第二話
クロノさんに、馬車に乗せて貰い、お屋敷を出ました。
王都から出て、街道を進んでおります、馬車の手綱を巧みに操作し、
見ているだけでも満足なのですが、お声も聴きたくて、思いきって声をかけます。
「クロノさんは魔法がお得意ですの?」
「私はまだまだでございます、レアーお嬢様のお怪我を治すことも出来ません」
「うふふ、構いませんわ、今はとても気分が良いのですよ、学院の授業中より楽しいです」
「レアーお嬢様は、お勉強がお好きなのですね」
「いいえ、どちらかと言えば大嫌いですのよ」
「ではなぜ楽しいのでしょうか?」
「うふふ、だって授業中は王子様も私を虐めませんもの」
そう、王子様が私を虐めます。
お父様が、私の婚約者といつも言う王子様の殴り蹴り、声を殺し痛そうにする私、そんなところが気に入っていらっしゃるのか、凄く激しく
学院の先生方が注意や、王への報告があったそうですが少しの間だけ少なくはなるのですが、すぐに元に戻り、戻った時は今まで以上の激しさになります。
「レアーお嬢様、仕返しは考えないのでしょうか」
「そうですわね、考えなくはありません、授業中はその事を考える事もあります」
「そうなのですね
「まあ、現れてくれるかしら、うふふ」
ああ、この様な穏やかな時が長く続いてくれますと嬉しいのですが、どうして私は無職なのでしょうか、“職業” それがあれば私は······
いえ、今はこの美しいクロノさんの後ろ姿を見て、幸せな気持ちを沢山にしておきましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
到着した所は森がひらけ、その真ん中に小さな木のお家が建っていて、自然豊かな場所でした。
半日の短い時間でしたが、馬車の旅も良いものですね、クロノさんがお暇な時にお誘いして頂けないでしょうか、いえ、我が儘はいけませんわね、クロノさんにまで
「レアーお嬢様、こちらへ」
クロノさんは私の背と膝の裏に手を添え、抱っこしてくれました。
どうしましょう、顔は赤くなっていませんか? こんなに近くにお顔があります。
うふふ、これで学院が始まっても私は頑張れそうです。
抱っこのまま木のお家に向かいます。
コンコンコン
うふふ、クロノさんたら足でノックはお行儀が悪いですわよ。
『誰だい? こんな森の奥に』
「私です。クロノです、プシュケ師匠」
カチャ
「なんだい、クロノ、可愛い娘なんか連れて、ついに結婚でもするのかい?」
まあまあ! そうなれば私は······無理ですわ、この様な醜い私ではクロノさんに釣り合いませんわ、近くで見つめる事をお許し下されば幸せです。
「ふふっ、私など、この美しいレアーお嬢様には釣り合いません」
「そうかい? お似合いに見えるが、まあ良い、で、なんの用だい、その娘の傷を治したいのならしばらくは無理だよ、モリーナはフラっと先日出ていったから数年は戻らないだろうね」
傷が治るのですか? その様な魔法は教国の聖女様でも無理と思いますが。
「はぁぁ、あの、放浪大聖女は······」
大聖女様ですか、そんなお人の事は聞いた事もありませんわ、もしいらっしゃるならお願いしてみたいものです、傷が治りもう少し大きくなったら、クロノさんにお願いしてみましょう。
“どうかお側に置いて下さい”
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
抱っこが終わり、地面に下ろされ中に通されました。
「初めましてレアーと申します。突然の来訪にご迷惑をお掛けします、どうかよろしくお願いします」
「プシュケだよ、そこのクロノの師匠もしてる」
「まあまあ、クロノさんのお師匠様ですか、それはそれはご立派なお方なのですね」
「そうなのですよ、魔法はプシュケ師匠の右に出るものはおりません、ハイエルフの私でも足元にも及ばないお方です」
「何を言ってるんだい、魔力はレアー嬢ちゃんよりも少ないんだよ」
「でも私は無職ですので魔法は使えません」
「なんだい? クロノ、あんた教えていないのかい?」
何をでしょうか? クロノさんは色々教えてくれますよ。
「その事についても師匠に相談がありまして」
