惑星アーリア
大地に立つ
『惑星アーリア』
—着陸完了。
—光学迷彩百%。大気圏突入時、一時的に切断されていた本船との通信復帰しました。
「やっと着いたか。それにしてもこの惑星の空はなんだ? ルドルフの風景画みたいな色じゃないか?」
—オズ。
—残念ながら旧世紀の画像データはアーカイブにありません。
「そうか、そりゃあ残念だな」
—そのかたの作品はどのような物なのですか?
「こんな感じだよ。青に黄色が混ざった空、雲すら黄色く霞んでいるんだ」
—なるほど。確かにこの空の特徴と似ていますね。
「人類が初めて重力から抜け出して月に着陸した時、その船に乗っていた船員はこう言ったそうだ『地球は青かった』ってな。揺籠から抜け出したそいつらは、きっと何にでもなれる気がしたんだろうな。」
自分達の祖先が謀略と怨嗟の化身と成り果て、終わることのない火薬と硝酸の雨であの青い星を赤く染め上げたとこを知ってしまったら、いったいそいつらはどう思うんだろうな。
「きっと叱られちまうな。あの星を捨てた俺たちは…」
—あなたたち人間はあの出来事を改ざる過去の罪と認識しているのでしょう? その罰を受けるのが種の保存のために複製された別の個体というのはいささか奇妙な話ですが。
「俺たち人間は子孫を作ることをそんな風に認識しちゃあいないのさ。もっと感情的で本能的などうしようもない衝動なんだよ。だからな、親から愛を受け取るのと同時に、罪や罰。後悔やら遺恨なんかも与っちまうのさ。機械のお前にはわからないだろうがな。そういうのが理解したいならドストエフスキーでもインストールするんだな、確かアイツの遺品の中に入っていたぞ」
—それはとても興味深い提案ですね
「まったく…… お前はひょうきんなAIだよ。まあ、過去の話はこれくらいにしようぜ問題は今の話だ」
そう、問題は今の話だ。この惑星が地球人の住める場所なのか、そして人類の再建にふさわしい場所なのか、それを見極め、本船に眠っている同胞達を深い眠りから目覚めさせるのが俺の役目だ。
「ノア、予定通り地質調査に出る。お前は観測された生命体の情報を集めろ」
—了解。
そう言って俺は船外活動用スーツを身に纏った。
俺はこのスーツが嫌いだ。船体同様セラミック製のコイツはスーツとは名ばかりで甲冑と呼ぶ方がふさわしいだろう。フルフェイスの頭部には記録用のカメラがいくつも取り付けてあるし、宇宙空間での船外活動も想定しているため身体中のあらゆるところにSAFERが埋め込まれている。おまけに背中は酸素や推進剤のパックがのしかかっていると来たもんだ。こんなものを着て重力に惹かれるのは拷問に近い。
「よし、外に出るぞ。スーツの光学迷彩をオンにしろ。それから音声とメインカメラの映像を録画開始。バックアップデータを本船のNASへ転送しろ。」
—了解。
—録画開始。お気をつけて。
「#1034こちらオズ。昨夜の記録で話した惑星に無事着陸した。
ノアによると一定の文明レベルを有した生命体も確認しているそうだ。現在その生命体の詳細を、衛生軌道上の本船とノアに調べさせている。
俺はコード七に従い、地質調査を行う。以後この惑星を便宜上アーリアと呼称する繰り返す。この惑星をアーリアと呼称する」
船外に出て最初に目に入ってきたのは豊かな緑だった。背の低い雑草から数種類の花、奥の方には針葉樹らしき木々が群を成して森を形成している。
「アーリアは植物が豊かのようだ、地球と同じく緑色に見えることからクロロフィルを保有していると想定される。また、一次調査に降ろしたバイパスの分析結果から酸素の検出を確認ことから、光合成をしている可能性を検討。検証のため葉を採取して持ち帰る」
俺が目覚めてから、何度か惑星を調査したが、ここまで地球に近い植物を見ることはそうそう無かった。大抵が枯れ果てた荒野か地球の植物とは全く異なる色や形をしていることが多い。
—オズ。報告です。
「なんだ?」
—生命体の分析結果が出ました。彼らの外見的特徴は地球人とほぼ変わりありません。
「ほぼ、というと?」
—はい。地球人にはない臓器を一つ有しているようです。アーリアは地球と比べ放射線濃度が高いようなので、体内に取り込んだ放射能を分解する器官かと想定されます。その他の特徴は脳の構造から呼吸法に至るまで地球人と同じようです。また、生命活動に必要なエネルギーも地球人と同じく動植物を経口摂取することよって補っている模倣です。
「よし。文化水準はどうだ? 確か建造物を確認したと言っていたと思うが」
—言語は現在解析中。建造物は粘土類や硝石類などを加工した、比較的脆い構造をしているようです。
粘土や硝石か…… さしづめレンガといったところだろうか?
「記録継続。近辺の地質調査を終え次第、一度、遠征艇に戻り記録をまとめる。作業終了後アーリア人の調査に向かう」
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