5

 「さっむっ」

 「う、みぃい🎵」

 「朝飯にパンはないと思う」

 「四枚も食っときながらゆうなよ」


 田舎道を海へ降りてゆく。


 「あら、きょうは三人?」

 「あい!」

 途中、オノロアサーフのおかぁさんに挨拶してゆく。


 「唐揚げはどうだったよ」

 「うまかったす、ありがとうございます」

 「いっとくよ。ユキちゃん、また持ってくよ!」

 「あい!」

 釣りから戻ってきたお巡りさんとすれ違う。


 「あれ! カイトも一緒?」

 海岸ではすでにヤンくんとパパがウォームアップをはじめている。


 きょうも海は眩しくて、穏やかに冬の朝の陽を弾いている。


 朝の海はいい。

 海にシンクロしている人だけがその場にいる。


 ヤンとカイトと別れてパパと陸トレに入る。

 オレのよこで雪はご機嫌だ。

 「いいぞユキちゃん!」

 「あい!」

 「重心ずれてるぞなんどいったら治るんだタカシ」

 「…す」

 いまのところ、雪がオレたちと一緒にできることはこの準備運動だけだ。

 そのあと、雪はノラ子かユリさんと、砂浜遊びに毎日励んでいる。


 「きょうは、ノンプッシュ、やるぞ」

 ショートエリアへ駆けてゆくカイトを眩しそうに目で追いながら、パパが呟く。

 「え、」

 つまり、じぶんで波を取れって、ことだ。


 「あいとぉ🎵」

 「ファイト〜」

 「ッフンッ」


 雪とユリさんとノラ子に見送られて海岸の左、ロングボードエリアへ向かう。ちょっと、緊ちょ、

 「ぶっ」

 て、パパ、突然とまんないでください、

 「ちょ、」

 「…、」

 「?、…っあ、」


 ロングボードエリアの砂浜にでかでかとあらわれた、その文字は、


 『タカシへ

 カレーありがとう

 カイト』


 「は、」

 向こう、海岸右手ではちょうどカイトがテイクオフを決めたところだった。


 枝みたいに細い腕を張って身を屈める。凶悪な目はさらに凶悪にゆくさきの波を見ている。


 『秘密なんだけど、計画がある』

 さくばん、寝しなにカイトがはなしていた。

 『波乗り上手くなって、ゆうくんみたいにプロになって金持ちになって、オレはママを迎えにいく』

 オレにはなしてどうすんだ、て感じだけど。

 『そしたらだれもなにも、いわないだろ?』


 ターンのさきで波に捕まり弾かれる。


 「下手だな」

 パパが、無表情に小さく笑う。


 「へっぴりだ」

 お巡りさんも笑う。目尻を皺くちゃにして。


 カイトのことを、みんなが見ている。


 みんなカイトのことが、大好きだ。


 そうだろう?


 Life is,

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