第7話
クラン———。
簡単に言うと、冒険者たちの集まりである。
……え? それだとギルドと一緒だって?
いや、クランはギルドを介さずに依頼を受けることができるんだ。
クランごとの責任者が、メンバーへの報酬からとる手数料を自分たちの裁量で決めることができるってわけだ。
あと、クランはメンバーが10人以上じゃないと成立しない。基本的に人数が多いため、冒険者ギルドからクランに大規模な討伐依頼がきやすい。
クランのデメリットは、依頼の失敗をするとそのクランの評判が悪くなり、依頼してくれる個人や団体が減ってしまうことだな。
つまり何が言いたいのかというと、依頼を失敗しないようにクランメンバーは慎重に決める必要があるということだ。
だから、初対面で俺にクランへの誘いが来たのがなぜか全く分からないんだ。
まぁ、ここでなにか裏があるのかと疑うのは当然なのだが、それより困惑の方が大きいのはこの巨漢が話したクラン名に聞き覚えがあったからだ。
「『夜明けの君主』ってあのAランククランという……ッ!」
「馬鹿、知らねぇのかよ! あの人はAランク冒険者のガルフさんだぞ!」
「おいおい、なんであの少数で実力派のクランに登録したてであんなに若いヤツが誘われてんだよ!」
「そうだぞ! ソイツより俺の方がAランククランに相応しいに決まってる!!」
周りにいる冒険者たちが騒ぎ始める。
うん。やっぱりAランククランの名称だったか。
「俺の言葉に不満があるのか?」
「「「「「……!」」」」」
ふと、底冷えするような強い殺気がギルド内に広がる。同時に、巨大な魔力も《魔力感知》で捉えられる。
その発信元はもちろん、目の前にいる巨漢——ガルフだ。
(この魔力……巧妙に《魔力操作》で隠していたのか……!)
「いえいえ、そんなわけないですよ! コイツがそう言えって……」
「なんでだよ! 人に擦り付けんな!」
「そもそもお前が……っ」
一部の冒険者たちの争いを見て、ガルフはため息を吐いたあと、再び俺に話しかけてくる。
「で、どうなんだ? 俺のクランに入らないか?」
「恐れながら、今回は辞退させていただきたく存じます」
「ほう」
ガルフの目が細められる。
「理由を聞こうか」
(えっ、理由!?)
しばらく沈黙が続くと、冒険者たちも事の成り行きを固唾を飲んで見守る。
「どうした? 何か言えない事情でもあるのか?」
自然と冒険者たちの間に緊張が走る。
そんな中、俺は内心焦っていた。
(えー、自由に生きたいからって言ったら駄目そうだなぁ……それなら……)
「いえ、昨日のことを思い出していただけですよ」
「昨日? 何かあったのか?」
「ええ、俺は昨日冒険者登録を済ませたばかりでして……まだ全く経験を詰めてなくてですね……なので、冒険者として暫く働いてみてから検討してみようかという所存です」
うん。この質問への返事は未来の自分に任せよう。
「そうか……。ならば仕方がないな。また今度誘うとしよう」
そう言い残してガルフがギルドから立ち去ったのと入れ替わりにウォルクとサラがギルドに入ってきた。
「よう、ゼオユーラン。今日もよろしく」
「あ、あぁ、よろしくな、ウォルク」
中々にインパクトの強い出来事のあとだったので、俺は少し落ち着きなくウォルクに挨拶を返したのだった。
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