愛されないのに愛してる。【一方通行の愛の話】

三愛紫月

命と朝陽

再会

帰宅して、ラーメンを作っているとスマホが鳴った。


リリリーン。


誰だ、こんな時間に…。


時刻は、夜の22時を回っていた。


「はい。」


「もしもーし。家?」


「なんだ、めいか」


「なんだって、なんだよ」


電話をかけてきたのは、幼馴染みの瀬野命せのめい


せせらぎ病院の娘。


美しいものが、大好きな女。


めいが選んだのは、整形外科だった。


時期院長は、兄である瀬野神せのしんさんが継ぐと言う話。


「で、何の用?」


命からの電話は、2ヶ月ぶりだった。


朝陽あさひの初恋相手きてるよ」


「あっつ」


ラーメンを器に入れる瞬間にお湯が跳ねた。


「大丈夫?こないの?病院」


「会わないよ」


「会いたかったんでしょ?ずっと」


「こんな小さな町で会わなかった人だ。運命ではなかったんだよ」


「運命ってなに?今が、運命でしょ?じゃあ、待ってるから」


そう言って、電話が切れた。


俺の名前は、五十嵐朝陽いがらしあさひ、朝陽が綺麗な朝に産まれたから朝陽。年齢は、35歳だ。


ラーメンを食べずに、キッチンに置いて家を出た。


せせらぎ病院までは、自転車で20分だ。


それでも、自転車に乗ってやってきてしまうのはあの人への気持ちを捨てきれなかったからだ。


「いらっしゃい」


「命、なんなんだよ」


「まぁ、まぁ」


そう言って、命は俺を連れていく。


「個室か?」


「うん」


「何で、入院してるの?」


「頭を打ったかもしれないからってお店の人が連れてきたんだけどね。結構お酒飲んで酔ってるから、今は朦朧としてる。明日には、帰れるから」


「仕事かわってなかったんだな」


「だねー。まぁ、しばらく居てあげなよ。バイバイ」


そう言って、命は去っていった。


俺は、病室に入る。


ベッドの隣に座った。


「よかったの?家族は?怒られない?」


朦朧とした意識の中で、俺に話しかけた。


「大丈夫だよ」


俺の言葉に優しく微笑んだ。


「夕陽、会いたかった。ずっと、会いたかったよ」


そう言って、俺の頭を優しく撫でる。


夕陽は、俺の3つ上の兄貴だ。


五十嵐夕陽いがらしゆうひ、産まれた日の夕陽が綺麗な夕方に産まれたから夕陽。兄貴は、10年前に結婚してこの町を出た。


この人は、兄貴に20年前にフラれた。


「もう、休んで」


「いや、20年ぶりにこうやってれられるんだ。まだ、起きていたいよ」


この人は、俺と兄貴の声を勘違いしているし。


目元がよく似てる俺達、兄弟の顔もわかっていないのだ。


「夕陽、幸せなのか?」


そう言って、俺の唇を撫でる。


「幸せだよ」


そう言っといてあげた。


「それは、よかったよ」


桜賀おうがは、結婚は?」


「していないし、20年付き合ってる人もいないよ」


そう言って、寂しそうに笑った。


この人の名前は、宇都宮桜賀うつのみやおうが


兄より、5つ歳上だ。


この人は、今43歳か…。


あの頃より、老けたな。


「もう、休んで。まだ、いるから」


そう言って、頭を撫でる。


「夕陽、いやいい」


「どうしたの?」


「看護士さんを呼ぶから」


そう言いながら、ナースコールを押そうと頑張ってる。


俺は、その手を止めた。


「なぜ、看護士さんを呼ぶの?トイレ?連れて行こうか?」


「いや、そうじゃない」


「じゃあ、何?」


「いや、大丈夫だから」


そう言って桜賀さんは、恥ずかしそうに布団を握ってる。


「桜賀は、俺の事がずっと好きなの?」


「どうして、そんな事聞くの?」


「20年もなんて、あるわけないよな」


「どうして、また俺を傷つけるんだ、夕陽は」


あの日のように、桜賀さんは泣いてる。


夕陽の為に、泣いてる。


いつだって、俺じゃない。


この人の中にいるのは、いつだって夕陽だった。


「もう、帰って。看護士さんを呼ぶから。もう大丈夫だから…。だから、帰って」


布団を握りしめて、泣いてる。


俺は、桜賀さんの涙を拭ってあげる。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る