第十集:適材適所
「懐かしい、この感じ……」
第一階層は緑豊かな地下大
「なるほど……。
わたしが
「怪我しないで帰れる気がしない。なんでわたしはひとりなの」
先ほどまで「一人で頑張る」と言っていた意気込みが無残に灰に帰していく。
修行時の恐怖が脳をかすめたが、それでものりこえてきたのだから大丈夫、と自分に言い聞かせ、うっそうとした茂みの中を進み始めた。
幸い、第一階層は明るい。こういった
「……ところどころ伐採された跡はあるけど、どうせすぐに生長してまた道がふさがっちゃうんでしょう? これは方向音痴には厳しい仕様」
わたしは残念なくらいに方向音痴である。
「水の匂い……」
川か池が近くにあるのかもしれない。
流入してくる濾過された海水と雨のおかげで水が豊富にあるのだ。
「水辺は
後姿は大きな鳥類だが、振り向くとそこにあるのは人面。
「
人面鷲はとにかく口が悪い。罵詈雑言という意味ではなく、人間を不安にさせる預言めいたことを言うのだ。
そして言葉巧みに操り、自ら命を絶たせようとする。性悪な怪異の
わたしは後ろを通り過ぎようとゆっくり歩いていると、急にぐるんと振り向いた人面鷲に見つかってしまった。
「こ、こんにちは……」
「おや、可愛い仙術師さんだねぇ。何をしにここまで? 馬鹿で愚かな人間どもに依頼されたのかい? 『僕ちゃんの代わりに危険に飛び込んで死んでくだちゃい』って! あはははははは!」
「あ、あはは……。じゃぁ、急ぐので」
「そうかいそうかい。その先には何組かの人間の団体がいるよ。あいつら、顔を合わせると言い争っているねぇ。語彙力が思春期で止まっているのかも。くっくっく……。巻き込まれないようにせいぜい気を付けるんだよ、お嬢さん」
「は、はい。ご心配どうも。それと、わたしは男です……」
「あひゃひゃひゃひゃ!」
人面鷲は戦っても勝てない
きっと彼らは二羽の人面鷲に最低な気分にされていることだろう。
とばっちりを受けないよう、少し道を離れたほうがいいかもしれない。
(伐採の跡は左に続いているから、わたしは右に行こうかな。ちょっと険しそうだけど)
木々が密集している。
ただ、わたしは団体ではなく一人行動。木が密集していようがいまいが、進み方は同じだ。
「前進あるのみ!」
「それにしても、暑い。毒草が怖くて腕まくりできないから余計に暑く感じる」
通気性が無いわけではないのだが、なにぶん、スペンサーがわたしの身を案じて用意してくれた制服。防御力重視のため、生地は厚手だ。
「まぁ、虫に刺されないだけいいのかもしれないけど」
先ほどから、直視しないよう気を付けてはいるが、さすがは熱帯。
わたしが苦手な虫たちの楽園になっている。
それも、
「最悪すぎる。天井高いし、飛んじゃいたいけど、空中戦になると群れで襲ってくるから余計に無理」
精神衛生のため、
「寒い階層に行きたい。もふもふした毛皮の有る
極寒の地に住む毛皮を持つ
心の平安を求め、前だけを見て歩き続けた。
「ひょわっ! ひぃいい! もう、鱗粉撒かないで!」
蝶にすら怯える十六歳男性。
入口から歩いて一時間、すでに心臓が激しく鼓動し、うっすらと涙が浮かんでいた。
「うっ、うっ……。はやく
目の前に現れた巨大な木は、灰色がかった樹皮と赤い楕円形の実が特徴の
その葉は蚕の大好物で、
「葉っぱのところ……、いた! 大きいなぁ!」
金粉をまぶしたような身体に、真っ赤な目。体調は五十センチほどでとても柔らかい。
あれこそが
主に西欧の魔術師用
「繭はあるかな……、ああ、そうか。
わたしはポシェットから薬草を数種類と、金属製の桶を取り出した。
「虫を眠らせるならこれが一番」
桶の中に薬草を積み重ね、着火剤となる乾いた麻の綿を入れ、火をつけた。
「良い香りだけど煙がすごい」
わたしはそれを木の真下に置き、少し離れた位置から観察した。
すると、徐々に
成虫である
「ごめんね。繭貰っていくね」
持って帰らなければならないのはおよそ千六百個。
目の前にある大木だけでは、一つの
「今日は泊りだな……。さっそくスペンサーさんとの約束破ることになっちゃうけど、ここは比較的平和だし。いいよね」
口と鼻を布で覆いながら燻しセットを回収すると、今度は後方にある木に設置した。
他の木を燻している間に木の上部まで飛び、中へ入って繭を回収する。
一つの木から採るのはだいたい百個前後。
神々しいほどに白く艶やかに輝く繭は、触っていたくなるほどすべすべだ。
二時間ほど作業をして、休憩をとり、再びまた作業。
合計六時間ほどで必要な分の繭をとり終わることが出来た。
「はぁ、疲れた。仲間がいればもう少し早いんだろうなぁ」
土や木くずの汚れを払うと、
「もうヘトヘト。冷凍の肉まんか何かなかったかな……」
冷凍庫を漁り、何かないかと探していると、突然轟音が鳴り響いた。
それは
「嫌な予感がする……」
わたしは幻想空域の家を飛び出し、音のする方へと向かった。
「な、なんてこと……」
そこには六人組の人間の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます