第4話 大佐を愛する猟犬(流星side)
「子猫ちゃん、行っちゃいましたねえ……。流星大佐」
身体をくねらせながら悪戯っぽく喋っている彼女は、きっと笑っていた。
仮面をつけていても、付き合いの長い俺にはそれ位分かる。
「『猟犬』。無駄口を叩かず仕事しろ」
理エイジの家に、続々と人が入ってくる。
隣人が何事かと顔を出すが、仮面の集団がいる事を知るとすぐに顔を引っ込めた。
揉め事は御免なのだろう。
賢明な判断だ。
「大丈夫。彼女の匂いは覚えましたから」
スンスンと鼻を鳴らす彼女の頭の上から、犬の耳がひょっこりと出てくる。
スキルを使う時に、彼女は制限つきだが動物の姿に変わることができる。
それだけじゃなく、嗅覚も犬並みに鋭くなる。
コードネーム『猟犬』。
今回の仕事仲間となった訳だが、正直彼女は苦手だ。
「意味もなく抱き着くな」
彼女はスキンシップが激しい。
制服越しであろうと、絶壁であろうと、胸を押し付けられるとどう対処していいのか判断に困る。
大体、俺のことを口では大佐呼びしているが、尊敬しているとは思えない言動が多い。
「はいはいー。流星大佐」
『流星』。
それが俺のコードネームだ。
猟犬は、身体能力が上がるスキルを持っているので武器を使わずとも強い。
だが俺は生憎と器用なスキルは持っていないので、銃を使って敵を排除する。
それが誰であろうと任務の為ならば躊躇いなく殺す。
「大佐!」
「……なんだ?」
仮面を被った男がビクつく。
無理もない。
彼は一般の兵士だ。
異世界人によって作られ、武器の使用と、殺人を政府から認められた組織。
それが俺達『特別派遣部隊』。
『アンダードッグ』。
その一員には、諜報任務もこなす為、全員仮面の着用が義務付けられている。
だが、同じ組織の人間であっても階級は存在する。
一兵卒と大佐では立場が違えば、実力も違う。
その違いを一瞬で見分ける方法は、仮面の形状にある。
普通の兵には、何の特徴もない仮面。
そして、立場が上がると仮面の形状を変えたり、模様を自由に入れたりすることができるようになる。
ちなみに『猟犬』は、獣のような形状をしている仮面で、しかも、肉球のスタンプみたいなものが一つついている。
可愛らしい仮面だが、俺は恥ずかしくてそんな仮面は着けていられない。
俺は装飾には拘らずに、流れ星が描かれた仮面をつけている。
「ターゲットを捕捉していますがどうしますか?」
「放って置け」
「は?」
指示を仰ぎにきた兵が訊き返してくる。
だが、俺の意見は変わらない。
「他の組織に殺されそうだった時だけ、俺に連絡すればいい」
「で、ですが――」
「俺に意見するな」
「は、はっ!!」
兵士は逃げるように去って行き、他の人間達に俺の言ったことを復唱しているようだった。
「……ふん」
今回の任務の指揮権は俺にある。
下の人間は黙って俺の言う事を聞いていればいいのだ。
「どういうつもりですかー。流星大佐あー。まさかあの平野鏡に同情でもしましたかー」
「違う」
「アハハハ、ですよねー。流星大佐ってばあ、沢山の犠牲を出してきてから大佐になれたんですもんねー」
「…………」
「冗談でーす」
俺が殺気を放つと、全然懲りていないようなジェスチャーで諸手を上げる。
まるで暖簾に腕押しだ。
彼女とまともに話し合おうとすると、こっちが先に根負けしてしまう。
「奴は餌だ」
「餌?」
「…………」
俺は踵を返して扉の外へ向かう。
全てを説明してやるほど俺は暇じゃない。
「ちょ、ちょっと!! 待ってくださーい!! 相変わらず、口下手なんですからー。そういうところも愛してますよー」
「…………」
部下の心にもない声を背中越しに聴きながら、俺は無視して任務を続行する。
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