僕の夢と見えない未来。全てを失うあいつの贋作、最後に嗤うは宿る闇。
冴木さとし@低浮上
第1話 美術館 ~向日葵は如何にして向日葵なのか~
「
「はい。ごめんなさい。」
と言って立ち止まりシュンと俯く。
そんな正樹を見て正樹の母、
「まぁまぁ、あなたもそんなに怒らないで。正樹、ここは貴重な作品がたくさんあるから、それをじっくり見る場所なの。走り回る場所じゃないのよ?」
と優しく諭す。
「素敵な作品がいっぱいあるから正樹もきっとお気に入りの作品が見つかるわよ。」
と母はにっこり笑って正樹の頭を撫でる。
正樹は機嫌がなおったのか大きな声で
「はーい。」と返事をする。
「正樹、ここは美術館だから静かに!」
「まぁまぁ、あなたの声の方が大きいわよ?」
と小声で注意され脇腹に肘鉄をくらう父なのであった。
美術館は厳かな独特の雰囲気を醸し出しており人はたくさんいたが作品を見るのに困らない程度の空間はあった。
警備員も配置されていて入口付近には美術品関係の小物やハガキ画材等の販売もしているようだった。
正樹は目はくるくるまん丸で絵を見る度にコロコロと表情が変わった。好奇心旺盛で無邪気な子供だった。
美術館には両親に連れてこられたのはいいものの静かにしていないと怒られるのでここから早く出て他の所に気持ちもある。
だがいつも忙しくて遊べない両親と一緒にでかけるのは久しぶりでどうしても浮かれてしまっていたのだ。
「誰の絵を見るの?」
と正樹は父に問いかけた。
景隆は眼鏡をくぃっともちあげ、最近ちょっとでてきたお腹をさすりながら咲夜に同じ質問をする。
気持ち小さめの背丈で黒髪の奥ゆかしい日本女性といった感じの咲夜は
「入口に書いてあったでしょ。印象派の画家たくさんかしら?」
「「印象派の画家?」」
と正樹と景隆の声がハモる。咲夜は
「きっと私好みのいいのがあるわよ~。」
とスキップでもするのではないかというくらい軽やかに歩く。
絵画の前には紐がはってあり、あまり近くに近づけないようになっていた。それでもぎりぎりまで近寄っている人は多い。
見に来ている人も子供からお年寄りまで様々な人が来ているようだった。
咲夜は絵の前に立ち止まり説明文を読んで絵を見て納得したりもう一度説明文を読んで頷いたりしていた。
気になるところはじっくり見て細かい描写、タッチを見てはその技術に感動していた。
たまに絵から離れて全体を把握し近づいて凝視したりしていた。 正樹はそんな咲夜のしていることを真似ていた。咲夜が離れれば同じように離れ、近づけば近づく。
よく分からなかったが咲夜と同じことをすれば何か分かるのかなと思ったからだった。
景隆は絵画に興味はないので椅子に座っていた。
ひょこひょこと正樹が咲夜のあとをついて歩く。そんな正樹と咲夜がかるがもの親子のように見えて微笑ましく眺めていた。
正樹と咲夜がいてこその絵画展というのが景隆の考えだった。言うなれば正樹と咲夜がメインで絵画展はおまけ以外の何物でもなかった。
2人が喜んでいるならそれで充分だったので椅子に座ってゆっくりしているのだった。
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