第2話 疑惑の正義⑥

 女性の後に付いて行き、辿り着いたのは住居エリアの中でもひときわ暗く、人一人もいないような個々のエリアだけまるで死んでいるような感じだ。

 ファルカスを守る様に周りに立てられた壁のところまで来ると人質のメニシアを解放、サクラの方へ突き飛ばした。

 そこまで強くなかったので普通にサクラは受け止めることが出来た。


「それで、あなたは何者で僕たちに何か用か」


 女性はしばし黙る。

 口を開くのにそう時間はかからなかった。


「それはお前らが一番知っている事だろうが」

「ということはあなたがビリン」

「あぁ、ちょこまかと私のことを探っているらしいな。なんだ? 私を捕まえてあいつらに売るか?」


 多少口調が荒いと聞いていたが、まだ数回の会話だけだが想像以上に荒いかもしれない。


「私たちはあなたを保護――」

「うるせぇ!」


 ビリンは話を聞かず、手元に召喚した槍を手にサクラたちに突っ込んできた。

 想定の範囲だったのか、サクラは背負っているを聖剣を取り槍を受け止めた。


「衛兵かギルドかは知らねえが私の障害になるならお前らを殺す」


 殺意の乗った槍の攻撃にサクラは耐え切れず押される。


「っ!」

「サクラさん!」

「メニシアは下がってて、さすがに強い」


 元衛兵、しかも隊を従えていただけはある。

 元々の攻撃も重かったが、怒りなのか殺意なのかわからないが、それらを原動力とした攻撃はより重くなっている。

 基礎がちゃんとしている分素の実力はビリンの方が上だ。


「話が通じないなら少しは頭を冷やしもらう」


 聖剣を構え直す。


「エンチャント……攻撃」


 聖剣に魔法を込めて攻撃力を上昇させる。


「それは……魔法?」


 ビリンのこの反応を見逃さなかったサクラはさらに「エンチャント」で速度上昇を付与して一気にビリンの目の前まで進み切りかかる。


「……っ、舐めるなぁぁぁ!」


 すると二人の間に強烈な光が現れる。


「!?」


 唐突なことで驚くサクラだが、攻撃の手を止めることが不可能なほどに勢い付いている。

 その攻撃は謎の光と衝突し甲高い衝突音と共に受け止められた。

 光が薄れていくのと同時にその正体も明らかになる。

 大楯だった。

 王族のような紋章が刻まれているがシンプルなデザインで、どこか凛々しさを感じる。


「防いだからといって攻撃が止むわけではないよ」

「あぁ、続ければいい」


 自信を含んだ言葉。

 特に気にすることなくサクラは攻撃を続ける。

 ビリンは槍に加えて大楯を構えて応戦する。

 サクラの攻撃は大楯で防がれる。

 逆にビリンの攻撃は受け流される。

 一進一退の攻防。

 均衡した戦いは、ビリンに傾き始めた。


(……おかしい)

「攻撃が軽くなってるって思ってんだろ」

「……」


 ビリンの指摘通り、攻撃をすればするほど一撃に重さが無くなってきている。

 加えて大楯もその耐久力が上がってきている。


「そりゃそうだ、お前が攻撃する度にお前の剣の威力を削ってついでに大楯の耐久力に変換してるんだからな」

「なるほど、そういうカラクリか」


 納得がいったサクラだが、そうなると聖剣が使っていくうちにただの細い木の棒以下の性能になって言ってしまう。

 永続的だとしたら最悪だが、そうでないのなら勝機はある。

 しかしその場合の判断はビリンに委ねられるだろうから戦闘を終わらせないと元に戻らないだろう。

 聖剣を捨てて刀に切り替えた所でダメだろう。

 ふとサクラは思った。

 耐久力の上昇には限界があるのか。

 物理的攻撃以外だと威力は落ち続けるのか。


「燃えろ」


 自身がよく使用する火属性の魔法。

 火球はビリンに目掛けて発射される。


「無駄だってのがわからねぇようだな」


 案の定大楯で防ぎつつ接近。

 サクラはエンチャントによる回避速度を上げているのでビリンから距離を取りつつ火球を間髪入れずに発射し続ける。


「そう何発も打ってると魔力切れを起こすんじゃねぇのか!」


 そう考えたビリンは魔力切れを狙うようにひたすら耐え続け勝機を待ち続ける。

 しかし、それこそがビリンの最大の誤りだ。


(あいつ、なんで魔力が切れねぇんだ?)

「いま、何時まで経っても魔力が切れないとか思ってる?」

「……」


 ビリンは少しだけ焦りを見せ始めていた。

 サクラの総魔力量を一般的な量より上であるということは何となく想像していた。

 ビリンの人生において魔術師を見たことはあっても魔法使いを見たことがない。

 そもそも魔法使いそのものが絶滅危惧種のような存在なのだ。

 誰でもというわけではないが、一定数の人々が魔力を持っており、中には道具を使用することで人工的に魔法を発動させる――魔術と呼ばれる技を使える者もいる。

 そのような人々を魔術師と呼び、その魔力量は平均よりは上だ。

 ちなみに魔力を持たないものでも魔術を使えることには使える。道具に必要数の魔力が込められている場合可能になる。料理や洗濯を含めた家事などを含めた日常的に使用されている魔術が良い例だ――。

 訓練等でビリンもある程度は魔術師の魔力量というのは把握している。

 ただしビリンにとって魔法使いの魔力量というのは未知数だ。

 道具を介して発動することが出来る魔術に対して魔法は魔力調整を除けば道具を必要としない。


「僕の魔力が尽きるか、君が音を上げるのが先か」


 サクラは火球の発射速度を上げる。

 それを防ぐので精一杯で段々と押され始めた。


「……っ、負け、るか」


 ビリンは諦めない。

 が、火球に気を取られたビリンはサクラの接近に気付かず、許してしまう。


「しまっ――」


 間合いに入ったサクラは、大楯に触れる。


「エンチャント、解除」


 すると、何かが弾けたかのように大楯の存在感が一気に失った。


「何だと!?」


 聖剣の攻撃力を吸収し、変換した耐久力が本来の耐久力に戻ってしまった。


「お前、何をした!」


 そのようなことはお構いなしにサクラは右手のひらをビリンの目の前に持ってきた。


「いい加減に、頭を冷やせ!」


 手のひらには水球が現れ、それをビリンの顔にぶつける。

 もちろん、ビリンの顔は濡れる。

 そして、その反動で被っていたフードが後ろに吹き飛んだ。

 フードの中から現れたのは一つにまとめられた暗い中でも目立つブロンドヘアだった。

 そのブロンドヘアも当然ながら濡れている。


「何すんだ!」

「人の話を最後まで聞け。君が先走ったからこうなったんだよ」


 ド正論だ。


「……悪かったな」


 水も浴びればさすがに頭が冷えたのか、割と素直に謝罪した。

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