21 これが一番早いと思います
腐肉が飛ぶ、脂肪が飛ぶ、骨片が、臓器が、皮膚が、よく分からないモノが。
ビチャビチャと使用人達だったものが飛ぶ。
削り、引き千切られ、抉り、撒き散らされる。
白を基調とした美しかった空間は、赤黒くブヨブヨとした黄色のアクセントと共に塗り直された。
これが本来あるべき姿だとでもいう様に。
「HAHAHA楽しいな?MP消費キッツいけどさあ!頭いてええ!」
グングンと減り続け今や残り40%を切ったMPバーを見ながら狩り続ける。
大半は再生不能なほどに轢き潰した。撒き散らした。
今も減り続けるMPだが消費に見合い過ぎるほどの効果は出た。
雑魚を倒さないとメインに行けない、メインに行けば雑魚にやられる。
雑魚はメインがヒールする、メインがいれば雑魚は減らない。
そんなのはもう終わりだ。
フィールドはクリーニングした。残りは増えるごとに処理していけばいいだろう。
安定は失われた、均衡は崩れた、停滞は終わった。
「ナッシュ均衡が崩れちまったなあ!駆除速度が物量の維持速度を超えましてよ?」
口から勝手に出たけど絶対ナッシュ均衡関係ない。そもそも成り立ってねえし。いや成り立ってたのか?あれ?
いや、どうでもいいや。今考えることじゃない。
今はこの時間を有効活用することだ。リポップによって空間が埋まるまでの時間。
床を蹴り、階段を蹴り、手摺を蹴り上を目指して駆け抜ける。
そっちが後の先取ってのブロック決めるならこっちは初手でぶっ潰してやる。
合間に殴りかかった時にパターンは調べてたんだから。
「浄化」「ヘヴィミスト」「ダウンバースト」
その盾だけじゃ空間全体は防げないだろ?
特攻を乗せた目くらましで強制的に視線を切る。
床を這うように、しかし速度を落とさず得物に一番のエネルギーを与えられる位置へ。
ポールアックスを横薙ぎに思い切り騎士の膝へと叩きつける。
追撃、今なお縦横無尽に飛び回る虚鋸を叩き衝ける。ギャリギャリと装甲の薄い関節部を削り落すように耳障りな音を響かせ押し付ける。
意識が下に向いた瞬間に盾の死角から横腹を蹴りつけたたらを踏ませ、構えられた盾の縁に手をかける。
「いい加減にくたばってくれ」
目視、近距離で確認。絶対に外さねえ。
盾を持つ腕、その指に全力で虚鋸をぶつけ挟み込む。バリバリという音と共に指が飛ばされる。
逝ったなぁ、これでもう盾持てねえな?
反撃の片手剣による突きを半身で躱し魔法でカウンター。
「リキッドアックス」
顎が下からの直撃を受け跳ね上がる。その首元を狙ってやれば、はいさようなら。
首と胴体でお別れだな?
「デュラハンにクラスチェンジじゃん?おめでとう、そしてさようなら」
そのまま色々見えてる断面にガントレットで手刀擬きを突き刺し体内で浄化発動。
「一体消化ァ!」
この間実に何秒か。戦いながら時間なんて計れません。リキャスト管理は別。あれできないとまじでゲームなんてできないから。
収支は上々、護衛一体と引き換えにMP大量とHPが3割。適当にアタリを付けて撃ってきたのに当たってしまったわけですな。
マナポで回復しヒールを掛け一時撤退、弾幕避けながらの駆除作業の続きと行こう。
ついでに虚鋸も時間切れで、空気に溶けるように消えていく。
手数も火力も激減状態に、バーストみたいなもんだからアレ。
残りの限られたリソースで上手いことやるには自然回復を無駄には出来ない。
これで騎士も補充されたら無限ループだなぁ。
フラグじゃないのでやめてね。
◇
領主ゾンビの使う魔法は三属性。闇、土、風で鉱山都市とするなら如何にもというべきか。
絶え間なく飛んで来るのが鬱陶しくて敵わない。
何でそんなに連発し続けてるのにMP切れ起こさないんですか。
実質無限かぁ?ずるいでしょ。
ってか騎士一人落としてから弾幕が本当にきつい。密度二倍でどうですか。
幸い範囲魔法を連発とかはしてこないけどさ。
合間合間に数少ないマナポを使用し回復させていく。リキャ毎連打も可能ではあるが回復量低下と中毒、水腹、酩酊あたりの状態異常くらうからノーチャン。
火力が足りないとヒールの餌食で振出しに戻る。一撃必殺ですよ時代は。
まぁバラバラにしちゃえば実質死んだようなもんですけどね。
行動不能でHPゲージだけ満タンとか壊せる障害物じゃん。
そんなこんなでMPが8割程まで回復っと。ではでは再びスプラッタのお時間です。
浄化を乗せて魔法展開、虚鋸を形成。
目標はもう一体の騎士、まずは雑魚狩りRTAから始めましょう。
チャート構築済み?ガバガバ過ぎて再走確定じゃんこんなの。
「でもこのあとノーミスなら世界記録だし?なんなら現時点で世界記録だし。先駆者もいないから俺が世界一位だ!」
自分でも何言ってるかちょっと理解できないけれども良しとする。
