第12話 俺は幼馴染のバストサイズを知りたい

 春奈は俺を見つめていた。とても静かにしている。さっきまで大きな声で『嫌い』を言い続けていた春奈はもういなかった。俺のなかにある嫌な引っ掛かりが取れた気がしてホッとしたが、そんなの一瞬のことだった。だ、だってさ…………、


『大好きだああああっーー!!!!』


 俺……、何言ってんの!?


 バクン、バクン、と大きな鼓動が鳴っている。その度に俺の全身が揺れる。そして『大好き』という言葉が、俺の頭の中を駆けまわる。


『大好き』って!? 大声で何言ってんだ!? よりにもよって春奈に!? なんで『大好き』って言ったし!? い、いや、それは春奈が悪い!! お、俺のこと嫌い、嫌い、って言うから!! お、俺はそうじゃないからさ!! だから『大好き』、って言いたくて……、って、それで素直に言うバカがどこにいる!! って、俺か!? う、うおおおおおおっ……!! 


 1人で勝手に悶えている俺。春奈の両肩を掴んでいる俺の手のひらが、小さく震える。春奈に、俺の動揺を伝えているみたいで、すごく恥ずかしい。お、落ち着け……!! と、とりあえずだな! 春奈の肩から手をどけ―――、


「そうたぁ……」


 ふいに聞こえた囁き。


 俺の意識と視線は、春奈に吸い寄せられる。

 ただ真っ直ぐに俺を見つめて、何かを知りたがったいる顔付きだ。頬をとても赤く染めながら、恥ずかし気に聞いてきた。


「い、今言ったのって……?」

「つっ……!?!?」


 ど、どう答える……!? 


 悩んでいるなか、でも答えはもう出ているんだ。素直に……、春奈のことが『大好き』だと。。でもな、改めて『大好き』って言いづらいんだよ!! さっきは勢いがあったから、『大好き』って言えたのもあったし!!


 春奈の見開いた瞳に見つめられ、緊張する。


 俺の顔が熱くなったのが分かった。


 は、恥ずかしくて、ますます言いづらくなる。


 すると、春奈の表情が不満と怒りと、悲しみが混じった、何とも言えない表情で、


「なんなのよ……」

「え……!?」 


春奈の丸い瞳に涙が溜まり出した。俺の気持ちが、また焦り出す。


「何なのよ……、今日は……」

「は、春奈?」

「変なことばっかり言って……!!」

「いや、おい……!?」

「だってそうだもん!! 何なのよ、もう!! 爽太のバカバカバカ!!」


 春奈が、俺の胸元を小さな拳でドンドンっとうち叩く。お、おい!? い、痛いって!?


「は、春奈!? 俺の胸元で太鼓の達人みたいなことすんなよ!?」

「つっ!? ま、また変な事言う!! もう、バカバカバカバカ!!」


 春奈の叩く手は勢いを増すばかりで。俺の胸の痛みも増していく。それに、俺の胸の奥の何かも、痛みを増していく。


 あ、あのな、俺の言った事を全部、変な事で片付けんなよ!!


 俺は……、『バスト』が大好きなんだ!


「爽太の、バカバカバカ!!」


 ああ、ほんとバカだと思う! でもな、大好きなんだ、ふくよかな『バスト』がさ!!


「バカバカバカ!!」


 ああ、ほんとバカだよ! でもな、大好きなんだ、小さな拳でしきりに俺の胸元を叩いている間も、揺れているふくよかな『バスト』がさ!!


「ほんと、爽太のバカバカ!!」


 ああ、ほんとバカだよな……。俺に痛い仕打ちをしているのに、すごくムカつくのに……、大好きなんだ……、『春奈』が!!


 ほんと、色んなムカつきが合わさって、俺はもう吹っ切れた。俺もう決めた。春奈にこれからも、すごく怒られるけど、これからもずっと言おう。変なことを!! お、俺のありったけの気持ちを込めて!!


