第7話「父の秘密」

僕らは急いで病院へと向かった。


「舞香!!!!!」


舞香さんがいる病室を開けると案外元気そうな

舞香さんがいた。


「ごめん、省ちゃん。ちょっとフラッとしちゃって…」


「おい、心配なんだぞ、本当に大丈夫か?」


「うん、もう平気。ちょっとだけ入院は必要らしいけど」


「体調だけは気をつけないとな、そろそろガキも生まれるしな?」


「な!」



本当にこの人は倒れたのか?という元気さで

パクと楽しそうに話していた。

そこへ病院の先生がやってきた。


「あ、どうも真壁さん。ちょっと奥さんの状況を説明したいから診察室来て貰える?」


「あ、はい」



そう言われ、パクは診察室へ向かった。



病室には気まずい空気が流れていた。



「この間はすいませんでした…!酔っ払ってて!」


「あ、いや!謝んないでください!気にしてないです!」


「ほんとすいません」


「ただ、ひとつ気になったんです。」


「はい?」


「ほんとになにか見えてるんじゃないかな?って」


「見えてる?」


「未来のこと。」


「あ、いやだからそれは」


「だって!本当にMr.マリックはやってきました!ハンドパワーって!あれも言ってたじゃないですか!ロンさん!」


「たまたまですよ。」


「そうですよね……ごめんなさい。」



その時病室の扉が開いた。

そこには桜木さんとクニがいた。



「舞香ちゃん大丈夫?」


「うん!平気!」


「舞香、ほんとに大丈夫なのか?」


「ごめんなさい、桜木さんにまで心配かけて」



また扉が開くと話を聞き終わったパクが戻ってきた。



「省ちゃんどうだった?」


「おう、心配はいらねえってよ。でもな

なんか一応のためによ、出産まで入院だとよ。」


「そっか、じゃもう神社行けないんだ…」


「なんだよ、お前神社なんかいってたのか」


「うんw」



パクはバレるかバレないかぐらいのため息をひとつつき、



「桜木さん飯行きましょ!連れてってください!」



と笑った。



その時桜木さんに電話がかかってきて

「ほんとですか!おい!お前ら!決勝進出だってよ!!!」





その夜、ふたりでネタ合わせをしていると


「はい!ロンさん、これで…えっと、えーっとこれ…いやちがう、、えっと」


こんなことは初めてだった。

パクが盛大にネタを飛ばした。

僕はちょっとだけ違和感を感じたが

最近飲みにばっかり行ってるので疲れが原因だろうと思い



「どうした?珍しいな」と言った。



「いや、悪いもう1回頼む」


「おう」


「それじゃパクさん!アレオネガイシマスヨー」


「はい!コレテスネ!」


「そうこれをパクさんに渡してー、パクさんが持った瞬間…」


「………………」


このハンカチは、

パクが持った瞬間消さないといけないのに

パクは棒立ちだった。



「お前まじなんだよ」


「あ、いや…」


「やる気ねえのかよ」


「悪ぃ、今日俺帰る」


「おい!本番まであんまり日ないぞ!」



なんだあいつおかしいな。

結局不完全燃焼のまま、その日は稽古を終えた。


そして、次の日。

演芸場での出番の際のことだった。



「それじゃ次はパクさんにやってもらおねーーヤリタイヒトイル!?おお!じゃあそこのスーツのあなた!ステージアガッテキテ!それじゃせーのでひっぱるよ!せーの」


「……………………………」


「パク?」


「…………苦しい」


「パクさん…?」


「……苦しいって言ってんだろうが!!!!」



そう声を荒らげるとパクは舞台をおりた。

公演後、慌てて追いかけた。

1人稽古場に佇むパクを見つけ僕は胸ぐらをつかんだ。


「あれなんだよ、あれで笑って貰えると思ってんのか」


「………」


「なんだよあの態度!やる気ねえなら辞めちまえよ!!!」


「やる気なんてねえよ、ああやめてやるよ!やってらんねえんだよ!決勝もお前が1人でテレビ出ろ!」


「は?お前今更何言ってんだよ!」


「やる気がなくなったって言ってんだよ!ガキがもう生まれるからまともに仕事するって言ってんだよ!」


「何でもかんでもガキのせいにしてんじゃねえよ!どういう事だよ、ちゃんと答えろよ!」





「舞香が死ぬかもしれねぇんだよ!!!!!」





その時僕の時間が止まった。


どういうこと、?舞香さんが死ぬ?

意味がわからない、俺を置いて出ていったんだろ。なあそう言ってくれよ



「あいつの胎盤おかしいんだとよ、子供も舞香も助かるかわかんねえって、でも舞香に言ってもガキ産むってきかねえしよ。俺どうすればいいのかわかんなくて…」


「は?話違うじゃねぇかよ…」


「何の話だよ」


「おふくろ家出ていったんじゃねえのかよ!」


「は?」


「それじゃダメなんだよ!!!妊娠中の嫁がいるのに浮気するようなろくでなしの父親がいて、それで置いていく母親がいて!だから俺の人生どうしようもなくてこんなに惨めなんだろ!?そうだろ!!!自分の命かけて子供のこと守るような母親じゃ辻褄合わねぇんだよ!!!!!!」


「なに意味わかんねえこと言ってんだよ」


「おい、おろせ」


「なに簡単に言ってんだよ」



「どうせろくな子供しか生まれてこねえんだよ!!!!!その子供のためにそいつのために死んでいいような人じゃねぇんだよ!舞香さんは!!!!!ふざけんなよ!すぐおろさせろ!!!!そんな子供いらねえだろ!!!」



「お前に何がわかるんだよ!!!適当なことぬかしてんじゃねぇよ!!!」



パクは、いや。親父は、僕を思い切りぶん殴った。お父さんとして殴られた事がなかったから、これが初めて親父に殴られた瞬間だった。



「なぁ、バカにしたい訳じゃないんだよ…

頼むよ、おろしてくれよ…頼む…」



僕は稽古場で泣き崩れ、ひとり自分の人生を後悔することしか出来なかった。

でも、殴られた痛みだけが僕を生きてると実感させてくれた。



「どうして生きてるかわかんねえよ……」

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