探索、ユグドラシル! side ベイ

第15話 その頃彼らは—

 時は遡り——


 —世界樹15層—


 ザクザクと雪を踏みしめる音だけが聞こえる。その数はここへきた時より1つ少ない。

 つい先刻、目の前で親友を失った。生きていてほしいと思うが、状況が状況なだけにそれがゼロに等しいことは俺たち全員理解していた。流石の俺も気が滅入っちまってる。よりにもよってなんでアイツがっ......!

 握る拳に力が入る。生暖かい感触が手のひらから滴るように溢れていくがそんなものはどうだっていい。

 そのまま誰一人言葉を発することもなく、14、13、12と降っていく。

 襲ってくる雑魚どもは俺とアルトリウスで蹴散らした。このやるせない気持ちをぶつけるにはちょうどよかった。

 そうやって何日か出会う魔物を片っ端から切り刻んで殴り飛ばして進んでいたらいつのまにか出口に辿り着いていた。外はすっかり暗かった。


「......街までもう少しだ。今日は休んで、明日からまた進もう」


 先頭に立つアルトリウスおっさんの言葉もどこか暗いものだった。そしてその声に対する返答は誰からも無い。

 クロエは今にも泣き出しそうなのをずっと我慢している。いや、夜中こっそり泣いていたがみんな気づかないフリをしているだけだ。


「おっさん。ここまで来たんだ、もういいだろ。そろそろ説明してくれても」


 その日の晩。おそらく最後の野営の最中、俺はアルトリウスに切り出した。

 あの戦いの最中、アルトリウスが奴を弾き飛ばした謎の技を俺は見逃さなかった。


「アル、彼らにこれ以上隠すのは無理よ。いい機会だし全部話しましょう?」

「......それもそうだな。わかった、知りたがってること全部教えよう、2人はまず何から知りたい?」

「その言い草からすると隠し事は1つじゃなさそうだな。とりあえず最初はあの時使ってたワケのわからねぇ力についてだ。あの化け物を一撃でどうにか出来ちまうなんざどう考えても普通じゃねぇ」


 そう問いかけると、アルトリウスはそれがアーツとかいう力によるものだと言った。『願いや想像を具現化する力とそれを扱う技術の総称』とかで、魔法の元になった力だとかなんだとか。


「そんな便利な力があったならなんであんな事になるまでっ!」

「落ち着けクロエ、あそこまでひた隠しにしてたって事はそれなりの理由があるもんだ。吐けよ全部、理由くらい聞いてやらぁ。事と次第によっちゃただじゃおかねぇが」


 感情的になって怒りを露わにしたクロエを宥める。しかし俺も少なからずクロエと同意見だった。


「......少し長くなるぞ」

「構わねぇよ、時間なんざいくらでもあるだろ」

「わかった。率直に言えば、すぐにアーツを使わなかったのは、君たちへの影響を考えたことと、俺たちの素性が露呈する事、またそれによって君たちを巻き込む事を危惧してのものだ」

「あ? お前らの素性云々はまぁともかくとして、俺たちへの影響ってのはどういう事だ?」

「順を追って説明していく」


 そしておっさんは、アーツ樹灰病じゅかいびょうとか言う病気の副産物である事、使用すればこちらへの感染リスクが上がる事、俺たちは生まれながらに樹灰病にある程度の耐性を持っている事など、理解する事で精一杯な情報をポンポン投げてきた。


「ってーとアレか、お前らが使うアーツは極めて強力、故にこちらへのウイルスの及ぼす影響力もバカにならない。だから最後の最後まで使うのを渋ってたってのが1つ目の理由か」

