第3話 身体作り

 魔法の試行錯誤と体を成長させるための日々は終わりを迎えた。

 六歳の誕生日を迎えたのであった。

 身体は少し背が伸びてガッチリしてきていた。


「今日からは基礎体力を付けつつ身体を作っていくぞ。まぁ、気長にやるぞ。終わりがあるわけじゃねぇからな」


「うーっす」


 返事がなんだか1年前とは違う。

 口の悪さが写っているようだ。


「じゃあ、まずは走ってこい」


「家の周りをっすか?」


「バーカ。森を走ってこいっつーんだよ」


「うっす」


 森の中に走っていく。

 魔法の練習で何回も上空に行ったことがあるので大体の森の規模も知っている。


 家の半径5キロくらいは森だ。

 だから、森を出るくらいまで走って戻ってくるといいくらいだと思ったのだ。


 大体一時間半くらい走っただろうか。


「はぁ。はぁ。戻り……やした」


「おし。じゃあ、腕立て伏せ十回を三セットやるか」


「うっす!」


 腕立て伏せを始めると十回はできた。

 けど、二セット目からはキツかった。


「がぁぁぁぁ」


 最後の一回が終わる。


「おーっし。次は腹筋。それも十回三セットな」


「う、うっす」


 やばい。

 この人鬼だ。

 腹筋……壊れそう。


「っ……はぁ。はぁ。はぁ」


「終わったな。少し休んだら次は体術だ」


「うす」


 十分程休むと。


「立て」


「うす」


 立ち上がると。

 拳が飛んできた。


 うおっ!

 何だいきなり!


 咄嗟に首を横にする。


「おぉ。よく反応したじゃねぇか」


 続けてジャブを放ってくる。

 スウェーしたりしてなんとか避ける。


「避けてばっかりだと勝てねぇぞ?」


 それはわかるけど……。

 自分もジャブを放とうとすると、タイミングを合わせてジャブが放たれる。


 うおっ!


 頬を掠めた。


 マジで鬼だこの人。

 タイミング合わせるなよな。


 軽く拳を前に出すフリをする。

 すると、ジャブが放たれ。

 避けながらカウンターのストレートを放つ。


「おぉっっ!」


 ビッと頬を掠める。


「クーヤ……お前やっぱ可愛くねぇわ。フェイント入れるなんぞ今日から体術やった奴は思いつくもんじゃねぇんだって」


「そうっすか?」


「クソ生意気な!」


 蹴りが放たれる。

 流石にガードはできない。

 咄嗟にしゃがんで避ける。


 ほっとした瞬間。


ドゴッ


「ぐっ!」


 足が腹に突き刺さっている。

 腹を抑えて蹲る。


 どういう事だ?

 避けたはず……。


「ハッハッハッ。ハイキックからの力を利用したバックスピンキックだ。良けれなかっただろう?」


 この人……大人気ねぇぞ。

 クソがっ!

 腹痛てぇ。


 黙って蹲っていると。


「あー。すまんな。痛かったか? 初日からちょっとやり過ぎたか……?」


「はぁ。痛いっすよぉ」


「動けるか?」


「なんとか」


「よしっ! クーヤも真似してみろよ。バックスピンキック」


 それから二時間程体術のスパーリングを行った。


「昼飯食うぞ。肉だ。鶏肉食え」


 これからトレーニング後は鶏肉を食べることになった。

 タンパク質を取ると筋肉が作られるんだとか。

 

