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 1号鬼と追手の十三の鬼は、バイクを運転しながら、日本刀風の軍刀を振い、何度も刃を交える。

 商店街の狭い道を十四台のバイクが疾走する。

 人々は逃げ惑い……店頭にある商品がバイクで蹴散らされ、軍刀で斬り刻まれる。

 追手は数の有利を活かせる広い道路へ追い込もうとし……1号鬼は逆に、更に狭い路地へ突入。

 それを追う量産鬼の1人がハンドルを切り損ね転倒……別の量産鬼のバイクが無慈悲にも仲間を跳ね飛ばす。

 俺の親友は……これのオリジナルのシーンを撮影した時に事故を起こした。

 もっともオリジナルシーンの敵は……下級兵……いわゆる戦闘員9名と、俺が演じていた現場指揮官クラスだった。

 その時の俺の役は……鬼攻兵士に改造され護國攘神団に完全に洗脳された主人公のかつての友。

「これ……失敗したら、どうなるんですか?」

 日本語が出来るスタッフに訊いてみる。

「予備の撮影機材は持って来てますが……撮影チャンスは1日に最大で2回ですね……。スケジュールの再調整が必要になりますね」

「いわゆる『マジックアワー』か……」

「ええ……夜明けの直前と、日が沈んだ直後だけです」

 冗談だろう。

 だが、言われてみれば……この現場にはめずらしい早朝撮影。

 更に映画撮影に必須のモノが見当らなかった。

 ……照明だ……。

 「特撮」でありながら「自然光撮影」。

 究極の「アナログ」撮影の為に最新の技術の粋を惜しみ無く投入すると云う矛盾。

「ホントは監督はフィルム撮影をやりたかったらしいんですが……ドローンにIMAX用のフィルムカメラを積むのは無理だったんで……」

「技術的にですか?」

 主演の前田君が、そう訊いた。

「いえ……予算上の問題で……。予算さえ十分に有れば、必要な技術の開発からやらせるつもりだったようです」

 その時、俺はある事に気付く。

「これ……取り込んだ動きを左右逆にしたの?」

 そう言って、俺はモニターに写っているを指差した。

「いえ……両手利きの人の動きを取り込んだんですが……」

 妙だ。

 この動きは……何かの武術・武道をやっている者の動き。

 それも……おそらくは日本の古流か居合道。

 だが……江戸時代の侍は、左利きであっても右利きに矯正された筈。

 侍が本質的に「職業軍人」である以上、当然の話だ。

 集団での戦いの際に、味方に右利きと左利きが入り混じっていれば、敵に殺傷される前に、思わぬ事故で味方に殺傷されかねない。

 ならば……日本の剣道・剣術になど有っただろうか?

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