「あぁ、おおよそその認識で間違いない」


 正直くだらねぇ理由だと思う。俺たちの感染を危惧して仲間が1人いなくなる羽目になるなら、全員感染してもいいからさっさと片をつけて欲しかったってのが正直な感想だ。

 表情を見るにクロエもまぁ似たような考えだろう。これだけなら殴り飛ばしてるところだったが......。


「で? 肝心のもう1つは?」

「俺たちの素性と君たちを巻き込むリスクについてだな。これが一番の理由であり、全ての核心とも言える」

「さっきみてぇに知らねぇ事バンバン言われるとこれ以上は許容量オーバーだぞ」

「......できる限りわかりやすく伝えるよう努力しよう。そうだな、結論から言おう。俺とガラテアはこの時代の人間ではない」

「ま、だろうな。さっきのアーツがどうちゃらのくだりで何となくそんな感じはしてた」

「それは察しが良くて助かるよ。俺とガラテアは1500年以上前に生み出された、所謂戦争道具なんだ。その数少ない生き残りの内の2機、それが俺たちだ」


 クロエがもうダメそうな顔してやがる。理解できる範疇ギリギリって感じか。


「俺たちの他にも、元仲間の生き残りが数機いてね、その残りの奴らと訳あって今は敵対しているんだ。1500年以上続いて尚決着のつかない無駄に壮大で極めて不毛な争い、それに君たちを巻き込む事は避けたかった。こう言えば、察しのいいベイなら少しは理解出来るだろう」

「そういうことかよ。多分15層のアイツもその生き残りとやらなんだろう?」

「あぁ、だが彼がに立っていることがどうにも解せない。あんな事をする奴ではなかったはずだが......」

「おそらく、この1500年で何かがあったんでしょうね。貴方や私と同じように」

「確かに、そう考える他ないか......さて、これで少しはわかってもらえただろうか」

「あぁ、大体お前らが出し惜しみした理由はわかった。正直1つ目はくだらねぇ理由だと思わんでもねぇが、そっちの事情も理解したしその事についてはここで終い、これ以上は言いっこ無しって事にしよう。クロエもそれでいいか?」

「......うん。でも一個だけ聞かせて」

「なんだい?」

アーツなんて便利な力があったなら、それでグロリアを助けてあげる事はできなかったの?」


 確かに、そこは俺も気になってた。話を聞くに、アーツってのは思い浮かべた事象を形にできるらしい。こいつらレベルの使い手ならあの状況からグロリアの野郎を助け出すこともできただろう。


「......それができれば何よりだったんだがな」

アーツも万能ではないの。踏み止まれていたならまだしも、どこまで続いてるのかもわからない谷底へ落ちていった人をあの状況から救い出すのは流石の私たちでも不可能だわ」

「うん、わかった......ありがとう。私からは以上だよ」

「よし、俺たちからは以上だ。お前らもそれでいいか?」

「ああ、こちらとしても依存はない。君たちさえ良ければ今後もよろしくお願いしたいところだ」

「ああ、俺たちもここまで来たら後戻りは出来ねぇからな」

「......それで、今後の方針はどうするの?」


 話がひと段落したところでガラテアが切り出した。確かに今は明確な目的も何もない。


「それについてなんだが......」


「俺から提案がある」

「私からお願いがあります!」


 俺が言おうとしたところで、おっさんとクロエが同時に口を開いた。


「まずはおっさんの提案を聞こうか」

「ああ、俺からの提案は2つ。君たちの強化訓練とグロリアが生きている可能性に賭けた捜索だ」

「クロエは?」

「私からも同じで、グロリアが生きてるって信じて探したいって言おうとしてたよ」

「どっちも同じか。わかった、そう言う事なら今日から俺たちチームグロリアは強化訓練の後にグロリアを捜索する。アイツの安否がわかるまで......いや、アイツが戻るまでリーダー代理は俺が務めよう。意義のある奴はいるか?」


 3人を見渡すが、誰からも声は上がらない。


「決まりだな」

「早速明日の明朝、街へ戻って休んだら強化訓練を始めようか」


 チラッとクロエの方に目を向ける。もう先ほどまでの泣きそうな顔ではなく、凛と強く前を見据えた顔だった。クロエもグロリアの生存を疑っていないんだろう。


「よし、それなら今日はよく休んで明日からの行動に備えよう」


 アイツが帰ってきたらびっくりするだろうな。


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