第124話 死ぬ気で頑張った者とそうでない者
俺は久しぶりに全ての制限を解除したので軽く跳ねたり体を動かしたりして感覚を戻す。
これをしないといざと言う時に体と頭でタイムラグが起こるからな。
そんな事があって勝てるほどコイツは弱くないだろう。
ただ白井はこのゲームをやりこんでいない様に見える。
じゃないとさっきも言った様にlevel10で挑みにこないよな。
それに俺は【鑑定不可】のある魔道具を付けているので、もし鑑定されそうになっても大丈夫だが、コイツは付けていない。
果たしてこれが強いから見せびらかしたいために着けていないのか、単にそんな事全く考えていないのか……。
ゲームではこのスキルは必須だったんだがね。
ゲームには鑑定した相手のスキルを任意に1つ奪うと言うスキルもあるので用心が必要だったんだが……。
もしかしてこの世界では存在しないのか?
まぁそれはおいおい聞くとしよう。
俺は神気を発動して拳を構える。
すると白井が体をぷるぷるさせながら言ってきた。
「お、お前……因みにファイターなのか?」
「いや、俺はオールラウンダーだが? まぁいつもは刀を使っているけどな」
「刀……? も、もしかして《魔剣闇夜》と《聖剣白夜》か……?」
俺はその2つが出てきた時に少し驚いた。
さすがゲーム内最強武器、知名度は半端ないな。
まぁどちらも俺が持っているけど。
「ああ。どちらも俺が持っているぞ。それにインターネットでの情報は正しかったな。2つが揃うとめちゃくちゃ強いって」
「お、お前……俺が狙っていたあの2本を持っているのか!!」
「だからそう言ってるじゃないか。いちいちギャーギャー喚くな五月蝿いから」
俺がうんざりした様に言うと、白井は顔を真っ赤にして俺に攻撃をしてきた。
よしっ! 狙い通りに攻撃して来てくれたな。
と言うか白井の剣、めちゃくちゃいい奴じゃないか。
灰色の刀身を持つその剣は、《無聖剣》と言う、装備者の使える属性によって専用スキルが変わる珍しく、闇夜や白夜の次くらいに強い剣だ。
これ……欲しいな……。
俺がそんな事を思っていると、白井は殺気を迸らせながら叫んでいた。
刀身には刀が纏われている。
「お前はやはり殺してやるぅぅうう!! はぁああああ【雷帝斬】ッッ!!」
奴の体に雷が纏われ一気に速度が異次元に上がる。
今の俺では全く目に追えない。
しかし俺はこんな奴に一ミリ足りたとも触れたくないので、本気を出していく。
「神技【神眼】、【神気】出力上昇」
俺は遅くなった世界でまぁまぁの速度で走っている白井の顔面に軽めのパンチ。
「グハッ!? 馬、馬鹿な……! ま、まぐれに決まっている! 【光帝斬】ッッ!!」
白井は顔面に攻撃を喰らって仰反るも、すぐに復帰して新たな技を繰り出してきた。
しかしその動きはものすごい速いが、本人の剣筋が明らかに上級者ギリギリ程度の腕前なので、簡単に受け流せる。
俺は白井の剣を持っている方の手首をトンとして武器を落とし、通りすがりに足に蹴りを入れる。
「いだっ!? ぐふっ!?!?」
白井は俺の攻撃をモロに喰らい無様にコケる。
「おいおい、そんなんで俺に戦いを挑みにきたのか? それならこの世界の人間の方がすごい強いぞ」
ほんとマジで。
コイツはカッコいいスキルだけ使っている様で、全然基礎の剣術や体術がなっていない。
本当に初心者に有りがちな間違いをやっているな……。
こんなの最近の初心者でも中々やらないぞ……。
どうせカッコいいからと言う理由で魔法剣士のスキルを所得したんだろうなぁ……。
このゲームは、本当はどんな強いスキルより基礎が1番なんだけど。
基礎がないと強いスキルを使っても当たらないし、ただ隙を晒しているだけになってしまう。
なのでしっかり基礎を鍛えてから強力なスキルを手に入れる方がいい。
俺は全ての攻撃を紙一重で避けていく。
そして偶に攻撃を受け流して相手の体制を崩す。
その度に様々なスキルを使って攻撃してくるが、俺も適切なスキルを適切な分だけ使い全て無効化していく。
「クソクソクソクソッッ!! なんであたらないんだ……!!」
「お前が基礎を疎かにしていたからだ。はぁ……もうやめておけ。お前が俺の質問に答えるなら攻撃をやめてやるから」
俺がそういうと白井は俺にそんな事を言われるのが嫌だったのか更にキレ出す。
「うるせぇ!! 俺がお前の下なんてあり得るか……! お前はモブ、俺は主人公なのが当たり前なんだよッッ!!」
俺がモブなのは否定しないが、お前は主人公じゃないぞ。
だってもう既に勇者には会っているし。
「俺は主人公だからお前は俺のかませ犬じゃなきゃダメなんだ……!」
はぁ……1番主人公じゃないと感じているのは自分自身だろうに……。
俺はコイツのあまりにも哀れな姿に、とっとと尋問しようと思った。
その後はもう知らん。
ただある所に置いていくがな。
俺はそんな事を考えながら、懲りずに突撃してきた白井の鳩尾に思いっきりパンチをくらわせた。
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