第3話‐私の推しの彼氏の話

「え、佐川くんってそっちなの……?」


 勿論、同性愛については否定しないけれど、驚きがデカかった。去年、クラスが一緒になったときに一度だけ、席が隣になったことがある。


「そっちっていうより、侑大はバイなだけだよ」

「……でもちょっと納得かも。佐川くん、彼女いる噂ないもんね」


 席が隣になったときに、クラスの男子が佐川くんに彼女の話を持ち出していた。その時佐川くんは確か、興味ないみたいなことを言っていた気がする。


「侑大、女子に人気じゃん? だから、あんまり女子と交際したい! っていう気持ちはないみたいなんだよ」

「あぁ……。学校のちょっとしたイベント、大騒ぎだもんね」


 やれ体育祭だ、文化祭だ、学校行事では先輩後輩関係なく、そこは戦場だ。クラスの女子は、とりあえず自分を認知してもらおうと積極的に話しかける。席替えだって、女子は命がけ。


「俺は侑大が元からバイだってのを知ってたし、ダメ元で告白したんだよね。そしたら、お前ならいいよってOK貰ったの」


 そういって満面の笑みを浮かべる近藤くん。純粋なその笑顔が、あまりにも眩しかった。あぁ、これは間違いなく恋をしている人の笑顔だ、そう実感した。


「そうなんだ!」

「でもね。俺らどっちも同性と付き合うの初めてで、しかも人目があるからさ、どうお付き合いをすればいいかわからなくて。学校だと親友みたいに見えるから絶好のチャンスなんだけど、侑大は、女子に人気じゃん?」


 そこまで聞いて、悩みのおおよそを理解することができた。カップルとして、出かけたとしても、同性二人という点で、人目を気にしてしまう。カップルらしいことをしたい、と思っても気が引けてしまう一面がある。

 学校で二人で移動したり、昼食を共にすることは、同性二人やっていても珍しいことはない。むしろ、仲いいなあいつら、というくらいの印象でしかない。しかし、問題となるのは、佐川くんが女子にモテるというところだ。休み時間、女子にすぐ囲まれてしまう彼と、二人きりという場面を作るのは難しい。


「……なるほどねぇ」

「来週の土曜、二人で出かけようって話してんだけど、どこに行こうかって話になって、全然進んでないんだよ。どうしよう、このままじゃデートそのものが延期になっちゃう」


 そう言いながら近藤くんはストローを回す。結露したグラスの中で、小さくなった氷たちがカラカラと音を鳴らして踊っていた。


「男子二人で、楽しめる場所……。人がいない方がいい?」

「人がいなかったら、いないで、目立っちゃわない?」

「そうだよねぇ……」


 二人で頭を抱えながら、あーでもない、こーでもないと提案しては、近藤くんが首を横に振る、の繰り返しだった。


「あ、それだ」

「え、何?」


 私は店内に掲載されていた、イベントのチラシを指さした。


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