第14話 決して?
最近、段々といろんな噂が少なくなっていき、やっと日常を取り戻しつつある今日この頃。
だが、最近はより頻繫に見られているという感覚に陥ることが多くなったのは気のせいではないと思うけれど、徐に振り返ってみたりしてみるが誰もあやしい人は見えない。
相変わらず、霧姫さんが視界に移ることが多いような気がするけれど、それはどうしてかは分からない。
多分、霧姫さんと図書室での関係がまだ続いていて、もしかしたら友達になれるのではないかという希望を持っているからかもしれない。
さて、そんな今日この頃だが.........
「再来週には、体育祭がある。今から種目を決めていくから、やりたい競技に手を挙げてー」
そう、再来週には体育祭が控えているのだ。
「春夏ー、何にするの?」
「うーん、何にしようか」
「春夏、意外と足速いしリレーとか100メートル走とか出てみたら?」
「それも、ありだね。別に他にしたいことも無いから、やる人がいないのならリレーに出ても良いかな」
各々がやりたいことものに手を挙げていき、やはり余ったものはリレーだった。
枠が三人分空いている。
「先生、僕、やる人がいないならリレーに出ます」
「お、赤塚。本当にありがとうな。毎年、やりたがる人が出てこなくて決まらないから。あと二人ー、出る人いない?」
まぁ、誰もリレーなんてやらないだろうな。面倒くさいし、陸上部の人と勝負するなんて面倒くさいし、負けたくないもんな。
「.........私やります」
そんなことを思っていた矢先に冷たい、最近では割と聞きなれてきた声を耳にする。
「霧姫、本当にでるのか?」
「はい。それとも、私は出ない方がよろしいのでしょうか?」
と冷たい絶対零度の視線を教師である冴島先生へと向ける。
「い、いや、出てくれるのならばとても助かる。それじゃあ、あと一人ー」
まさか、霧姫さんがリレーに参加するなんて思ってもみなかったな。
霧姫さんがリレーという比較的目立つような種目に出るなんて。何か深い理由があるんだろうな。
霧姫さんのことを見ると、こちらが見ていることに気が付いたのか一瞬だけ驚いた顔をしてすぐに背けられてしまう。
「あ、じゃあ、私やります」
「おー、絵美里がやってくれるのか。じゃあ、リレーも決まったし、体育祭の種目決めはこれで終わり。時間も余ったことだし各自自習すること」
最近、少しづつだけれど仲良くなってきていると僕は感じているから、放課後になんでリレーに参加したのか聞いてみよう。
授業、そして、昼休み、また授業と来て、やっと放課後になった。
絵美里には申し訳ないけれど、今日も誘いを断って図書室へと向かう。最近、断りすぎて絵美里が家に来て、僕の部屋で寛いでいることが多い。
絵美里は、もう少し僕だって男なのだと感じてほしいものだ。
図書室の扉を開けて、いつもの場所に行くと今日も優雅に霧姫さんは読書をしていた。
そして、僕がいることに気づくと本を閉じて
「さて、赤塚君もきたことですし、始めましょうか」
「そうですね。よろしくお願いします」
「では、昨日の復習。そして、今日の授業のちょっとした復習もします」
相変らず、霧姫さんの教え方はポンコツな僕でも理解しやすい教え方をしてくれていて、スラスラと解けるし、分からないところがあれば丁寧に教えてくれるので本当にありがたい。
今度こそ、霧姫さんを超えてこれ以上霧姫さんの負担にならないようにしなければ。
黙々と勉強に励むといつの間にか時間という者はあっという間に過ぎるもので図書室が閉まる時間になっていた。
「今日もありがとうございました」
「いえ。これは借りを返しているだけですから」
そう言って、荷物を纒め終わり僕を待っていてくれている。
前まではすぐに帰って行ってしまったけれど、最近では一緒に帰ってくれるようになった。
まぁ、あんなことがあったから男の僕がいた方がいいという合理的な考えのもとだろうけれど。
図書室を出て二人並んで歩く。
いつもの下駄箱に到着して、靴を履き替える。
この瞬間だけ、少し緊張する。手紙とか入ってないかなって。
靴に履き替え終わったら、また二人で並んで歩きはじめる。
「あの、霧姫さん」
「何でしょうか?」
「どうして、リレーに出たんですか?」
聞こうと思っていたことを話してみる。
「赤塚君は私がリレーに出ることが嫌なのですか?」
と若干冷たい目で僕のことを見つめてくる。
「そんなわけはないですけれど、霧姫さんがリレーっていう種目に出るなんて珍しいなと思っただけです」
「そうですか。そうですね、何故リレーに出たのかというと.........」
そこで言葉が途切れる。そして、僕の顔をちらちらと窺って見えるのはなぜだろう。
「どうしたんですか?霧姫さん」
「っ!!ただ、誰も手を上げず、あのまま無駄に時間が過ぎていくのが嫌だっただけです。早く終わらせて勉強をしたかったので。ただそれだけです。決して.........」
「.........決して?」
「何でもありません!!」
霧姫さんは若干怒鳴るようにそう言って、黙ってしまう。
何か、僕が彼女の怒るようなことを言ってしまったのだろう。反省しなければ。
だけれど、確かにその理由ならば霧姫さんらしいと思える。決してから先の言葉は分からなかったけれど。
その後、駅に着くまで僕たちの間に話はなく。
改札前で「さようなら」というだけで今日は終わってしまった。
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