三次元の推しが腐男子だったし、彼氏がいた
@Saya_210
第1話‐私の推しの話
私、宮野ほまれには、推しがいる。
今時、二次元にしろ三次元にしろ、推しという言葉は普及していて、「私の推し、この人なんだよね~」という会話はどの界隈のオタクでもするものだ。
しかし、推しを持つオタクの中でも私の場合はかなり稀有な部類に入るのではないか、そう思っている。
私の推しは、同じクラスの近藤政人(こんどう・まさと)くんだった。
私は、同級生のオタクをしている。別に、近藤くんは芸能事務所に所属しているモデルやアイドルなんかじゃない。ただの一般人。普通はアイドルや漫画のキャラクターに向けるような感情を、向ける私は特殊な人間なのだろう。
恋愛感情かと聞かれれば、それも違う。近藤くんと付き合いたいわけじゃない。どちらかというとこの感情はLoveではなく、Likeの感情なのだろう。
そんな私だが、実は生粋の腐女子である。
今日も今日とて、大好きなBL漫画の最新刊を買うため、駅前の本屋に足を運んでいた。いつも通り、迷わずBLコーナーへ向かえば、見慣れた姿がそこにはあって、思わず声を漏らした。
「近藤くん……?」
「えっ、宮野?」
そこにいたのは、私の推しでもある近藤くんだった。
手に持っているのはBL漫画。私が買おうとしていた作品でもある。ちゃんと最新刊だし。
「え、近藤くんその本……」
「宮野って腐女子だったのか……?」
「いや、うん。まあ、そうなんだけど……」
私が腐女子であることは、公言していない。クラスの仲のいい一部の女子しか知らない。そして、その友達はBLというものに理解があるだけで、腐女子ではないのだ。躊躇いながらも、腐女子であることを近藤くんに伝えれば、彼は目を輝かせた。
「俺、実は腐男子なんだよ。この本、めっちゃ好きなんだけど、宮野は?」
「え、そうなの⁉ 私も好きだよ!」
今近藤くんの持っている本、『彼女じゃなくて彼氏が欲しい』は私が最近ハマっているBL漫画だった。クラスで女子に人気な主人公。しかし、彼の恋愛対象が女性ではなく、男性である。片思いしている男性に振り向いてもらえないし、自分が同性愛者であることを告げることができない苦悩が、応援したくなってしまうのだ。
「なぁ、宮野。俺が奢るからちょっと相談に乗ってくれない? カフェとか行こうよ。この後時間ある?」
「え、大丈夫だけど……。私も新刊買いたいからそれだけ買わせて」
「じゃあ、本屋の出口に集合で」
推しからの誘いなんて断るわけがない。そう思いながら、新刊を手に取る。出口に向かえば、近藤くんは先に待っていた。
二人で近くのカフェに入る。メニューに目を通して私はカフェモカ、近藤くんはアイスコーヒーを注文した。
「それで、相談って?」
そして、語られたのは衝撃の事実だった。
「俺、彼氏がいるんだけど、恋愛相談に乗ってほしくて。同性愛に理解のある人にしか相談できないんだ! お願い!!」
推しに、彼氏がいる。そのインパクトが強すぎて、私はしばらくの間、話が理解できなかった。
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