琴陵姉妹の異世界日記
もっけさん
ハルモニア王国 始まりの町
第1話 異世界に誤招待されました
私の名前は、
初対面の人は、必ず読み方に詰まる。
遠い祖先に神職だった人がいたらしく、生まれる女児には時折、異能を持って生まれてくる者がいる。
縁結びと縁切りの両方を授かるが、私は縁結びの力を、双子の妹は縁切りの力を持って生まれて来た。
物心ついた頃には施設で育ち、小学校に上がる頃に親元に戻されたが、結局経済的な事情で養えないと高校を卒業するまで施設で育った。
家業の業績が落ちたのは、腹違いの実兄から度重なる性的悪戯から逃れる為に、悪縁を結んで軒下に住んでいた白蛇を追い出したからだ。
後で知ったのだが、同時期に妹の
悪縁結びと縁切りで、両親は離婚して不義の子である実兄は母に引き取られ、私と妹はどちらも引き取り拒否をしたため施設戻りとなった。
今思えば、それが人生の
親類縁者と殆ど顔を合わせる事もなく、高校を卒業して上京し、小さなアパートを借りて二人暮らしを始めた。
私は大手通信会社のお客様窓口で日々クレーム対応で日銭を稼ぎ、妹は金融関係のコールセンターで働いていた。
朝早くから夜遅くまで不定期な休みとシフトに心身が摩耗し、自分が病気である認識すらなく能面で機械のような喋り方で応対する私に二度目の転機が訪れた。
毒母が死亡だのだ。
余命宣告から十年、毎回死ぬ死ぬと心臓発作を起こしてはゾンビのように蘇生する毒母を心底疎ましいと何度思ったことか。
妹が縁を切っても、気が付くとロープくらいの太さの黒い紐が小指に巻き付いているのである。
自宅の住所も電話番号も教えていないのに、どこから調べたのか電話が掛かってきた時は速攻で着信拒否にしたが、手紙攻撃が酷くて三度ほど引っ越しをしたものだ。
毒母の訃報を聞いて、不謹慎ではあるが妹と祝杯を挙げて小躍りしたものだ。
丁度、働いていた職場の上司に粘着質なパワハラを受けて、ストレスゲージがMAXを振り切っていたこともあり、古巣に戻ることを決意した。
故郷と言っても帰る場所はないので、引っ越し前に世間知らずな私達の面倒を見てくれた自称占い師・
入居後に瑕疵物件だと知り、一年ほど妹と私と存在Xとの生活を送る羽目になった。
新しい仕事も見つけ、
事実は小説よりも奇なりというが、それを実体験すると誰が予想できようか?
神様は、そんなに私のことが嫌いなんだろうか?
仕事帰りの駅のホームで、隣に立っていた男の子が駅のホームに飛び込んだ。
咄嗟に彼の腕を掴み引っ張った拍子に、自分がホームに落ちる。
その瞬間は、やけに遅く感じた。
ああ、空は青いな。
このまま、私は死ぬのだろうか?
そんなことを考えていたら、私は真っ黒な空間に居た。
「は?」
地面がなく、浮いているのか、寝ているのか、分からない。
ただただ、真っ暗な空間に白くて丸い物体が居た。
「Hello World! Welcome to Saies♪」
白くて丸い物体は英語を喋った。
「発音うまっ! えっと、ハローで良いのかな? あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ! ゆーきゃんすぴーくジャパニーズで良いのかな? OK?」
発音がなってないなんて指摘は受け付けない!
丸い物体を指さして日本語喋れと命令してみたら、あっさり日本語で返された。
「何その下手くそな発音。英会話と言うには、おこがましいよ。僕は、男の子を召喚したはずなのに。何で君が、ここに来ているわけ?」
「私が聞きたいわ! ここは、死後の世界でOK?」
あの状況だと、私は死んでいる。
だから、死後の世界だろうと当たりをつけてみたのだが、丸い球体はブッブーッと言った。
「召喚したって言っただろう。サイエスという世界に君は手違いで召喚されました」
どこからか、ドンドンパフパフと間の抜けた音が聞こえてくる。
一応は、歓迎されているのか?
