⑤-8

 首に何かを刺された。でもそんなことはどうでもよかった。目の前でゆっくりと倒れていく少女から目を離せなかった。震える足を無理矢理動かして転びそうになりながらも駆け寄った。力の抜けた少女の身体を起こす。瞼が固く閉じられていた。息をしていなかった。喉から噴き出した赤く生温い液体に触れて、視界が乱れた。彼女の身体からとめどなく失われていくものを、肌で直接感じていた。

 ――全部、全部俺のせいだ。俺が側にいなかったから。俺が首謀者を止められなかったから。守ってあげると約束したのに。この娘の笑顔を守りたかったのに。どうして、こんなことに、ぜんぶ、俺が、俺は――


 身体の奥底に潜む獣が吠えた。辛うじて形を保っていた檻が、壊れたような気がした。

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