど、嘘をついた。


「何時に帰ってくる?」


「10時かな」


「早く帰ってきて、抱き締めて。眠りたいの」


「わかった」


「命ちゃんも、寝るんでしょ?」


「うん」


「じゃあ、一緒に寝よう」


「わかった。呼び出しだからごめん」


「うん、待ってるからね」


電話が切れた。


体がだるいのは、気持ちが重いからだ。


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