心と光と影と。
H.K
光と影と、心と。【前編】
太陽光線は沢山の恩恵をもたらしているのは周知のことであろう。
我々は瞳で光を捉え様々な事象の意味や価値、質を弁別、認知することができる。これは、母胎から産み落とされ、養育者が衣食住は元より、非言語的、かつ、言語的コミュニケーションを怠らず成長を見守り、その乳飲み子が自らの好奇心で身体を動かし、自己世界を創っていける環境も整え、子が様々な体験を味わえ、この記憶とともに視覚をはじめ、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚が統合され、感覚-知覚-運動過程を確立させていき、学び、成長し続けるからだ。
こうして、人間はこの世界に生まれて、養育者の援助を受け、養育能力を身につけ、子を育て、死が訪れる日まで自己実現という喜びを求め、生きていく。勿論、例外は少なくなく、現時点における科学技術を発展させた人間は、多様性が認められるまでの倫理的思考も発展させてきた。
しかしながら、人間以外の生物たちは、群れをなす者、繁殖期のみ集団活動する者とがおり、これらは、産まれて死をむかえるまで、定型的な活動様式を送っていく。すなわち、自然環境に
それに反して人間は、人口減少、少子化、高齢化が社会問題となっている。いうまでもない、自然の理を無視するような生き方をしているからだ。種を断絶させまいという価値を意識しなくなったからだ。
太陽光の恩恵といっても過言ではない。
「お母さん、影がこんなに長くなってるよ、おもしろーい」
「夕方だからね」
末っ子のチナツは、母親と三つ歳上の兄、アキオと三人で、商店街での買い物を終え、人通りが少なくはなった自宅近くの緩い登り坂を夕日を背にしてた。
「チナツの影、踏んでしーまーまぉ」
「お兄ちゃんやめてよ」
「何でだよ、影なんか踏まれたって痛くないだろぉ、えいえいえい」
アキオは今夜の晩ごはんのおかずで、母親がコロッケを買ってくれたごとを喜び、はしゃいで悪ふざけしていた。
「だって、何だか嫌なんだもん、本当に踏まれてる感じがして」
チナツは悲しげは顔をみせた。
「じゃあ、影を隠しちゃえば良いじゃないか、チナツはそんなことできないだろう、へへ」
「アキオ、これ持ってちょうだい、今日は沢山買い物したから重いの、手伝って」
母親は、兄妹が喧嘩にならないように、買い物籠から紙袋に入ったコロッケをアキオに手渡した。アキオは大好物なコロッケを大事そうに抱え、悪ふざけが収まった。母親は、チナツに顔を向けて笑みを見せ、左手を差し出して手を繋いだ。
「お父さん、お兄ちゃんね、チナツの影を踏んづけるんだよ。乱暴者よねぇ」
「ただの遊びだよ、影を踏まれても痛くないだろう、ねぇ、お父さん」
父親が帰宅して、コロッケやサラダ、味噌汁等が配膳された食卓を囲み、チナツは影を踏まれて不愉快だった話を始めた。
「そうだな、アキオがいうように影は踏まれても痛くはないが、自分の分身みたいに思えることもある、チナツはそう感じたんじゃないか、アキオもそんな時があると思うけど、やり過ぎて、人を嫌な思いにさせるのは良くないな」
「そだね、あるかもしれない、チナツごめんよ、今日はさあ、お母さんがコロッケ買ってくれただろ、嬉しくてさ、ついつい、チナツの分身も守ってやらないとな、おれはお兄ちゃんなんだから、えっへん」
アキオは父親の話を素直に捉えてチナツに謝った。
「ねぇ、お兄ちゃん、それにしても影って不思議ね、追っかけても捕まえられないし、逃げてもついてくるもんね」
子供部屋に二枚の布団が並べられ、兄妹で並んで枕についた頃、チナツがアキオに話しかけた。
「そんなことないさ、影は、光の反対側にできるから、真上から光を浴びれば影は出来ないよ、追っかけて捕まえるなんては難しいけど、影から逃げようと思ったら、明るいところに行けばいいのさ、例えば、電気屋さんに入るとかな」
アキオは優しい口調で応えた。
「そっか、明るいところに行けばいいんだ、そんじゃぁ、真っ暗なところでもいいね、光が当たらないから、でも、怖ーい」
「あはは、チナツ自分でいっておきながら怖がって、あはは、でもさ、夜は地球の影なんだ。太陽の反対側になったら、光が当たらなくなるからな」
二人は影の話が弾んだ。
「そうなんだ、夜は地球の影なのね、夜は影の中にいるんだね、ふうん、それじゃ、夜空の遠くに、地球の影が映ってるところがあるんだろうね」
「そうだな、あるはずだ、でもそこはとても真っ暗で恐ろしいところだろうな、暗黒の世界だよ、恐ろしい化け物がいっぱいだろうな」
「もう止めて、脅かすのは止めてよぉ、もう」
「嘘、嘘だよ、ごめん、ごめん。もう寝よ、チナツ。」
眠気に攻められたアキオは、チナツが話してくることを面倒くさがって、ふざけたことをいい出し、簡単にあしらうと、すぐに眠りについた。チナツはアキオのその言葉で、不安な気持ちを抱きながらも、夢の世界へ誘われた。
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