第19話 一夜の夢
瞼を開けるとシャーレが仰向けに寝ている俺に
彼女は不規則な息遣いを漏らしながら、俺を見下ろしている。
「はぁ、はぁ、はぁ、フォルス……」
息遣いに混じり、
そこから伝わる甘く
俺は混乱に陥りながらも理性を全開に回して問い掛ける。
「シャ、シャーレ、一体どうしたんだ?」
しかし、彼女は問いかけには答えずお尻を押し付けるように体重を股下あたりに掛けてくる。
シャーレのお尻の柔らかさが、俺の太ももと下腹部に伝わる。
僅かに上下するお尻がもう一人の俺を優しく撫でる。
柔肌に挟まれたもう一人の俺の頭は薄布に
まさか、この柔らかさは女性の!?――こ、このままでは!
「ちょちょちょちょ、ダメダメ、ダメだって、さすがにこれはっ!」
「――っ!? フォルス……」
「え?」
シャーレの瞳に涙が浮かぶ。それはとても悲し気で儚いもの。
俺は彼女の名を小さく呼ぶ。
「シャーレ……?」
「お願いフォルス、私を拒絶しないで!」
しかし、俺の声は激しくもシャーレの沈痛な声にかき消され、彼女は俺の胸板にしがみつくように抱き着いた。
柔らなシャーレの肉体を全身で受け止める。
胸板に押しつぶされる二つ柔肌。
(うっそ、女の子の胸ってこんなに柔らかいのぉぉおぉ!)
今までもピタリと寄り添ってくるときにその柔らかさを感じていたが、今回のは段違い!
押しつぶされた二つの柔らかな肌からは今まで感じたことのない重量感を覚え、それを俺の胸が全力で受け止めている。
未知の感触に理性が吹っ飛びかけた。
今すぐシャーレを抱きしめて、その柔肌と香りを堪能したい!
だが! ギリギリで踏みとどまり、瞳を彼女へ向けようとするが……。
「あ……」
瞳は押しつぶされた二つの柔肌の隙間で止まってしまった。
思わず、ごくりと唾を飲んでしまう。
止まってしまった俺にシャーレはピタリと寄り添い、耳元で甘く
「はぁはぁはぁ、フォルス。私、私、私」
息を漏らすたびに胸元が小さく動き、そのたびに柔らかさに秘められた突起の部分が俺の胸板を刺激する。
時折、俺の突起部分とも触れ合い、さらに
――このまま、流されたい。委ねたい。抱きしめたい――
俺は両手をわなわなと動かして、シャーレを抱きしめようとしてしまう。
しかし、瀬戸際で踏ん張っている理性が、脳内でちっちゃな俺の姿を数人生み出してこう問いかける。
<明らかにシャーレの様子がおかしい。それを問うべき、考えるべきじゃね>
<シャーレと心を通わすことなく、情欲に流されて抱いてしまっていいの?>
<そもそも…………ここでやっちゃったら取り返しのつかないことになるんじゃないかなぁ>
(はっ!?)
肉欲が消し飛び、理性が上回る。
そうだ、仲間の様子がおかしいんだ。くだらないことに振り回されずそれを心配すべき!
彼女の想いにはっきり答えてもいないのに肉欲だけを求めるなんて最低だ!!
最後のは……本気で冷静に考えたらヤバいよね。責任取らなきゃいけないし……この部分が一番大きく意識しちゃって…………ないよないよ! そんな身勝手な!
一番最初のが一番大事!! そう、彼女は――
「仲間なんだからぁぁぁぁ! しかし~、うががぁがぁあ」
冷静な俺とは裏腹に、両手はばた狂いシャーレを抱きしめようとしている。
俺の両手なのに、まったく俺の言うことを聞こうとしない。なんて奴らだ!
