第24話 Rescue!(2)

 目の前の少女、来栖 灯さんが何があったのかをポツリポツリと話し始める。

 パーティーで探索に来ていたが、戦闘中にまた別のモンスターに背後から奇襲をされてしまい、偶々最後尾に居た灯さんが足に傷を負ってしまったこと。

 背後からの奇襲でパーティーは大混乱に陥ってしまい、足の傷で逃げにくい灯さんを置いてパーティーメンバーは逃げてしまった事。

 話し終えた彼女の肩は震え、体は心なしか小さく見える。


「大丈夫ですよ。周りのモンスターはさっき僕が倒したカメレオンだけですから。もうここに、敵は居ません」


 僕が安心させようとモンスターは居ない言うと、灯さんは顔を俯けながら首を振る。


「違うの、そうじゃないの!まだアイツが…アイツが追ってきているの!」


 僕の感知スキルが一つの反応を拾う。


「灯さん。モンスターが近づいて来ているので此処から離れましょう」


「駄目なの。此処から離れただけじゃ!」


「アイツとやらのことですか?それでも階段を上がればモンスターは上がってこれないはずです。早く動きましょう」


 そう、モンスターには自分の持ち場のような階層が決まっているようで、どれだけこちらが疲弊していようとその階層から離れれば、追撃をしてこない。


「違うの。私達のパーティーは9階層で壊滅した。そこからずっと私はアイツに追われているの」


 反応はもう僕等のすぐ後ろまで来ている。

 ここまで近づかれたのなら迎撃するしかないと判断した僕は、アイツとやらのモンスターに体を向ける。

 モンスターがヒタヒタと足音をたてこちらに近づいてくる。

 暗闇の中からトカゲのような顔が突き出てくる。

 けれど、ソレは決してトカゲなどではなく、ツルッとした鱗で覆われた体表にはトカゲにはない毛が背中から尻尾にかけ生えている。

 更に、それより決定的にトカゲと違う部分がある。

 ソイツは二足歩行をし、前足は熊のような鋭利な爪がつく前腕に変化し、何より顔が上下に割れるべき口が更に左右にも割れ、4方向に大きく口が空いている。

 口の中には細かい牙、太い牙が乱雑に伸びている。

 その姿は異常の一言につき、何種もの生命が掛け合わされたような歪な不快感を感じさせる。


「あ、あれがアイツよ」


「何だ…アイツは…」


 僕はこのダンジョンに入る前に出てくるモンスターは一通り調べてある。

 けれども、あんな姿のモンスターは出てこなかった。


 こちらを見てヤツがニタァと笑う。そこには今までのモンスターからは感じられないような悪意が在った。

 モンスターは人を襲う。けれど、それは本能的に襲い掛かるようなもので、少なくとも僕が戦ってきたモンスター達は目の前のようなモノのような絶対的な悪意はなかった。


「見れば見るほど気持ち悪いモンスターだな!」


 僕は後ろに怪我人もいるため、攻めることなく相手の出方を見ることにして盾を前に出す。

 攻めようとしない僕を見たモンスターは、さらに口を歪めてゆっくりとこちらに近づいてくる。


 次の瞬間、僕の真横を黒い影が通り過ぎる。

 風切り音を立てて通過したのは、相手の腕。モンスターが僕が捉えきれない速度で懐に入り込んだと考えた僕は反射的に飛び退く。

 けれど、モンスターは数歩しか動いていない。とても腕で攻撃できるような距離ではない。

 変わったのは彼我の距離ではなかった。

 モンスターは相変わらずニタニタとしながらこちらに近づいてくる。さっきと比べ、異様に長く伸びた右腕を引き摺って。


「何が…起こったんだ?」


 あまりにも唐突な攻撃に、僕が茫然としていると、


「アイツが縮めていた腕を一気に伸ばして攻撃してきたのよ!でももう一本の腕も残っているわ!気を付けて」


 後ろから見ていたため全て把握できていたらしい灯さんに指摘される。

 再びモンスターに注目すると、先ほどより右腕が短くなっているのが分かる。恐らく、あの腕が元の長さに戻ればもう一度、最初のように腕を猛スピードで飛ばせるという事だろう。


「腕の再装填って…何だよそれ」


 僕の様子を見たモンスターは一段と大きく顔をゆがませ、こちらに突進してくる。

 その勢いは凄まじく、軌道上に盾を持ってくるのに精一杯になってしまう。

 こうして僕の背後を守りながら戦う圧倒的不利な戦いが始まった。



―――――――

後書き


 ☆100個、フォローワー数300人、PV数2万達成。読んでくださっている方ありがとうございます。

 


 

 


 

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