第28話  よっ子の色欲の世界

 寂しさを紛らわす方法、よっ子は最近、一輝といるのが当たり前で一輝を頼ってしまう傾向にある。一輝が寂しさを紛らわしてくれている。

 

 それは魅惑という危険な香りのする男ではないがよっ子にとって一輝は龍也が一輝を思う同様、必要不可欠な人になっていることに間違いない。

 

 よっ子は幼い頃から我慢を強いられてきた。今思えば甘え方を知らなかったのか、甘えてはいけないと思っていたのかよくわからない。


 真紀子はよっ子を育てるために仕事を掛け持ちで頑張っていた。我儘は言ってはいけないこと、母を母親のように求めることも躊躇していた。


 早く大人になるべく無理をしてきたのである。今のよっ子はその反動か周りには器の広い男たちだらけである。頼れる男の存在は女心に弱さを作り甘えをもたらす。


 龍也が言った『わがまま女』よっ子は気づかないうちに傲慢さが出ていたのかも知れない、自分自身わがままを言ってるつもりないけれど、ひとりを踏ん張っていた頃の自分と明らかに違っている。


「おら!悟空」って言った主人公の子が闘いの最中いきなり金髪になって焔に包まれた。


 よっ子は自然と音量を上げて見入ってしまった。相手を睨みつけその凄まじさは確かに大介そのものだ。


「これがサイア人?焔が燃えたぎり鋭い眼差しは大介さんぽい、大介さんに思えば大介さんに見える。みえる?」


 龍也も寂しいんだと不意に思った。このアニメを見せるためにプレーヤーまで買って、いつでも集まる理由を作ろうとしている。既にここに3枚のDVDが置いてある。


 龍也の気持ちに応える一輝、鍋パーティーを開催する事を予測して哲也や丈治をよこした登板大介、明日、組長が自宅で過ごすことも皆に休暇を与えるためとよっ子はいろんな事を思う。


「私って幸せ者ね」


 幸二と真紀子にはもうすぐ赤ちゃんが生まれる。無事に生まれて真紀子が落ち着いた時今勤めている会社の事を話そうと思った。


 掃き出し窓のカーテンを見つめて握りしめる。丈の短かったカーテンはこの部屋の掃き出し窓にそぐうカーテンになった。


 哲也と丈治がプレゼントしてくれたのだ。


 入居後のあの日、何気に見ていた丈の短いクローバー模様のカーテン、その代わりにクローバーの刺繍を施している上質な物をこの部屋に付けてくれた。


「哲也さんってほんとにセンスがいい。二人になにをお返したらいいのかな。今度、母さんに相談してみよう」


 カーテンを開けて外を眺めながら、夜空に浮かぶ月を見上げる。


「あんなに素敵な人達のこと隠すなんて失礼だよね。わたし、どれだけ支えられてるか、隠すなんて……感謝の気持ちを忘れてはいけないのよ。よっ子」


 よっ子は心に決めて夜空の月に誓った。気分も少し晴れた気がして、音量を上げて最初からDVDをみた。


「やだ!もうこんな時間、お風呂入ってこよ」


 一旦、停止して、お風呂に駆け込んだ。服を脱いで洗濯カゴの中に入れる。


 一番最初にポンズでメイクを落とす。このポンズは真紀子が使っていたもので、それを一緒に使っていたから今でも愛用している。

 

 次に頭髪を洗うシャンプーはタレントが宣伝しているようなものではなくて、オクトというシャンプーとリンスを使っている。レモンの香りが爽やかで、この香りが病みつきで、変えることができない。


 身体は固形石鹸の米糠石鹸を使っている。湯船の中で念入りに歯磨きをする。お風呂の中のモニターのスイッチを入れてテレビをつけてみた。


 今日の出来事はよっ子の気持ちに変化をもたらした。極獄組の組員はみな家族なんだと改めて思う。嘘のない信頼できる人々の集まり、しかし早乙女だけはちょっと苦手で気をつけなくてはならない。


「ここでサイア人見れたらいいのにね〜っていうか、裸を大介さんに見られてるってこと

でしょ。やだ〜恥ずかしい〜っ。よっ子さんよ。大介さんに裸見られる想像したらダメでしょ。ぶー」


 湯船に顔をつける。そんな事を想像する欲求不満の境地にある女、よっ子はそのまま湯船に沈んだ。しばらく頭まで浸かって沈んでいたよっ子は「ぶはあ!」と顔を出す。


「私は、大介さんのこと好きなのかしら?そんなわけないわよね。大介さんは、たしかに男前だけど、好きなのとは違う。いや、待てよ。好きなのかも〜。きっと好きなんだと思う。好きなのよね。大介さんなら犯されてもいい!って、うわっ!やっぱり欲求不満の極み!大介さんて付き合ってる人いるのかな。私はなにを考えてんだか!でも、大介さんの子供って絶対に可愛い子が生まれると思うのよ。かわいい子、産みたい〜。だってあの人の目はくっきり二重で鼻筋通ってて、兎に角男前だから、やっぱり私、大介さんのこと好きなのかな〜。こういうの憧れっていうのよね。憧れなら哲也さんもかっこいい、丈治さんの筋肉も好き、あの腕にぎゅってされたら、あーん……たまらない!先輩だってソコソコ男前じゃない?タイプじゃないけど、性格は何気に良いと思う。口は悪いけど思いやりがあるし、レディーファーストをわかっている。割と極獄組って男前が揃ってるのよね。そういえば明那先輩が言ってた気がする。『なにげに粒揃い』だって、私がおかしくなっても仕方ないのよ。周りには男前ばかりいてもよっ子は男日照りが続いているんだから、飢えよっ子、変態よっ子、お風呂出たら寝るよ。もうやばいもの、ここまできたら寝るに限る。サイア人大介、夢に出てくるかな。ふふん」


 今夜のお風呂場は、独り言が絶え間なく続くよっ子の色欲の世界だった。

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