時間も押してますからねえ、サクサクいきましょう。
「雑魚に構ってる暇はねえ!」
胸部を魔法を伴った攻撃で破壊し強制停止。
とにかく今は数が減ればそれでいい。斬って、蹴り潰して、突いて、薙いで、砕く。
顔面を踏みつぶし勢いのまま回転、上空からの回し蹴り。グリーブの重さで威力マシマシ。
物理エンジンとかいう半端だと反重力を生み出すバグ御用達、ここではまっとうにお仕事してますね。リアルと差がないんだから。
ちょっと感覚を掴んできた。いくら現実としか思えなくてもここはゲームなんだから。
跳躍に軽業というスキルのアシストは確実にあり、それこそ漫画やゲームのような動きを可能にする。
ステータスとスキルによって強化されたSTRは、片腕で装備を含めた重量を支えうる。
AGIに伴い体感速度は引き伸ばされ一瞬を意識的に捉える。
飛来する魔法を認識、しゃがんで回避し後ろから来ている雑魚の顎を踵で蹴り上げる。
勢いのまま片手で体を支え重力と運動エネルギーが拮抗する瞬間に身体を捻り斧槍で周囲を一閃。
下に昇る視界を体を無理やり捻り着地し元に戻す。
出来ましたねえ、思い付きだったけど出来た。
地に足を着けたほうが良いのは分かってる。でも地面に縛られる必要はないな。
大切なのはイメージです、在り来りだけど。
「出来ることが増えるって楽しいな、そう思わない?」
階段に駆け寄りながら話しかけても当然答えは返ってきませんで。魔法は飛んで来るけどね。
手摺の外側に足をかけ傾ぎながら高度を稼ぐ。バックフリップで弾幕を飛び越えて二階の張り出しへ着地。倒れ込むように体を低く、そのまま地面を擦りながら魔法の射線から逃れる。
無茶な動きをしても支えられる身体がある、可能にするステータスがある。
選択肢が増えるっていいね、今更ながらこの世界のZ軸を感じられる。
知らず知らずに固定概念に囚われていたのかな。
斧槍と盾を交えながら考える。この無駄に反応のいい硬い奴のガードをどうすれば抜けるか。
虚鋸も盾と長剣によっていなされ直撃がない。
やっぱさっき処理できたのは状況が良かっただけだな。初撃から綺麗に繋がり過ぎた。
それに護衛として単独になった結果思考ルーチンにパターン変化入ったんじゃないかな。
明らかに反撃が少ない、消極的に過ぎる。
埒が明かないぞこれ。という訳でこうしましょう。
「死に晒せ無限魔法爺め!」
盾を蹴ってサイドステップ、虚鋸を飛ばして纏わりつかせる。
護衛の射程に入らないように壁を蹴って頭上から追撃。
「純魔じゃ捌けねえよなぁ、インターセプトご苦労である。死ね」
間に割って入った護衛君を盾の死角から滅多打ち。腕を壊してしまえばあとは同じパターンで処理するだけだ。
しかしまぁ気が付いてしまったが俺って武器の扱いも体の扱いも下手すぎない?
脚運びから長物の扱い、姿勢と重心制御と。一回どこかで経験者にでも教えて貰ったほうが良いのかな。
今ぶっ壊そうとしてる騎士の動き見てて本気でそう思う。
それでも何とか硬い子も駆除完了。もうクリアしたようなもので。
「物量型の中の支援個体がタフい訳ねえよなぁ!」
苛烈さを増す弾幕を避けて弾き距離を詰める。幾つか当たるもHPで受け止める。
引き撃ちでこちらを削り雑魚の中に入ろうとしてくるが関係ない。
全部潰す。
「HAHAHA残るはテメェだけだぞクソ領主!」
最低限の挙動で躱し自分の距離へ。
雑魚は刻んだ、今なら邪魔は入らない。
「ボスは死んだらそれまでだ」
ダメージなんて関係ない、削り速度が削られる速度を超えればいいだけだ。
ノーガード戦法最強だな。
「蘇生リスポンは効かねえぞ?」
死ね、死ね死ね。先に死ね。俺よりも早くくたばれ。
上げろ上げろDPSが足りてねえ、遅ぇ。まだ上げられる。
「テメェと俺でダメージレートは10:9」
刻め刻め刻め刻め、武器も防具も魔法も全部だ。全部使って削り殺せ。
「負けたら追徴課税だぞ」
撃ち合い、正面突破。開けた。
天秤は傾いた。
「徴税の対象はァ!」
ポールアックスを振り被り地面に沈み込む程に踏み込む。
「お前の命だクソ領主!」
◇
《フィールドボス:キャベンディッシュ・サーヴァンツの討伐を確認》
《貢献度ボーナスにより報酬が増加します》
《初討伐報酬を獲得します》
《単独撃破報酬を獲得します》
《取得可能スキルが追加されます》
《E2祈還の鉱墓のエリアポータルが解放されます》
《E3キャベンディッシュ崩山が解放されます》
《N1E2サンイート峡谷が解放されます》
《S1E2神の住む山が解放されます》
《開放度ゲージが更新されます》
《その他各種機能等が適応されます》
《良い旅を》
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