24 無限に落ちる

「昼間っから幽霊でも見たか?ゲームの中ならそれ用に用意された存在なんかもいそうだけどよ」

「無理無理、幽霊とかその手の話無理。グロはセーフでもホラーはアウトだって」

「タンクなのに」

「誰にだって苦手なものはあるだろう。仕方がない話だ。それにタンクは関係ないだろう」

「メイン盾が機能しないとかPT無理ゲーやんけ、ってか何回目やこの話」

「無限ループですね」


 わいわいと話すヴァーミリオン達がありがたい。気が紛れて少し楽になる。

 道の端に寄り、壁に背を預ければ張り詰めていたものが溶けていく。


 多少なりとも見知った人間による日常光景の安心感は凄い。今実感している。


 モーサ・ドゥーク初回攻略及び周回で一緒だっただけに全員覚えているよ。流石の自分でも。


 デバッファーで細剣使うヴァーミリオン。前線補助っぽい感じもしてた。リーダーだけどいじられ系。

 軽戦士寄りでロングソードのみのスカーレット、パリィで前線補助。何か純粋に上手くて強い。

 PTのメイン盾のカーディナルはバフと回復手段持ちでしぶとい、硬さはガチ盾より一段下がる。あといっつも無理とか言ってる気がする。

 レンジャー系のカーマイン。投擲にトラップ、短剣にボウガンと物理系。動きは不意打ちとかアサシンっぽい。

 クリムゾンはヒーラーで通常魔法メインではなくアビリティ系の即時発動を使ってた気がする。渋いイケメン。

 最後は魔法砲台のガーネット。純魔で弾幕系。元がいいのか割と動ける。


 大丈夫だ、覚えてる。間違いなく現実だ。ちゃんとそこにいる。


「本気で体調悪そうだけど大丈夫か?」

「もう大丈夫、ちょっとばかしキャパオーバーなことがあったんで」

「まぁそんならいいけどさ。必要なら話位は聞くぞ」

「必要なったらで、今回はお気遣いだけで」


 そうだ、よくよく考えればただの演出でイベントのプロローグかもしれないんだから。その可能性は十分にある。あるはずなのだが。


 そんなのは関係ない、あれは全く別の何かだと本能が意識を揺さぶってくる。


 完全再現といっていいレベルの五感が訴えてくる、無下には出来ないだろ。


 アレだ、一回意識を切り替えよう。埒が明かない。無理矢理でも意識を逃がさないと頭がおかしくなりそうだ。


「話変わりますけどちょっと聞きたいことがあって」

「お?まぁ別にいいけどよ、何よ」

「今回ってどこのボス倒したか知ってます?あと今までも地震とかありました?」

「今回はW1やね、RZのとこがやっとったはずやで」

「地震に関しては極微小な程度のものがあったな。丁度今回のようなタイミングでだ」


 なるほど、地震自体はクリア連動か。ならさっきの現象とかは関係ないか?

