第99話 目指せlevel:100②
皆んなのlevelを上げることを決めた翌日。
まだ朝日すら出ていないほどの時間に既に皆んな集まっていた。
「ふわぁ~。皆んな早いね……」
「勿論さ。だって僕は師事してもらう側だから、師より遅く来るなんてありえないよ」
そう言って眠気を一切感じさせない爽やかな笑顔を浮かべるアラン。
ほんと性格は良いんだよな。性格は。
「……眠い」
サラは目をこすりながらそう溢す。
まぁサラは寝るのも好きだからね。
「ソラ~、俺も眠たいよぅ……」
「お前はシャッキっとしろ」
「扱いの格差!?」
ほらすぐに元気になった。
相変わらず扱いやすい奴だ。勿論いい意味で。
イリスとレオンも眠たいのかいつもよりも静かだ。
「それでソラくんはどうしてこんな時間に私達を集めたの?」
セリシア先生がよく分からないといった風に聞いて来る。
まぁセリシア先生にはほとんど伝えていないんだろうからな。
「今日はセリシア先生も含めて昨日の諜報員ほどの強さまで鍛えようと思っている」
「「「「え?」」」」
サラ以外の皆んなが驚いている。
まぁ昨日自分とは絶望的に実力差があると思っていた相手とたった1日で同じくらいまで鍛えようと言ったのだからしょうがないか。
だが正直level:100など余裕だ。
なにせこちらには俺とエレノアがいるんだからな。
「ど、どういうこと? この国の諜報員は私ですら勝てない相手なのよ? たった1日で埋められるわけないわ」
セリシア先生が常識的な反応をする。
まぁこの世界での常識だが。
「大丈夫だ。まずどうやって強くなるかを教える。だがその前に―――出てきてくれ」
俺は説明をする前にずっと隠れていたエレノアを呼ぶ。
「はい、ソラ様」
すると突如何の前触れもなく俺の隣にエレノアが現れる。
「「「「「!?」」」」」
流石にこれには皆んな驚いたようだ。
俺も少し驚いたが。
何せ更に世界との同化がうまくなったのか俺の感知には全くかからなかったからな。
もしエレノアが今の実力で暗殺者をやっていたら魔王よりも恐ろしい相手だな。
そんな事は考えたくない。
まぁそれはあくまで仮定の話だから今はおいておこう。
「取り敢えずエレノアはサラ以外初対面だろうから自己紹介を頼むぞ」
「了解しました。―――はじめまして私はエレノアと申します。元暗殺者で『死神』などと呼ばれていた時期もありましたが、現在は暗殺から足を洗いソラ様専用のなんでも屋です。強さですが、正面からの戦闘はあまり得意ではありませんが、あなた達全員位なら正面からでも問題はないくらいに強いと思っておいていただければ」
そう言って頭を下げるエレノア。
「「「「…………」」」」
サラ以外はあまりの衝撃的な事実に固まっている。
だがその一方でサラとエレノアは、
「エレノア強かったの?」
「サラ様、ソラ様のほうがお強いですよ。ですがサラ様を守るくらいはできるとソラ様からお墨付きを頂いております」
「ん、ソラは最強。エレノアはその次?」
「はい。その通りでございます」
「流石ソラ」
何か仲良くお喋りしていた。
「って、『死神』と言えば大陸1の暗殺者じゃないですか!?」
イリスがそう言う。
ほう……イリスは知っているのか。
と言うかアラン以外は知っているという顔だな。
「暗殺……なんて下劣な……」
アランがそう言ってエレノアを侮蔑の目で見る。
俺はその瞬間頭に血が物凄い昇るのを感じた。
「おい、誰にその目を向けている?」
俺は気に入らない。
何も知らないくせに。
どれだけエレノアが幼少期に苦労したか――。
選択肢のない人生がどれだけ辛いか――。
どれだけエレノアが泣いたか――。
どれだけ彼女自身が傷ついたか――。
何も、何も知らないくせに……!
家族にも友達にも恵まれて幸せに暮らしていたクソ甘ちゃんが―――
―――そんな目をエレノアに向けるな―――ッッ!!
―――ブワッ―――
「ヒッ―――」
「ソラ様!! やめてください!!」
「ん! ソラ、止める!」
サラとエレノアが俺に抱きついて来る。
俺はそれで自分がアランに何をしていたのか気付いた。
「ご、ごめん」
俺は意識して怒りと殺気を抑える。
アランを見ると端正な顔を歪めて涙と鼻水を垂れ流し、少便も漏らしていた。
それに断続的に小さな悲鳴を上げている。
周りの奴らも冷や汗を大量にかきながら小刻みに震えていたが、シューマは何が起こったのかわからないとゆう顔をしていた。
どうやら俺は無意識にでもサラやエレノアと同じく殺気の対象から外していたようだ。
「な、何が起きたんだよ~!」
シューマがオロオロしながら聞いてくるが一旦無視。
「アラン以外の皆んな、すまない。だがどうしても許せなかったんだ」
俺はアラン以外に一人ずつ頭を下げる。
だがイリスからは憎悪の目を向けられた。
一方でセリシア先生とレオンは申し訳無さそうにしている。
やはり貴族なだけあって暗殺者がいかに重要かを理解しているようだ。
ただレオンもとは少し意外だった。
どうやらレオンはこの2人よりはマシかもな。
そしてアランの前に屈みクリーンの魔道具で綺麗にし、耳元で囁く。
「お前がどう思おうが関係ないが、エレノアは俺の大切な家族だ。家族にそんな目を向けるやつはいらない。次は死んでいると思え」
「は、はひっ!」
俺は立ち上がり皆んなに言う。
「時間が押しているから説明は行きながら話すことにする」
俺はそれだけ言うと借りた馬車にエレノアを連れて行く。
「エレノア、大丈夫だったか? 苦しくないか?」
「ふふっ、大丈夫ですよソラ様。それよりも私のために怒っていただきありがとうございます」
そう言って悲しさの見え隠れする笑顔を向けるエレノア。
俺は何も言わず抱きしめる。
「悲しいときは泣いても良いんだぞ」
「そ、そんな……ことは……」
俺がそう言うと始めは否定していたが、途中から腕の中で小さく嗚咽が聞こえてきた。
俺は無言で更に抱きしめる。
するとサラが馬車に入ってきてゆっくりとエレノアの頭を撫でだした。
はぁ……アランと合わせるのは失敗だったな……。
それにあの甘ちゃん2人にはしっかりと教育をしないとな。
俺はまた1つ計画に組み込んだ。
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