「春奈っ!!」

「ひゃっ!?」


 驚いて、口を紡ぐ春奈。俺は春奈を真っ直ぐに見つめ、春奈の両肩を掴んでいる手のひらに力を込める。俺は、大きな声で叫んだ。


「大好きだああああっーー!!!!」

「なっ!?!?!?!?」


 春奈の瞳が見開き、頬も、耳も真っ赤に染まっていく。うん、俺もきっと同じようになってんだろうな。でも、恥ずかしがってる場合じゃない。


「は、春奈!!」

「ひゃ、ひゃい!?」

「お、俺はな、大好きなんだ……!」

「ふぇ!? そ、そそそそ、それって……!?!?」


 春奈が顔を真っ赤にし、答えを問う。俺は、息を吸い込み、春奈への想いを、大きく答えた。


「『春奈のバスト』が大好きだああああっーー!!」

「へぇ!?!?!?!?」


 春奈に驚愕の表情を与えるほど、伝わっていた。大きな瞳はせわしなく瞬きを繰り返し、俺の言った事を理解しようと必死な感じだ。うん、春奈、理解してくれ、とても簡単なことのはずだ!


「ば、バカッ!!!!」


 理解されなかった。ですよね~。


 春奈が、口元をわなわなと震わせながら、声をあらげる。


「ば、ばばば、バス、が、大好き、って!?!?、あ、あたしの……!? つぅぅ!?!? ば、バカ爽太!! ほんとッ、バカバカバカ―――!!」

「バカで構わん!!」

「ふえっ!?」

「は、春奈っ!!」

「ふぇ!? な、なに!?」

「お、俺は―――」


 涙目の春奈をしかと見つめ、俺は……、男らしく、新たに湧いた、いや、胸の奥にしまっていた想い、『春奈』・『バスト』・『大好き』から、導いた、俺なりのありったけの想いを、さらに叫んだ。

 

「バストサイズを教えてくれッーーー!!」

「なっ……!? は、はあっー!?!? な、何変なこと言って―――!!」

「変な事じゃない!!」

「えぇぇぇ!?!?」

「お、俺は、『春奈』が『大好き』なんだ!!」

「ふぇっ!? えっ!? ちょ、ちょ、ちょっと!?」

「でだな、お、俺は、『バスト』が『大好き』なんだ!!」

「なっ!?!? は、はいぃぃぃ!?!?」


 もう表情が混乱している春奈。お、俺もきっとそうだろう。で、でもそんなこと知るか!!


「つ、つまりだな、『春奈のバスト』が『大好き』なんだよ、俺は!!」

「は、はわわわっ!?!?」

「だ、だから!! 『バストサイズ』を教えてくれ!!」

「ひいっ!?!? い、意味がわからないし!!!!」

「な、なんで分かんねぇんだよ!」

「わ、分かるわけないでしょ!?!?」

「分かるだろ!? 『大好き』だから知りたいんだ!!」

「な、なんかすごくムカつくッ!! どう言っていいかあれだけど、ほんとムカつく!!」

「だあああああ!! んなこといいから!! は、早く教えてくれ!! 俺の大好きな、春奈の、バストの、サイズを!!」

「ば、ば、バカバカバカ!! お、おし、教えるわけないでしょ!?!?」

「それはダメだ!!」

「ダメに決まってるよッ!?」

「ほんと、教えて、春奈!! バストサイズ!! バストサイズ!! バストサイズ!!」

「ばっ!? な、な、何言ってんのよッ!! お、大声で、い、言わないで!!」

「いいや、言うねっ!! 春奈!! 俺に教えてくれ!! バ―――」


 バストサイズと言おうとして、俺は言えなかった。何故かって? それは、


 バチコンッッ!!!!!


「ひでぶっ!?!?」


 左頬に感じる激しい痛み。何が起こったのか一瞬解らなかったが、春奈の右手のフルスイングを目で捉えていたからすぐ理解した。超絶ビンタを食らったんですね、俺。い、痛ってえええええええ!?!? 


 あまりの痛さに尻もちをついた俺を、春奈は、真っ赤な顔で、怒りの形相で見降ろしていた。


「ふぅー! ふぅー! そ、そ・う・た!!!!!!」

「ひい!? は、はい!?」


 春奈は、大声で俺に言い付けた。


「爽太の、バカあああああああああああーーーーーー!!!!!!」


 そう言い放つや、文芸部の部室を飛び出し、廊下を走っていく春奈。


 俺は、春奈の走り去っていく後ろ姿をただ、茫然と見つめていた。春奈が廊下を曲がって、見えなくなるまでさ。


 シーンと、静かな、文芸部の部室のドアの前で、座り込んでいる俺は、


「……、ふっ、あははははは……、あはははははははっ!!」


 左頬のビンタを食らった痛みをジンジン感じながら、俺は、決意を新たにする。


 俺は、春奈(幼馴染)のバストサイズが知りたい!!


 これが、俺のバストサイズストーリーの幕開けだった。

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