第37話 へへ、さーせん
「てめぇら、いい加減にしねぇか!!」
「ゲフュ!」
「どごえっ」
とても大きな
二人は血が流れる唇を拭いながらおっちゃんの正体を口にする。
「お、親方!?」
「なんで!?」
どうやらこのひげ面で
彼は荒々しい声で二人を怒鳴りつけるが、逆に反感を買っている様子。
「なんでもくそもあるか! 馬鹿みてぇなことほざきやがって! そんなんだから彼女もできねぇし、女に話しかけることもできねぇんだよ」
「あ~あ~、言いましたね、禁句!」
「そりゃ、親方は可愛い嫁さんいますもんね!」
「そうそう、だから俺たちのことなんでわかりゃしないんだ」
「妻帯者は余裕がありますなぁ」
「ばっかやろう、冷静に考えろ。自分で言うのもなんだが俺がモテる男、イケメンに見えるか?」
「見えないっすね。顔怖いですし」
「お腹周りやばいですし」
「こいつら……まぁいい。今は腹に収めてやる。ともかく、なんでイケメンではない俺が可愛い嫁を貰えたのか不思議に思わねぇか?」
「はい、不思議だと思います」
「薬でも使ったんですか?」
「こいつら……殴らせろ」
親方と呼ばれたおっちゃんは岩のようなごつい拳を固める。
慌てて水夫たちは頭を庇いながら声を返した。
「す、すみません。調子こいてました!」
「続きを、続きをどうぞ!」
「まったく…………はぁ、いいか。水夫ってのはモテるんだよ」
「え、どこが?」
「俺たち全然ですよ」
「まだ新人だからだろ。今は新人だから収入はいまいちだが、三年もすればそこらにいる連中よりも高収入! さらに!!」
親方は衣服を脱ぎ棄てて両腕に力を込めると筋肉を膨張させ、
「毎日の肉体労働により、鋼のように鍛え上げられた、この筋肉!! 高収入で逞しい男! モテないわけがない!」
俺は彼らを尻目にアスカやシャーレたちに問い掛ける。
「そうなの?」
「そうじゃのぅ~、収入は大事じゃな。筋肉は人それぞれじゃろ」
「私はフォルスのように優しい人が……」
「逞しい人に魅力を感じるのはわかりますが、親方さんはちょっと盛りすぎですね。筋肉に脂肪がたっぷりですし。個人的には細いマッチョが好きです」
「男性の良し悪しは、収入や、肉体だけでは、ないと思います。ですが、それらもまた、魅力の一つだと、感じる人も、いるでしょう」
「結局、人それぞれってことか。でも……」
視線を三人へ戻す。
どうやら、親方の説得が功を奏しそう、と思いきや……。
「証拠は俺のかみさんだ。美人だろ」
「おお、なんという説得力! たしかにありえない組み合わせですもんね」
「そうそう! 親方みたいな野獣にはもったいない美人だもんな、奥さん」
「やっぱり殴らせろ」
「「さーせん!」」
「ともかく、わかっただろ」
「だけど!」
「でも!」
「な、なんだ?」
「「やっぱり下僕になるしかないんです!!」」
「なんでそうなるんだよ!?」
「だって親方、見てください」
水夫の一人がララを指さす。
「あんな美少女からキスをしてもらえる機会なんて後にも先にもありませんよ!」
「親方の言うことにも一理ある。だけど、僕たちは美少女からのキスというチャンスに人生のコインを張りたいんだ!」
そう言うと、水夫たちは首の
「さあ、ララ様!」
「遠慮なくキッスを!」
「いや、だから、キスじゃなくて吸血……」
「美少女の唇が肌に触れる。即ち、キス!」
「唇もまた肌。即ち、キス!」
再び、そろりそろりとララへ迫り始める水夫二人。
そんな二人へ親方は特大のため息をぶつけた。
「はぁ~~~~~、結局は下半身じゃねぇかよ。まぁ、若いから目先の欲望に素直になっちまうんだろうな。仕方ねぇ! おめぇら!
「お、おやかた?」
「ま、まさか、そのお店って」
「みなまで言うな」
「いいんですか?」
「奥さんにばれたら」
「行くのはお前たちだけだよ。大きな声では言えんが独身時代に世話になった店を教えてやる」
水夫たちは瞳を一瞬だけ輝かせるが、ちらりとララを見て顔を曇らせる。
「だけど、ララ様みたいな美少女じゃないだろうし」
「そうだよなぁ」
「馬鹿野郎、一級品の店だから安心しろ。パネマジ(※)なんて
※パネマジ=パネルマジック=パネル修正。プロフィール写真の加工を過度に行なっていることを指す。
「「おお~!」」
再び瞳を輝かせる。だが、またもやすぐに顔を曇らせて、二人は両方の人差し指を併せくるくる回し始める。
「で、でも、おれたち、その、なんていうか。経験ないですし」
「恥ずかしいし、それに馬鹿にされたりするんじゃ……」
「それこそ馬鹿野郎だぜ。ああいった店にはそんな男がごまんと来るんだぜ。そんなこと気にするわけないだろ。それにな、ちゃんと守秘義務ってのがあるから安心しろ。客のことをピーチクパーチクしゃべり倒すレベルの店じゃねぇ。一流だ!」
「それじゃあ!」
「ほんとに!!」
二人の水夫はか細い声で何やら会話を行う。
そして――
「俺たち、親方に一生ついてきます! よ、愛妻家!」
「やっぱり持つべきは良き上司ですね! よ、イケメン夫!」
ララへ顔を向ける。
「そういうわけでララ様、すみません」
「えへへ、僕たち兵士になれなくなっちゃいました」
俺へ顔を向ける。
「ふふふ、どうやら俺たちの方が大人の階段を先に上がりそうだな」
「へへん、甘っちょろい恋愛ごっこなんて子どものままごとだぜ。わりいなぁ、坊や。お先」
親方、ララ、俺は思う。
「調子のいい奴らめ、やはり殴るか?」
「なんで私が振られたみたいになってんの? 蝙蝠たちの餌にしていいかな?」
「いいんじゃないかな。俺もさすがにむかつくし」
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