そしてクロノさんは私を見てくるのでとても幸せな気持ちになります。
「そう言うことかい、レアー、井戸の使い方は分かるかい?」
「はい、以前にクロノさんが教えてくれました」
「そっちの部屋から外に出れば井戸があるから、樽にいっぱいの水を入れておいてくれないかい」
「はい、樽にいっぱいですね、任せて下さいませ、家でもいつもやっておりましたから」
さあ、頑張りましょう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「で、レアー嬢ちゃんについて何を企んでるんだい?」
「レアーお嬢様の仕返しをしてあげたいと思っています、バルニヤ公爵家の没落と、ケルド王子、ケルド・コション・ピンイン王子の廃嫡、幽閉が最優先です」
「大きく出たね、そんな見込みはあるのかい?」
「バルニヤ公爵家に関しては、先月までの不正の証拠はあります、まだ少しばかり弱い所がなんとも、伯爵程度なら即刻一族連座での処刑にはなりますが、公爵家、それも現王の兄という立場が強固ですが、怪しげな動きがあります」
「新興の公爵だとしてもやはり王族って事かい、怪しげかい、国家反逆でも企んでいてくれれば簡単に首を飛ばせるんだがねぇ」
「王都内に複数の屋敷を構え、人を集めている形跡があり、公務と言いつつ当主は公務を担っておらず、その屋敷に通っております」
「ふんっ、怪しいもんだねぇ、で、あのレアー嬢ちゃんの怪我はなんだい? あの動きは見えないところも怪我してるだろ?」
「はい、目は当主に、額は奥様に、首の火傷は妹のペルセフォネ様に、そして見えないところは、第一王子様からの物です」
「分かった、クロノ、あたしゃこの国を潰せば良いのかい?」
「いえ······」
「······はっ、生ぬるいが、そうかい、何でも言いな、クロノはさっき言ったことを進めておくんだよ」
「はい、夕食後にレアーお嬢様を交えて計画を詰めましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この六日間は本当に楽しい時間でした。
そしてプシュケ師匠、まだ弟子入りはお許し頂けないままですが、プシュケ師匠とクロノさん、そして私の三人で計画を立てました。
『
『
『
数年はかかる計画ですが、確実に追い落とすためには必要な時間だそうです。
家に着き、部屋に戻ります。
部屋も前には服が散乱していました、よく見てみると新しい学院の制服の様です。
踏まれた跡があって、水を掛けられたのか、ぐっりょり濡れておりましたので、洗い場に持って行き洗おうと持ち上げると何かが落ちました。
コトン
拾い上げるとそれはガラス玉の様な目の玉です。後ろで辛そうな顔で見ていたクロノさんが、ガラス玉を私の手から取りあげ綺麗な真っ白のハンカチで磨いております。
光沢が増し綺麗なガラス玉になりました。
「凄く綺麗な玉ですわね」
「はい、綺麗になりましたね」
クロノさんは私の前でそのガラス玉を、自身の口に入れてしまうではありませんか!
「クロノさん、食べ物ではありませんよ!」
そう言い見開いた眼孔に、口の中で湿らせたガラス玉を私の中に、にゅるんと入れてしまいました。
「きゃ」
思わず目を閉じてしまいましたが、そ~っと開けてみます。
クロノさんは小さな手鏡を私の前に差し出してくれました、それを覗くと私の目がありました。
「クロノさん両目がありますよ! 見えませんが見た目は私の目になっていますよ!」
「はい、ただのガラス玉に擬装の魔法を付与しました、首は髪の毛が無事でしたので隠せますが、目は先ほどまでのガラス玉では一目見ただけで偽物とバレてしまいますからね」
クロノさんはその様な凄い魔法もお使いになられるのですね、素晴らしいですわ。
「そちらの服を洗っておきますからレアーお嬢様は、旅の疲れもありますからお休み下さい」
「まあ、よろしくお願いいたします」
濡れた服をクロノさんは私から受け取り洗い場の方へ歩き去ってしまいました。
そうですね、少し疲れているようです、少し休ませて頂きましょう。
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