 ……別の事考えようと思った矢先にこれだ。引っ張られてる。


「本来ならばこの世界の住民であるNPCのほうが反応しそうなものなんですが、揺れが収まれば皆何事もなかったかのように元に戻るんですよね」

「それ、スーの言う通り。気味悪い」

「何かホラーっぽくて無理、これだけ高度な自己判断下せるAIが搭載されてるのに反応が画一的すぎる」


 実際に目にしたわけではないけども、これは相当な光景だったみたいで。

 揺れに慣れ過ぎてる日本人だってもうちょっと話題にするぞってレベルで反応ないのかな。


 まぁ何かしらありそうだけど今は置いておこう。まだ聞きたいことあるし。


「もう一個、Break Carrierって聞いたことあります?」

「キャリーバッグ壊れる?」

「アホな事言ってなや、アホーミリオン」

「この場合なら意訳とまではいかないが破壊を運ぶ者と言ったところか」

「流石クリムゾンおじさん。略してさクリおじ」

「生贄求めてきそうですね」

「そんなタイトルのVRMMOモノありそう」

「要約すると誰も知らないっぽいな、何ネタだそれ?アンタのことだ、小遣い稼ぎのサブクエ何かじゃないだろ?」


 まぁ実際そうなんですけどね、明らかに厄ネタというか。まっとうなモノじゃない気はしてる。


 というか俺ってだけでその認識はどうなのと。やらかしとかしてないし掲示板にも顔出さない、ネタ提供もしてないんだけどなぁ。


「さっきのキャパオーバー関係で。あんまりよくわかってないから答えようがない感じです」

「なるほどな、まっ面白くなりそうなら誘ってくれや。というわけで今からどっかい行かねえか?」

「今装備更新待ちなんですよねえ、何時できるかは不明だけども」


 色々放り投げてきたから結構掛かるだろうな、素材の検証からだろうし。

 あと制限が解除されたんだっけか、手間暇かけてギミック仕込んだり現実みたく加工できるとか言ってたな。

 作った物がシステムに判断されてステータスとして能力が付与される。

 相変わらず化け物みたいなシステムだ、化け物AIにでも管理させてんのかよ。

 機械に管理されるって基盤と行列っぽいな。あの映画好き。


「あーならまた今度だな、そん時はW1かN1でもいこうぜ」

「N1は出来れば置いておいて欲しいと言ってましたよ。だからLoFLも西に行きましたから」


 ヴァーミリオンのN1提案はスカーレットのインターセプトで断念。

 しかし北放置ねえ、何となくわかるけどあからさま過ぎたら気付かれて余計に拗れそうだけど。


「何で北ダメなの?」

「カーマイン、このゲームには初回報酬があって私達以外にもプレイヤー存在するということだ」

「なる、理解」


 そりゃまぁ初回撃破報酬なんかあったら欲しくもなるよねってことで。

 ゲームに閉じ込められる訳の分からない状態だからこそリソースの独占何かは不満を溜めかねない。


 現状取りやすい1マップは北しか残ってないからね、必然的に北残しにもなるか。


 けどそうなると今後は撃破の見通し立ってもレイド上限までメンバー集めてとか言い出す奴いそうだなぁ。邪魔くせえ。


「なんなら東の先とかまで案内してくれてもいいんだぜ?」

「あそこもうフィールドじゃなくてセーフエリアなんですよねえ、残念」


 どんまい、そういうこともあるさ。

 俺がやったから何も言えないけど。


「まぁ東ならルート含めて案内位は出来るんで、機会があれば。ただ最初から最後まで連戦なんで余裕のある時にでも」

「寝ても覚めてもエンドレスで狩り続け、無我夢中の動物狩りか」

「フロイト博士が見たら何て診断下すんでしょうね」

「おいやめろ!人の精神を分析するんじゃねえ!」


 診断とかやる機会あったら真っ先にやらされてそうだなこの人。


「抑圧された欲求が形を変えて出て来るらしいですから、そうなると」

「あー何か海とか行きたくなって来たなぁ!山じゃくて海とか!」

「海ですか、ゲームの中だし電子の海ですねえ」

「ディラックの海かよ、そこ絶対水もなければ空気もないじゃねえか!」

「負のエネルギーはありますよ、案外ゲートでも生成されて現実に帰れたりして」

「だといいな、それなら皆して飛び込むわ。変な使徒とかいなけりゃいいけど」


 この人結構ノリがいいな、PTメンバーが弄って遊ぶのも分かる気がする。

 打てば響くというのか、リアクションと反応がよく守備範囲も広い。


「そんじゃあな!また声かけるわ」

「期待しないで待ってますね」

「そこは期待して待ってろよ!」

「ははは」


 そんなこんなでヴァーミリオン達の朱界と別れ一息。


 かなり精神が落ち着いてきた、安定してきた。さっきは足元揺れるくらいグラグラだったからなぁ。

 他愛もない話ってやっぱり大切だよ、精神には余裕が必要だ。


 なんでそんなことを言うかと言えば、教会の聖堂前まで歩いてきまして、改めて現状を認識したというか現実を初めて直視したというか。


 悪く言えば腐ったプレイヤーの吹き溜まり、オブラートに梱包して箱に詰めるくらいマイルドに言い直せば脱落、ドロップアウト組の避難所。そんな光景が目の前にありまして。


 リアリティではなく度を越えた遜色ないリアルさで叩きつけられた現実に適応できなかった人達。

 ゲームの上手い下手だけではなく痛みと死への恐怖、根源への恐怖に呑まれて心が折れてしまった人達。

 そんな無気力状態でただ全てを人任せにして消費するだけのデットウエイト。


 仕方がないとは思う、誰だって向き不向きはあるしどうしても無理なものはある。

 全員が同じ精神構造をしてるわけでもなし。ダメージや負荷の許容量は人それぞれ、そりゃそうだ。


 幸い教会は敷地で保護してくれるからいいものの、それキャベンデッシュ領なら無限にリスキルされてるよ。


 それが何で最初の精神の余裕に繋がるかというと答えは単純、民度がやばい。


 自分じゃ何もできないから目処は立たず不安だけが先行する。ストレスに曝され続けた精神は摩耗しささくれ立ち触れるものを傷付ける。


 関係ない人間に当たり散らし自分より弱いものを見つけ優越感に浸る。

 ヒエラルキーの最底辺でまた階層が作られてる。


 こうはなりたくないな。自分じゃ何もしないのに口から出るのは文句ばっかり。

 生産性の欠片もない。

 協力もしない、批判はする、足を引っ張り愉悦に浸る。


 まだゲーム内に閉じ込められてたかだが10日だろうに。

 よくもまぁここまで醜悪なヘドロを煮詰めて圧縮して腐らせたみたいな精神になれるな。






 ……あぁ、イラつくなぁ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る