扱いが雑なのは、イラッとくるが我慢だ。
「質問しても良いですか?」
「へぇ、この状況でよく落ち着いていられるねぇ。まあ、良いよ」
子供っぽい感じだが、聞こえてくるのは女の声。
先程の不貞腐れた感じではなく、面白そうな様子が伝わってくる。
「間違って呼ばれたなら元の場所に帰して貰えますか?」
「無理だね。召喚は、あくまで一方通行だからね」
バッサリと希望を切って捨てられた。
召喚したと言うのならば、召喚者に対して何等かの目的があるはずだ。
私は、クレーム対応時の声色で質問を続けた。
「何のために召喚したんですか?」
「娯楽のためさ。最近、異世界転生とか流行っているみたいだし。ちょっと面白そうだからやってみたかったんだよねぇ。でも、呼ぶ相手は間違えるわ。使えない相手を召喚しちゃったわで、本当大損だよ。神通力返して欲しいよね」
何とも下らない理由で呼び出されたもんだ。
目的がないのに、召喚とか無いわぁ。
「手違いで呼び出され、帰ることも出来ない? そういう事ですか?」
「うん。そうなるね」
ここで適当な対応をすれば、後々私の生死が左右される。
慎重に事を進めなければ、直ぐに死んでしまうだろう。
「要は、召喚者が異世界へ渡った先で面白い事を起こせば満足なんですよね?」
「う~ん、概ね合ってるかな?」
「なら、誤って召喚された私がサイエスに行って、面白い事を引き起こします。手違いで連れてこられたので、私の要望を三つ聞いて下さい」
数秒の沈黙の後、私は丸い物体に取引を持ち掛けた。
「そうきたか。ここに、君を捨ておくと後々問題になるし。そのまま放り出しても良いけど、それはそれで面倒臭いことになるか。……まあ、良いよ。強力なスキルは与えられないよ」
「構いません。それで、サイエスとはどんな所なんですか?」
よし、第一関門はクリアした。
「君の居た世界とは異なって、魔法や魔物が存在する世界さ。有名なMMORPGをモデルにして作った世界だからね! 魔法は英語が基本になっているし、君の下手な英語では発動すらしないよ」
球体は、私の英語力を嗤っている。
ヒアリングもリスニングも出来ない、英語を覚える気の無い私は発音前に文法で躓いている。
強力なスキルよりも、汎用性の高いスキルの方が良い。
「決めました。一つ目は、あらゆる言語を操れる能力でお願いします」
「ビギーナー特典として、サイエスでも通じるように言語最適化と鑑定とアイテムボックスも付けてあげる。君が望むスキルは何だい?」
「ありがとう御座います。遠慮なく一つ目は、地球で購入した私物を異世界でも自由に使えるようにして下さい」
「確かにあっちの世界では珍しい物だけど、本当にそんな能力で良いの?」
「はい。二つ目は経験値倍化、三つ目は成長促進でお願いします」
「戦闘系や魔法系のスキルじゃなくて良いの? 直ぐ死ぬよ? まあ、それが君の希望なら良いけどさ。じゃあ、僕の世界サイエスへ転送するね。僕を楽しませてくれることを期待しないで待っているよ!」
その言葉と同時に丸い物体が眩い光を放ち、私は思わず目をギュッと閉じた。
光が和らぐのを感じ恐る恐る目を開けると、そこはだだっ広い草原だった。
空を見上げると、羽の生えた魚が泳いでいる。
確かに異世界だ。
「さて、帰る前に自分を鑑定してみますかね」
私は、ドカッとその場で腰を下ろして自分に鑑定を掛けた。
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