第71話 汝の正体、観たり

「ずいぶんとたくさんの人々が、市民の政治参加を促す私たちの活動を批判しているようですね」

アストロレンジャーは胸を張り、右手を腰に、左手の親指と人差し指を直角に立ててまっすぐゼロパー将軍に対峙する。

「そうだとも。彼らは政治へのコミットなど望んではいない。日々大過なく日常が過ぎていけばそれで満足なのだ。強いリーダーシップを発揮する政治家こそが、人々の信頼に値する存在なのだ」


自分を指さすアストロレンジャーに相対し、ゼロパー将軍は大ぶりの剣を振りかざす。レンジャーの指先と、ゼロパーの剣の間で弾ける火花のスパークが、二人を見あげる甲斐の眼には見えていた。


チッチッチ。

左手の指の形はそのままに、アストロレンジャーは伸ばした腕をゆっくりと曲げ、マスクの前で小さく手首を左右に振る。

「政治に興味のない者が、どうしてこのライヴ配信を気にしているんだ。投票も面倒がるような連中が、どうしてお前や造田の言葉に同調し、喝采の言葉をわざわざネットに投稿してくる。そういうことは、面倒だからやらないのが民衆なんじゃなかったのかい」

「うぬっ」

剣を持たない側の拳を握りしめ、ゼロパーが一足後退する。

「米田陣営とは無関係と言いながら、突然議論をふっかけにやってきた造田剛三。自陣のスタッフとあらかじめ事を謀り、タイミングを合わせてネットに投稿するよう指示を出したな。汝の正体、観たり」

造田は目を閉じ、ゆっくり長く紫煙を吐き出した。


剣の先から、スモークが立ち上る。もうもうと煙るステージ上が晴れたとき、ゼロパー将軍の姿は既に消えていた。

ぱん。ぱん。ぱん。と、間延びした拍手が鳴る。客席の造田が、ゆっくりと手を叩いていた。

「茶番劇は終わったかね」


「実に退屈極まりない。いい大人が変身ごっこか。小尾よ、元広聴広報課長とやらも、あまりたいしたことはないな」

「どういたしまして」

「ネットの投稿が誰の仕業なのか、そんなことはオレは知らんよ。選挙戦の最中なんだから、相手方を始終モニターする部隊だって、そりゃあるかもしれんよなあ」

少しも悪びれることなく、造田はとぼける。

「どっちにしろ、こんなネット配信番組なぞ見ている人間はごく少数だ。ほとんどの市民は街頭演説と選挙カー、それに新聞テレビの報道しか見ない。いまが選挙期間中だということすら、知らん者もいるんだぞ。懸命に市長選の様子をレポートしていたが、おあいにく様だったな。地道にドブ板を廻って、根気よく握手を続ける米田市長の方は、いつでも目の前にいる街の人々から歓迎されとるよ」

ステージの中央に、雄々しく立つアストロレンジャー。その横には、自席を離れて並び立つ小尾と半田、甲斐、依田、そしてカメラを構える田野の姿がある。


「敵に塩を贈るわけじゃないが、今日来たのはそれを教えてやるためだ。無駄なあがきを続けても、市民の心は動かんし、風も吹くことはない。続けたければ続けるがいい。ただ、投票率はさしてあがらない。無論選挙にも勝てんのは明白だ。恥をかくのが関の山だぞ」

造田は顔をあげたまま、左の袖口から覗くロレックス・エクスプローラーに視線を落とす。

「君らは内輪で盛り上がっているようだが、世間に影響を与えるほどの力にはなっとらんのだよ。何と言ったかな、そう、エコーチェンバーだ。狭い仲間内だけでわいわい騒いでるうちに、それが時代の趨勢にでもなったかのように誤解することを、そう呼ぶんだそうだよ。なに、受け売りだ。先週商工会議所にSNSマーケティングの講師がきてね、教えてくれたんだ。まあ、SNSなんてのも所詮高校生の立ち話程度のもんなんだな」


騒音が聞こえる。耳障りで騒々しい音楽に乗せて、男の怒鳴り声が近づいてくる。


ヒーローごっこのぉ いんちき民主主義にぃ だぁまされるなあぁぁ!

「おや、大変だ。街宣車がこんなところにまで来るとはね」

騒音を発する街宣車は、神社のすぐ下まで来るとそこで停車した。スピーカーから大音量のアジテーションが繰り返される。境内に集まった人々は何事かと石段の下を見下ろし、迷惑そうな顔をしていた。

「あ、あんた。何が議論をしにきた、だよ。もう帰れよ」

甲斐の言葉に、そうだ、やめさせろ、と声を上げる参加者もいる。


「おいおい、まるでオレが連れてきたみたいに言うじゃないか。言いがかりは困っちゃうな」

長い足を持て余すかのように組み、造田は再び紙巻煙草に火をつける。

「どうする、アストロレンジャー。今日ははっとりの間抜けも海浜地区の方に行っているようだし、巨大ロボも当てにはできんぞ。それに、こんな街宣車程度なら実害は少ないが、これがどっかの国のミサイルか上陸部隊だったらどう対処するつもりだ。新党で国政にも首を突っ込むつもりなら、そういうことまで考えにゃならんのが政治家だ」

右手の指に煙草を挟んだままで、造田はアストロレンジャーを指さす。

「暴力ってのは、圧倒的な力だな。海の向こうじゃ実際に戦争してるし、東アジア情勢も日に日にきな臭くなってくる。北からは毎月のように飛翔体が飛んでくる始末だ。核武装しろと言っていたはっとりはまだ幾らかましだが、君らはこういう事態をどうやって切り抜ける」


ステージに立つアストロレンジャーの表情は、マスクに覆われていて見えない。その背に、その立ち姿に、アストロQ団メンバーと、集まった多くの人々の視線が注がれていた。

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