両目を強く
「や、やめろ、頼むから俺の意思に従ってくれ。だけどだけど、この刺激は俺には強すぎるぅぅぅ~。だ、だめだ、耐えろ。俺! さぁ、シャーレを押し退けて説得~~~」
シャーレに身体を預けられ、死にかけの虫のように悶える俺。
このままじゃ痺れを切らしたシャーレに襲われてしまう。これはこれで情けない話。
そうこうしているうちに、数分は経ったような気がする。
しかし、一向に俺もシャーレも新たな動きを見せない。
「あああああ~…………って、なんか止まってる気がするけど?」
ゆっくりと瞼を開けていく。
瞳を開け切ったところで、おでこをぺチンと叩かれた。
「何やっとるんじゃ、おぬしは?」
「いたっ、な、何? あ、あれ、アスカ?」
アスカが仰向けになっている俺を覗き込むようにベッドそばに立っていた。
「なんで? あれ、シャーレ?」
「すーすー」
シャーレは俺の胸板に頭を預ける形で小さな寝息を上げている。
「ん? なに? どゆこと?」
「ワシが眠りの魔法でシャーレを眠らせただけじゃ。フフ~ン、良かったのぅ、童貞を守れて」
「お前が? って、童貞は余計だよっ。童貞だけどさ」
俺はそっとシャーレに触れて優しく横へずらし、上半身を起こしてからアスカへ顔を向けた。
「つまり、なんだ、お前が助けてくれたってことか?」
「そういうことじゃ。大切な童貞を守ってやったワシに感謝するがよいぞ」
そう言ってアスカは腰に両手を置いてぺったんな胸を大きく反って胸を張る。
「だから、童貞は余計だっての。まぁ、感謝はするけど。しかし、よくもまぁ、タイミングよく現れたな?」
「ああ、ワシがシャーレをけしかけたからな。故に、頃合いを見計らってやって来たのじゃ」
「は?」
「いやの、シャーレにな、ラプユスにフォルスが奪われるかもしれんぞ。さっさと奪わないとフォルスを持ってかれるぞ~とな」
「は?」
「というわけで、うまい具合にシャーレは夜這いを掛けて、おぬしはベッドの上でゴキブリのように悶えることになったのじゃ。なかなか愉快な姿じゃったぞ。あははは!」
アスカは腹を抱えて激しく体を震わせながら馬鹿笑いを上げている。
その不快な笑い声から視線を外して、断片的に得た情報から答えを組み上げていく。
(アスカがシャーレを煽った? なんで? いや、その前にこいつっ)
視線をアスカへ戻す。
笑い転げているアスカ。
彼女はシャーレが配下たちから裏切られて孤独になり傷ついていることを知っている。
だからこそ、俺の何気ない優しさを拠り所として、縋るように心を預けている。
アスカが何故こんな真似をしたのかはわからない。どんな意図があるのかは知らない。
ただわかるのは、アスカはシャーレの心の傷を利用した。
「アスカ……」
「あはは、ん? なんじゃ?」
俺はアスカの頭の両サイドから生えている山羊の角をむんずと掴み、激しく振り回した。
「お前な! やっていいことと悪いことがあるだろうが!!」
「あばばばばばば! や、っや、ややめるのじゃ。の、のうが振るえる~」
「人の心の傷をほじりやがって、うらうらうらうらぁ」
「あびゃびゃびゃびゃ~、す、すまん、悪かった! じゃから、角を持って振り回すのはやめるのじゃぁあぁぁ~」
「ったく!」
俺が角を手放すと、アスカは嗚咽を漏らしながら愚痴を漏らし始める。
「お、おうえ。気持ち悪い……ひどいことするのぅ」
「酷いのはお前だよ、アスカ! どんな事情があるのか知らないけど、シャーレは仲間だろ! 仲間を傷つけるような真似をするな!」
俺は声と視線に怒気を籠めてぶつけた。
するとアスカはぼりぼりと頭を掻いて、小さく謝罪を漏らす。
「……悪かったと思っておる。現状、こちらの手札が少ないゆえに、こんな下種な方法しか思いつかんかった。いや、言い訳もまた下種か」
彼女はしゅんとした様子を見せる。
反省の色を見せたところで、俺は彼女が何故このような真似をしたのかを尋ねることにした。
「なんで、シャーレを追い詰めるような真似を? それに手札って?」
「それはの、どうしてもおぬしと二人っきりになって話す必要があったからじゃ。じゃが、シャーレがいるとそれもままならぬ」
「二人っきり? それはシャーレに聞かれたら不味い話ってことか?」
「いや、話自体に問題ないが……まぁ、なんじゃ、その行為がな」
「はい?」
アスカは眉をひそめて微笑むという、何とも奇妙な笑顔を見せて、シャーレへ視線を振った。
「シャーレは強者じゃ。力の回復もままならぬワシではこやつの目を盗むのは難しい。故に油断を誘い隙をつくほかなかった。それも、生半可ではない隙を」
「隙? ――あっ、それが今回の出来事に?」
アスカはこくりと頷いた。
シャーレは俺がラプユスに奪われるのではないかと恐れて寝室へ潜り込んだ。
その焦りと、性への興奮。そして、俺に対する恐れ。受け入れてもらえるだろうか? 拒絶されたらどうしようか、という思い。
ぐるぐると巡る思考は混乱を呼び、それは隙を産み出す。
そして、こんなえげつない方法で隙を産み出した理由は――手札。
今のアスカでは正攻法でシャーレの目を盗むことができない。
だから、シャーレを煽り、油断を誘い、隙をつき眠らせることで二人きりで話せる場を作った。
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