バブリン・ガールは開発したい!
馬田流為 硝胡
第一章 出会い
0話 プロローグ
男はひと通り体を洗い終え、ぺたぺたと鳴る床の上を歩き回っていた。
「18禁エリアSだと?」
まだ朝早い時間に店を訪れた客はそう呟く。
「サービスいたしますと書いてあるが…お背中流します的なやつか?」
ここは、先月オープンしたばかりの銭湯のはずで、俺は奥に行けば行くほどシャワーの設定温度が高くなっております、って番頭さんが言うからどのくらい熱いか試しに来ただけなのに。
「動機本店じゃあるまいし」
男は周りをチラチラと見て他の客がいないことを確認し、
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ここは魔法学園アヴァイアブル。机の一角を占領するボーイッシュな黒髪の女子生徒は図書室でひたすら魔法陣の勉強をしている…かと思いきや、広げっぱなしの教科書の上に流行りの恋愛小説を広げて読みふけっていた。
「全ッ然、人死なねえじゃ〜ん」
とはその女子生徒の言である。恋愛小説においてはごく当たり前すぎる情報である。
「登場人物紹介にあるキャラって大体次巻では(故人)って注釈付くもんでしょ」
「…付かない」
向かい側の席にいた茶髪の男子生徒はしかめっ面で答える。
君は普段どんな本読んでるんだ、とも言ったが、声が小さく聞きとれなかったのか質問に対する返事はない。
「そんないっぱい人出てきたらキャラ被りしちゃうじゃん。だから殺すんでしょ?みんな殺そ?」
物騒な考えを持っているようだが、あくまで本読みにおける女子生徒の価値観なのだ。悪しからず。
「困ったな〜、人が死ぬときの心理とか表情とか知りたかったのにな〜」
ニコニコと良い笑顔で女子生徒は喋る。話している様子は軽く、信憑性は疑われる。
専門書でも読んでおけ、と言いたいところだが、難しそうで読む気が失せてしまう感覚は分かる。なので男子生徒は何も言わない。何も言えない。
この女子生徒の名前はバブリン・オーシャン。そこはかとなく前世の記憶があり、自分でも訳が分からない発言をしてしまう時がある。そのため、たまにクラスで孤立する。
「そ〜んな時はこれ!図書室!図書室大好き」
「作者の台詞を奪うな。乗っ取るな」
「図書室はね〜なんと持ち歩けるんだよっ!veryyyyyコンパクト!いつでもどこでも誰とでも使えるんだよ」
「良かったね」
男子生徒は苦笑いを返した。
「というか、バブリンは何の教科書を恋愛小説の下敷きにしているのかな?」
と、男子生徒は問う。そういえばそうだった。本を開きっぱなしにしていては本が
しかしバブリンはそれらの教科書に構うことなく答えた。
「転移魔法系だよ?尿道くらいの極小の
「んんん?ん??なんか変な事言ったな今」
男子生徒は片眉を上げるという器用な真似を見せる。
「あと転移させる物を限定させたい。これを量産して使いたい」
「…………」
「他にも、そうだな、極薄の膜でも張りたいかな。そういう魔法あるでしょ?
「……」
男子生徒は色々と察した様子だった。
「あっ、もちろん伸縮するやつがいいけど」
「…それ魔法でやる必要ある?」
男子生徒はやっと返事が絞り出せた。
「ないかも。でもこっちのが得意だし」
「確かに。君はこれでも魔法学園の生徒だもんね」
「そうだよ?だからそんな変な顔しないでよカートリッジくん」
「カートリッジは正確には僕の名前ではないよ」
「発音ムズい」
唇を尖らせ愚痴るバブリン。
まあ正確な発音と言っても、タイムス・ボールドがメインで使われているのに1文字だけボドニー・ボールドが混ざっているとは分からない、くらいの誤差だが。
「分かってる。ほぼほぼ一緒だったからいいよ。たまには言い返さないとね」
「ちょっとよく分からない」
「君に言われたくはないから」
バブリンは笑っている。
◍•◍✧*。◍•◍✧*。◍•◍✧*。。
バブリン・オーシャンは生まれながらの『鑑定』持ちである。
ON/OFFは自由自在だし、鑑定のレベル上げをしているうちに出てきたよく分からない項目も多数ある。
バブリンの鑑定でしか見たことが無い変な、いや、新しい項目他は魔法連盟に報告する必要がある。しかし、あくまで努力義務であり、手続きが煩わしいため、特に報告していない。
バブリンは楽しみを奪われたくない。鑑定して何かを知りすぎることがないよう日常生活ではOFFにしているが、ダンジョンに潜るときなどはずっと鑑定ONにして見ている。
鑑定中は、視界に情報量が増えるくらいで「目がちょっと疲れやすかな〜」とのこと。
また、バブリン・オーシャンは軽度の潔癖症でもある。
◍•◍✧*。◍•◍✧*。。◍•◍✧*。。。
バブリンには夢があった。それは夢と言うにはいささか上品ではないが、とある店を開きたいという夢だ──バブリン自身にとっては幾分かエレガントな夢だ。
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