 昼休憩が終わると次は剣術だ。


「剣は、振ったことあるか?」


「ないっす」


「じゃあ、まずは振り方からだな」


 ショートソードが渡される。


「これ、片手で振れるようになれ」


「うす」


 片手で持ってみると重たい。

 上まで上げるのでいっぱいいっぱいだ。

 振り下ろすと止めれずにフラフラしてしまう。


「うーん。まだしょうがねぇな。段々と振れるようになるしかねぇな」


「重いっす」


「だな。まだ筋肉もねぇから仕方ねぇ。ひたすらまずは、素振りだな」


「うす」


 素振りを続ける。

 無心に振り続け三時間は振っていただろうか。


「よーっし! 今日は終わりだ! 夜も肉食べて寝るぞぉ」


「うっす」


 こんな日々が毎日のように続いた。


◇◆◇


 ここに世話になってから十年経った。


キィンッ


 剣を弾いて首元に剣先を突き付ける。


「俺の勝ちっすね」


「チッ! 負けたかぁ。剣術で負けるとはなぁ。クーヤ。強くなったな」


「師匠のお陰っすよ。俺は師匠がいなかったら生きてねぇから」


「はっ。まぁ、俺のトレーニングによく付いてきたぜぇ」


「やるしか無かったっすからね。やらなきゃ強くなれねぇし、やらないっていう選択肢はなかったっすから」


「次は体術な」


「うす!」


 二人で向かい合わせになり構える。


「シッ!」


 師匠のジャブが飛んでくる。

 避ける。

 再び放ってきた拳に合わせてカウンターを放つ。


 ビッと師匠の頬を掠める。

 苦い顔をしながらハイキックを繰り出してくる。

 腰をおりお辞儀するように躱す。


 何時ぞやのように足が迫っていた。

 そのまましゃがみこみ足払いをする。


「うおっ」


 倒れ込んだ師匠の顔に拳を突きつける。


「俺の勝ちっす」


「クソが! また負けたか……お前いくつになったっけ?」


「十五じゃないっすかね」


「そんだけ強かったら冒険者には余裕でなれる。後は、実戦で実力を磨け。魔物を倒して冒険者ランクを上げろ」


「うっす!」


 師匠に勝てたのは素直に嬉しいわ。

 いやー。

 長かったな。


 気が付けば身体は大きくなりバッキバキ。

 身長は180センチほどで細マッチョな感じだろう。しなやかな筋肉に仕上がっている。


「おぉ。そうだ。身体強化だがよ、出力気を付けろよ? 間違って周りを巻き込んじまうかもしれねぇからな」


「うす! ちょっと調整の仕方を考えるっす!」


「そうだな。魔力ちょっとだけ巡らせれば良いだろうが……」


「そうっすね。ちょっと巡らせても……」


 岩をコンッと叩くとパァァァンッと木っ端微塵になる。


「こうなるんすよね……あんま使い所ないな……人に使ったら確実に死ぬよな?」


 頬をピクピクさせながら苦笑いしている師匠。


「俺、クーヤが怖ぇわ。勝てる気がしねぇ」


「ちょっ! 何ですか!? その発言! 止めてくださいよ!」


「ハッハッハッ! まっ、飯にするぞ」


 相変わらず飯は大体が鶏肉で。

 もう食べ飽きてるから食べるのも作業に近い。

 楽しんで食べるという感じじゃないんだよな。


 師匠も十年経って少し老けたけど、身体はまだまだ現役バリバリの冒険者って感じだろう。

 俺に教え始めてから酒を断っていた。


 しかし、今は酒を出してきている。


「師匠、酒飲むんですか?」


「あぁ。クーヤが家を出る祝いだ。お前も飲め。十五で成人だからな」


 エールがコップに注がれる。


「えっ? 家を出るって……?」


「これからは、家を出て冒険者になって世界を見てこい。いいな?」


「う、うっす」


 肉を頬張りながら頷く。


「俺からは卒業だ。昔の話だがな……俺にもパーティーを組んでいた時があった。男が三人、女が一人だった。一緒にトレーニングして一緒にプラチナ級まで登り詰めたんだ」


「へぇ。師匠もパーティーとか組んでたんですね」


「あぁ。だが、ある依頼の時だった。夜の見張りの番をしていた時だ。遠くの方で草がガサガサと音がしてな。慎重にその方向に向かっていったんだ。その時は何かいれば殺せばいいと思っていた。それ以外何も考えていなかった」


「もしかして……陽動?」


「はっ!……クーヤ。その時居たのがお前だったなら、アイツらは助かっていたのかもな……」


「じゃあ……」


「あぁ。そこら辺を縄張りにして巣食っていた十悪会という組織の奴らだった……。そいつらに俺の仲間は殺された。戻った時には遅かった。そこから俺は復讐に走り、片っ端から十悪会を標的に殺しまくった。ある奴らから狂人のダンテと呼ばれ始める程にな」


「十悪会……」


「そうだ。クーヤ。この話をしたのは何も俺の代わりに復讐してくれって言う話じゃねぇ。お前は……これから仲間も出来るだろう。決して、仲間を失うなよ」


 そう言うとエールを一気飲みした。


「お前も飲んでみろ」


 グビッと飲んでみる。


「ニッガッ!」


「ハッハッハッ! まだまだ舌はお子ちゃまだな!」


「は、初めてだからしょうがないじゃないっすかぁ!」


 師匠にそんな過去があったなんて知らなかった。

 師匠にとっても俺との生活は気が紛れてよかったのかもしれない。


「師匠、十年間。俺を育ててくれて有難うございます。俺、師匠に負けない冒険者になります!」


「はっ!……グスッ……生意気なんだよ……俺は寝る! 出る準備しておけよ!」


 去っていく後ろ姿が少し寂しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る