第65話 違和感

 今目の前では戦闘と言うよりも蹂躙が行われていた。


 ヴァンパイアがエレノアを見つけることができずにがむしゃらに攻撃している中、その攻撃の合間を縫って急所に確実に攻撃を当てるエレノア。


 現在エレノアの気配は、俺でも近くにいないと察知できない。


 しかもその都度透明化するので、必ず見失ってしまう。


 その為ヴァンパイアは全くエレノアを捉えられていない。


 今もヴァンパイアがエレノアが元いた場所に攻撃して、真横から切り付けられている。


 エレノアはと言うと————


「…………」


 終始無言で攻撃している。


 更に表情もピクリとも動いておらず、淡々と攻撃している。


 その為ヴァンパイアは隙がないエレノアに攻めあぐねている。


 するとヴァンパイアがイラついたのか、大振りに攻撃をして体勢が少し崩れた。


 ヴァンパイアはすぐに立て直そうとするが、その隙をエレノアは逃さない。 


 まず右足を斬りつけてヴァンパイアがさらに体勢を崩した所を毎度同じく首元に一撃。


「ギャアアアアア!! グァッ!!」


 しかしこれでもダンジョンボスであるヴァンパイアは意地を見せてエレノアが攻撃しようとした瞬間に合わせて反撃する。


 だがこの程度でエレノアは止まらなかった。


 最小限の動きでヴァンパイアの腕を回避したエレノアは、その勢いで左手を斬り飛ばす。


「グァアアアアアアア!?」


 ヴァンパイアは今まで感じたことのない痛さに身悶えていた。


 あーこれはエレノアの勝ちで決まりだな。


 俺の思った通りエレノアは、身悶えている間に全ての急所に攻撃をしたあと聖火を直にヴァンパイアに放った。


 するとヴァンパイアは絶叫をあげながら灰になって消えてしまう。


 死んだのを確認したエレノアは、今までの無表情を綻ばせ笑顔になった。


「ソラ様! ちゃんと1人で倒すことができました!」


 俺に近づいてきて褒めて欲しそうなエレノア。


「あ、ああ、頑張ったな、エレノア! まさかここまで強いとは思わなかったぞ!」


 エレノアは更に笑みを深めてガッツポーズまでし出した。


 そんなエレノアを見ながら俺は、少しエレノアの強さに圧倒されていた。


 正直ここまで圧倒的だとは俺も考えていなかった。


 当初の俺の予想では、エレノアが少し苦戦しながらも何とかギリギリ勝てるかなと言う様な感じだと思っていた。


 しかし結果は圧勝。


 もはや文句なしの圧倒的勝利だった。


 だが俺は少し違和感を覚えていた。


 一体どう言うことだ?


 ゲームのヴァンパイアはもっと強かった様に感じる。


 それにヴァンパイアに隠密はあまり効果がなかったと記憶しているのだが……。


 そして何より、ヴァンパイアならば対話が可能なはずなんだ。


 その為部屋に入った瞬間に襲われるなんてことはまずない。


 しかし今回のヴァンパイアは入って早々俺を攻撃してきたし、言葉も話している様子ではなかった。


 これは一気にきな臭くなってきたぞ……。


 俺の推察では、断定はできないが先程のヴァンパイアは、『レッサーヴァンパイア』ではないかと考えている。


 レッサーヴァンパイアは、見た目はヴァンパイアと変わらないが、知能がゾンビよりも多少あると言うくらいでヴァンパイアには遠く及ばず、再生能力も身体能力も同様にヴァンパイアとは埋めれないほどの差がある。


 ああ……鑑定しておけばよかった……。


 エレノアの戦闘があまりにもすごかったから見るのに夢中でそんなこと全く思っていなかった。


 次からは何かあるかもしれないから逐一確認するとしよう。


 俺はそう決め、エレノアの喜びが落ち着くまで色々な可能性を考えていた。


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