29 呪いの……



SIDE:メリア



 再びロザリンデ王女の部屋までやって来た私とゼノン王。

 同行してきたグレンとイェニーは、部屋の前に待機して警戒に当たるようだ。

 もともと扉の両脇には護衛騎士が立っていたのだけど、私や王が来たということもあって更に万全を期すのでしょうね。



 扉をノックすると、グリーナさんが出迎えてくれた。



「メリア様……それに、陛下もお越し下さったのですね」



 彼女が私のことを「様」付けで呼ぶのは最初からだけど……謁見の間での話が伝わったのか、より丁重になった感じがするわね。



「もっと早くに……目が覚めた時に来れればよかったのだがな。それで、娘の様子はどうだ?」


「はい。メリア様のお薬が効いたのか、今は良くお休みになられてます。心なしか顔色も良くなられたかと」


 目が覚めたあと、滋養強壮の薬も飲んでもらったんだけど、しっかり効いたみたい。

 毒耐性があると、魔法薬はともかく通常の薬は効きにくいかもしれないと思ったんだけど、杞憂だったわね。



「よかったわ。じゃあ、姫はそのまま安静にしてもらって……」


「ロザリーの部屋を調べさせてもらいたい。入っても問題ないか?」


 父親が幼い娘の部屋に自由に入れないと言うのも、王族と言うのは色々と面倒ね。


 せっかく安らかに眠っている主人を思ってか、グリーナさんは逡巡している様子。

 ここは私もフォローしておきましょう。



「ロザリンデ王女に呪いをかけた方法……その手がかりが残されてるかもしれないんです」


「!姫様の呪いの……そういうことであれば」


 そう言ってグリーナさんは、私達を部屋の奥へと招き入れてくれた。


 さて、手がかりが見つかると良いのだけど…………











 ロザリンデ王女の寝室にて。

 部屋の主たる彼女は、ベッドの上で寝息を立てている。

 ちょっと容態を確認させてもらったけど、グリーナさんが言っていた通り顔色もだいぶ良くなっている。

 この様子なら回復するのも時間の問題でしょう。

 それを伝えると、ゼノン王も胸をなでおろして安堵の表情を見せていた。




 先ずは一安心したところで、寝ている子を起こさないように……なるべく物音を立てないように気を付けながら、部屋の中を確認させてもらう。


「……グリーナさん、誰かから王女への贈り物はありませんか?」


「それでしたら……ロザリンデ様のお誕生日の時のプレゼントがいくつかございますね。洋服やアクセサリーの類が多かったと思いますが」


 そう言って、彼女は寝室から続く部屋の扉を指し示す。

 おそらく衣装部屋ドレスルームだろう。


 視線で問いかけると彼女は頷いてくれた。

 許可をもらったので、さっそく確認させてもらいましょう。







 予想通り、その部屋は衣装部屋だった。

 大きな三面鏡を備えたドレッサー、数え切れないほどの衣装が掛けられた広いウォークインクローゼット、アクセサリー類が収められているであろうチェスト……

 まさにお姫様の衣装部屋って感じがするわね。



「この中から探すのは大変そうだな……」


 少し居心地悪そうなゼノン王がつぶやく。


 確かに……なかなかホネかもしれないわね。

 でも、ある程度の絞り込みはできる。



「服は見なくても良いと思います。呪いというのは魔法の一種には違いありませんから……」


「ああ、布地には付与し難いのだったか?」


「ええ。特殊な素材や製法であれば可能ですが、そこまで手をかける意味は無いでしょう」


 通常素材の布地は魔力親和性が殆どないけど、魔物素材の糸から作った布なんかだと魔力を付与することも可能だ。

 だけど素材が希少な上に、ごく限られた技術を持つ職人が必要になる。

 そんな手間を掛けるくらいだったら、魔力付与に良く用いられる宝石を使ったアクセサリー類の方が手っ取り早いでしょう。

 もちろん、アクセサリーがハズレだったら、そっちも見ないといけないけど……



 ということで、チェストに収められたアクセサリーや小物類を確認させてもらいましょう。

 ……と、その前に。


「グリーナさん、プレゼントは全てこの部屋に?」


「あ、いえ……服やアクセサリー以外のものもいくつかあったはずです。集めてまいりますね」


「お願いします」


 グリーナさんにお願いしてから、私はチェストを物色し始めた。


 きちんと整理整頓されて収められているので確認はしやすいけど、なんせ量が多い。

 これは大変だ、と思っていると。


「私も手伝いたいのだが……どのようにして見分けるのだ?」


 と、ゼノン王が申し出てくれた。

 確かに、手持ち無沙汰で見ているだけなのは居心地悪いかもしれないわね。



「ゼノン王は、魔法の素養はお有りですか?」


「得意という訳では無いが、ある程度なら」


「では、魔力感知は問題なさそうですね」


 そう確認してから私はゼノン王に、魔力を帯びたものとそうでないものに仕分けしてもらうよう、お願いする。


 そして私達は黙々と確認作業を行っていく。

 途中からグリーナさんも加わって、彼女が持ってきたアクセサリー以外の品物も含めて、魔力付与されたものを仕分けていった。










「これで一通り確認したと思うが……」


「魔力付与された品物が結構ありますね……。メリア様、この中に呪いの品が?」


「まだ分かりません。一見すると、護りの魔法が付与された物が多いみたいですけど……」


 護りの魔法が付与されたアクセサリーと言うのは、一般市民的には非常に高価なものだけど、王族への贈り物であればたぶん珍しくはないのでしょうね。



 さて、この中から証拠品が見つかると良いのだけど……果たして?

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