第20話 邂逅

 世界樹—50層—


 パトリオットの案内で最上層を行く。

 聞いていた通り、そこは複雑で巨大な城のような空間が広がっていた。

 左右を見回しても果てが見えない。

 この何処かにグロリアが来ているかもしれないと思うと早る気持ちを抑えられそうにない。


【ひとまず最深部を目指そう。道中出てくる甲冑の敵は大した強さではないが、数が揃うと面倒だ。気をつけてくれ( ̄^ ̄)ゞ】


 隣を歩くパトリオットから紙を手渡される。

 歩きながら書けるのかよ......。


「なぁ、声出せねぇのは仕方ねぇけどよ。いちいち紙書いて見せてくるってのは手間じゃねぇか?」


【俺もそう思ったんだが、他に妙案も浮かばなくてな。アーツで思念伝達も考えたが受け取る側と波長を同調させなければいけない。それを5人分となると大変だからな。こういう形に落ち着いている。_:(´ཀ`」 ∠):】


「あぁ、お前も大変そうだな......ちなみになんだが、5人がダメなら俺1人に対してならどうだ? お前から受け取った思念を俺が全体に伝えることならできると思うが」


【・・・Σ(゚д゚;) その発想はなかったな、試してみる】


 無表情のくせに表情豊かすぎるだろ。

 そして少しすると、不意に思考に「ザザッ」と雑音が入り始めた。

 しかし数秒するとそれも鮮明になる。


『どうだ、ちゃんと届いているか?』

「おう、バッチリだぜ。適応力高ぇな」

『それほどでもないさ。さぁ、先を急ごう( •̀ω•́ )و』


 あ、それは紙だろうと思念だろうと関係ねぇんだな......。


 そして城門を目指して歩いていると、噂に聞いていた甲冑兵と接敵する。


「全員、構え——」

『その必要はない』

「は???」


 俺の号令を遮って思念を送ったパトリオットが、瞬きの間に甲冑兵の首を落とす。

 いや、マジ?


『この程度の敵が1体程度なら君たちの手を煩わせるほどでもない。安心してくれε-( ¯﹀¯` )』

「お......おう......?」


 俺たち全員が呆気に取られてると、またパトリオットが歩みを進める。


「あいつ......俺たちが知ってた頃よりずっと強くなってないか......?」

「ステージ5だって言ってたし......多分考えたら負けよ」


 振り返ったパトリオットがキョトンとした顔でこっちを見ている。

 思念こそ飛んでこないが『どうした、いかないのか?』とでも言いたげだ。


「ねぇベイ、私たちアレと本気で殺り合おうとしてたの......?」

「あぁ......なんつーか味方でよかったって今すげぇ思う」


 パトリオット以外の全員の気持ちが一致したところで俺たちは進行を再開。

 あれから戦闘を何度か見たところパトリオットは1人で色々なんとかできるようだったので、俺たちがたどり着けそうにないエリアの探索を頼んだ。

 話し合いの結果、おっさんも同行する方向で話が纏まり、最終的に俺、クロエ、ガラテアと、パトリオット、アルトリウスの2組に分かれて探索を再開、したのはよかったが、城門が見え始めたあたりで、門番だろう甲冑兵数体に囲まれた。


「くそっ、ついてねぇ。クロエ、ガラテア。いけるか?」

「もちろんよ」

「いつでもおっけーだよ!」


 各々戦闘体制に入る。

 俺が前衛、ガラテアが中衛、クロエが後衛。いつもの編成の縮小番だ。

 兵士は全部で5体、うち2体が斬り込んでくる。


「重そうな装備のくせに素早いなコイツらっ!」


 振り下ろされる剣は左右の空間に逃げ込んで躱し、横凪の剣はおっさん直伝の往なし術でやり過ごす。

 1、2体ならまだしも3体ともなると反撃の隙がねぇ。


(クソッ、このままじゃジリ貧だ。せめて一体でも削れれば!)


 すぐ側ではガラテアが兵士2体の攻撃を引きつけて斬り合っている。先ほどから弾けるような金属音が響き続けている。

 それに対して俺は、3体の兵士に順に斬り掛かられて防戦一方だ。


「『——躍る不死鳥、吠える炎獅子。始まりを告げる黎明の光。輝ける天輪よ、今汝の祝福あれ!【刻印カラクティア眩く照らす午前の光アクティフィロカルフォース!』」


 3体の兵士相手に被弾しないことを最優先で戦っていると、少し長めの詠唱を終えたクロエから援護が寄越された。

 クロエのアーツで生み出された小さな太陽から放たれる光があたり一面を包み込む。

 すると兵士たちが眩しそうに後ずさっていった。


「助かったぜっ! 『我が剣が、稲妻の影を纏う【覚醒】黒雷・滅尽』」


 剣に黒い稲妻を纏わせ、一番近くにいた兵士を斬り伏せる。

 まずは一体、しかし敵もただやられる案山子ではなかった。

 俺が斬り込んだ隙を見て斬られた兵士で光を遮り、そのまま兵士の残骸ごと貫いてきやがった。

 まるで無感情な人形だな。

 咄嗟に飛び退いて躱す。その頃、視界の端ではガラテアも一体撃破しているのが見えた。

 そして余裕ができたのか、ガラテアがこちらの援護をしてくれるようになり、不利だった状況が傾き拮抗する。

 ちょうど3対3の状況になり、俺が鍔迫り合う形になった時、突然何かが物凄い勢いで降り立ち、俺と斬り合っていた兵士が撃破された。

 そして崩れ落ちる兵士が舞台の幕を開けるように、ゆっくりと背後に降り立った者の正体を表す......よりも早く、とても聞き馴染んだ声が耳に届いてきた。


「よぉ。久しぶりだな、ベイ」


 そこにいたのは、背中からデケェ翼を生やしたグロリアだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る