第3話:アベルはリリスの、その細い身体を両手で抱きすくめてしまった・・

カインは十七歳に、

アベルは十五歳に、なった。


二人とも、もうい若者である。

十七歳のカインなど、

もう一人前と言ってよかった。


さて、

十五歳のアベル、である。


五月のよく晴れた、安息の日、

アベルは河原にいた。


彼は川面かわもにみずからの姿を映し、

物思いに沈んでいた。


そこには、

子供から、どんどん大人へと近づきつつある、

若者の姿があった。


まだ大人になりたての、

線の細い、たよりなげな印象は否めなかったが、

背も高く、

優美な容貌と相まって、

ついこの間まで子供扱いにしていた集落の女たちも、

頬肌ほおを赤く染め、

好意的な笑みを浮かべて、何事か囁きあった。


しかしみずからの姿を水面みなもに浮かべるアベルは、

浮かない表情かおをしていた。


成長するにともない、

子供だけが持つ柔らかな肌や髪、

稚気いとけなき頬肌ほおのラインや、

小さな身体からだ、――


そう、

を失ってくのが、

なんだか、少しだけ辛かった。


少しだけ、……


しかしアベルは揺れる水面の中で、

みずからの頬肌ほほに触れ、

子供時代の面影を、その残滓を、やはり探さずにはいられなかった。


もう、

可愛らしい顔や、

きれいな身体を示すことで、

大人に護ってもらう必要など全く無い筈である。


しかしその、

みずからの容貌・肢体の美しさに対する希求は、

無くなったりはしないのだ。


そこに、

一人の女の子がやってきた。

女の子の名前は、リリス、といった。

―― 十四歳。

アベルの、一つ歳下だった。


二人は、よく似ていた。

リリスは、アベルの従兄妹いとこにあたる子だった。


「髪の毛、編んでるの、きれいだね」


アベルは、思っていることをそのまま口にした。

生成り色の細い布を、

栗色の髪と一緒に編み込んでツインテールにしていた。

それが、とても可愛らしかった。


がんばってお洒落して、

ついこの間までほんの子供だったのに、

やっぱり女の子なんだ、いいなあ・・


―― うらやましい。


そう思った。


リリスは、顔を赤くした。

頬肌ほおも、眼のまわりも、おでこまで真っ赤だった。

普段は内気であまりしゃべらないアベルに、

急にそんなこと言われて、

とても恥ずかしくなってしまったのだ。


「ありがと・・アベルも、背が高くなって、その・・かっこよくなったよ」


アベルは、リリスを見た。

リリスは、兄のカインにも、そして自分にもよく似ていて、

もし自分が女の子だったら、

男っぽく変わったりせずにあのまま成長していたら、


―― こんなだったのかなあ?


そう思った。


十五歳の自分より、頭ひとつ背の低いリリスの、上から見るその、ツインテールの分け目が、ひどく可愛らしく思えた。また、その華奢で、子供のような小さな身体が、余りに愛しくて、アベルはリリスの、その細い身体を両手で抱きすくめてしまった。


想像していたよりもずっと、その少女の身体は、小さくて、細くて、華奢で、そして柔らかくて、アベルは、リリスに、夢中になってしまった。











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