Beautiful!

ようこそ、下田へ!

1

 伊豆急下田駅をでて、立ちすくむ。


 閑散としたロータリーを乾燥した冬の風が吹き抜ける。


 いやいや、これ、おかしくね?


 波乗り、と、聞いてイメージしていたものはなにひとつ、伊豆急下田駅にはなかった。


 ただ、プーペープーペー煽ってくる信号機にあわてる腰の曲がったおじいちゃんがいるだけだ。


 寂れた土産屋と錆びたスーパー、でっかい魚の看板を背負った干物屋だけがやたらと立派だ。


 いかつい真っ黒な船のレプリカと湧きだす温泉。


 『ようこそ! 下田温泉』


 土産屋に吊るされた季節外れのアロハシャツがすごく寒い。


 塗装がはげたターミナルには昭和感あふれるくすんだオレンジの回送バスが一台きり。仕事する気なんかこれっぽっちもない。


 軒を連ねるサーフショップも

 浮かれたハワイアンカフェも

 タトゥーを入れたにいちゃんも

 おっぱいのデカいねぇちゃんも


 ない。


 つか、まだ春じゃん。波乗りて夏の季語だろ。


 オレ、なにか間違えた?


 きょうの着替えしか入ってないスポーツバッグを抱えなおして途方とやらにくれてみる。


 「うぁぁぁぁぁぁあっ♪」

 どうやらこの状況を気に入ったらしい『チビ』だけは奇声をあげてご機嫌だ。

 つないだもみじ饅頭の手を愉快そうにふり回している。

 けど、にいちゃんは残念ながらもう高二でしかもワビもサビもわからんバカだから、なんだか残念感しか湧いてこない。


 「雪、なんかにいちゃん、間違えたぽいわ」

 「うぁぁぁあっ♪」


 ポッキー頬張りながらオレを必死に土産屋に引っ張っていこうとする愛おしいチビ…雪がご機嫌なことだけが、兄貴としてのせめてもの救いだった。

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