第19話
「え……」
思わず固まってしまう。
「やよいさんに旦那さんがいるってこともわかってます」
「星蘭ちゃん……それは……」
「やよいさん、この間、『初めから誘うわけない』って言ってましたよね? もう二回目なんですけど、誘わないんですか?」
「ちょ、ちょっと、何言ってるの?」
確かに、前回私がそう言ったのは確かだけど、でも。
「やよいさんは、私のこと、どう思ってるんですか?」
星蘭ちゃんは、まっすぐに私の目を見てそう言う。もう、逃げるわけにはいかないんだ。
だってもう、私たちはどうしようもないところまで来ている。二人きりで水族館デートをして、こんなふうに漫画喫茶にまで来てしまって。
ううん、それ以前に、私が星蘭ちゃんに惹かれているのも事実で。
言葉のうえで想いを通わせるだけじゃ我慢できなくて、その先へ進みたいと、触れたいと想ってしまっていることは疑いようのない事実で。
もうとっくに、言い訳の出来ないことになっているのは、間違いないのだ。
「星蘭ちゃん……私、も」
言葉が、上手く出てこない。
もっとしっかりしないといけないって、わかっているのに。だけど、精一杯、言葉を引っ張り出す。ちゃんとしないと、星蘭ちゃんにも申し訳ないから。
「私も、星蘭ちゃんが、好きだよ……」
言い終わるなり、私の目からは熱いものがこみ上げてくる。それは雫になってこぼれ落ちて、後から後から、止まらなくなってしまう。
「ごめん……私、こんな……どうしちゃったんだろ」
「やよいさん……」
急に泣き出した私をみて、星蘭ちゃんは驚いたというような顔をしている。
だけど、次の瞬間、私の頭は何か柔らかいものに包まれる。
「星蘭ちゃん……?」
それは星蘭ちゃんの胸だった。泣き出した私に腕を伸ばし、ぎゅっと抱きしめてくれたのだった。
「混乱、させちゃってごめんなさい」
抱きしめられたまま、そう囁かれる。あの艶々した声で。その声を聴いているだけで、私の耳は、身体は、おかしくなってしまいそうだった。
「大丈夫ですから……。私、やよいさんのこと、好きですけど。好きだからこそ、傷つけたくないんです。間違いを犯させて、苦しめたくないんです」
星蘭ちゃんは優しくそう言う。
十歳も年上なのに、こんなふうに諭される自分が情けない。でも、この腕の中にいつまでもいたい、なんて身勝手な気持ちも沸いてきてしまう。
「でも星蘭ちゃん……私……もう」
取り返しがつかないところまで来ている。そう言おうとしたのだけど。
「大丈夫です。私も……同じですから」
そう言って、星蘭ちゃんは笑う。
「でも……ごめんなさい。ひとつだけ、わがまま言ったら、だめですか?」
「え……?」
「私の……初めては、やよいさんが、いいです」
恥ずかしそうに、上目遣いでそう言われてしまったら、もう。
我慢なんて、できるわけがなかった。
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