大魔王ディアボロス殺人事件 ⑤

「犯人……わかったかもしれないです」

「「「えええええええええええぇぇぇぇぇ!?!!!!!?!!?!?!?!?」」」


 夜は11時のサンライズに3人の驚きの声が響き渡る。


「ななななんでそれを言わなかったの西宮ちゃん!」

「……いやその……仮説なんですけど」

「仮説でもなんでいいから話せ! こちとら警察だぞ!」

「はっはい……」


 2人の剣幕に西宮はオドオドしながら話す。


「中村さんが殺された現場をちょっと見ただけなんですけど。中村さん、超電光グリッターのマスクを持っていたじゃないですか。あれ、なんでなんだろうってちょっと気になってたんです」


 西宮は話を続ける。


「そしたら、ふと思ったんですよ。。って」

「ダイイングメッセージ……か」

「だって、襲われるって時にあんな武器みたいな物が沢山置かれてる倉庫で武器じゃない超電光グリッターのマスクを手に取るなんて普通やりませんよ。もし私が殺されるなら、ハンマーとか、せいぜい盾とかそういうものを手に取るはずなのに。中村さんはマスクを持ったから」

「早く犯人を言いなさいよ」

「はっはい! もしかしたらなんですけど……は、犯人は……」


 西宮には次の言葉に詰まってしまう。

 皿を洗い終えた東間は西宮の言葉を代弁するように呟いた。


「超電光グリッターの主役、秋山剛……ってか」

「……はい」

「まぁそれなら、西宮の言う通り、中村さんの残したダイイングメッセージが証拠になる。だがあいつには動機がねぇ」

「……ですよね。やっぱり素人の推理じゃ当たりませんよね」


 西宮は目の前のコップの水を飲み干し、サンライズの扉を開ける。


「では、私はこれで……」

「待てよ」


 呼び止めたのは東間だった。

 西宮は手を止め、振り返る。


「……お前のやってることは、間違ってない。本当は知ってるんだろ? 秋山が中村悠二とプロデューサーを殺す動機が」

「……そ、そんなわけ」

「お前の求めてる正義のヒーローってそんな嘘つくか?」

「……えっちょっ、いきなり何」

「別に嘘は悪くねぇ。でもよ、目の前で困ってる人が居るのに、見過ごす気か?」

「……べっ別にあなたに言われる筋合いは無」

「俺は見過ごして、

「……えっ」

「……手を伸ばせば、助けられたのに。伸ばさなかったから。後悔するぞ」


 西宮は正直、そうだと心の中で思った。

 あの時の言葉が彼女の心の中で錠と化しているのを、東間は見抜いていた。

 あの時、手を伸ばしていれば、幸せになったかもしれない人がいる。

 そんな人を見たような、見なかったような。

 しかし今となってはどうでもいい。

 今自分の目の前には、手を汚そうとしている人が居る。

 それを止めなければならないと確信した。


「……来てくれますか」


 東間はエプロンを脱ぎ、答えた。


「当たり前だろ」


 西宮の目には、涙が浮かんでいた。



 そして、数時間後。

 草木も眠る丑三つ時の事。

 路地裏で禍々しい殺意を濁らす何者かが、とある人物をつけていた。

 何者かは、息を荒らげ、刻一刻と迫る人物を待つ。

 もう後戻りなど出来ない。

 自分が好きだったあの人を、まるで道具の様に捨てたアイツを……殺してやる。

 そう覚悟を決め、動き出したたその時である。


「やめろ」


 後ろから誰かが声をかけてきた。

 背筋が凍りつき、後ろを振り向くと、そこにかざされたのは警察手帳だった。


「日向署刑事課兼特殊捜査課の南碧です」


 何者かはすぐに逃げ出した。

 しかし、東間が背後から右腕を掴みそれを背中へ回し、押さえつける。


「同じく客員の東間です。もう観念しろ。秋山剛」


 秋山は東間から離れようともがくも、中々離れられずにいた。


「……離せ」

「離すかよ、これから殺人をしようとしてるやつに」


 すると、西宮が秋山の元に駆け寄る。


「もうやめてよ! 剛君!」


 西宮はそう問いかけるも、秋山は東間の腹に肘鉄砲を放ち、鳩尾に命中させる。

 東間の肺から空気が抜け、咳き込む東間をどかし、秋山はナイフを西宮達に突きつけ、距離を作り出す。


「来るな!」

「……どうして。なんで、1年間……ずっと、撮影してきたじゃん……」

「ああ、そうだ。俺もこの仕事は好きだった。でもなぁ、あいつらは! 父さんを事故と見せて殺したクズなんだよ!」

「……えっ」


 秋山は語り始める。


「俺の父さんはな……すっげぇ俳優だったんだよ……でもある日事故で死んだって言われたんだ。元々お父さんはアクションとかをしていたから仕方ないって思ってた……でも! 1週間前、俺は……」


 1週間前の事。

 秋山剛は監督達との打ち合わせを終え、会社から帰ろうとした時の事だった。

 監督と中村悠二とプロデューサーの3人が何かコソコソと話していたのだ。


「全く……何とかなったな」

「あの人の息子って言うから事情を知ってるかと思うとつくづくゾッとした1年だったよ」

「まぁ仕方ねぇだろ。アクションの事故なんてつきもんさ、まぁ替えも出来たし、


 プロデューサーがそう言うと、彼らは軽く笑いながらコーヒーを飲んでいた。

 俺は、拳を握りしめ、決めた。


 あいつらを殺してやると。


「……そんなの、間違ってるよ」


 西宮はそういうと、ナイフを持つ秋山の手が少し緩んだ。


「……そんなの、あなたのお父さんは求めてたの?」

「……」

「復讐なんて……また恨みを作るしかない……」

「西宮、あんたの正義づらにはうんざりするよ……もう引き返せないんだ……」


 ナイフを持つ秋山の手はより強くなる。

 しかし、西宮はひるまない。

 いくら他人から見せかけの正義と言われようと、西宮は後ろに引かないと。

 心に決めたから。


「……正義づら、させてもらうよ」


 西宮は腰に手をかざす。

 すると、何やら黒いバックルのような物が浮かび上がる。

 そこから両手を前に交差させ、右に両手で十字を作る。


「……変身!」


 西宮の言葉と共に、彼女は影に包まれる。

 そして、影を突き破り現れたのは、碧がさっき見た、英雄の姿だった。


影乃英雄シャドウ・ヒーロー……」


 東間はその姿をそう名付けた。


「秋山くん……あなたを、影から助け出すから」


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