21 調合
SIDE:メリア
呪いを解くための魔法薬の調合を始める。
もともと原因については何通りか予想していたので下準備はしてある。
原材料となる薬草類の乾燥や粉末化、薬効成分の抽出、魔力の浸透など。
呪いは病気では無いので、本来であれば薬で治せるものではない。
あくまでも魔法的プロセスによって解呪しなければならない。
故に、今回の場合で薬が果たす役割は……解呪魔法の保持と増幅、そして身体の隅々までその効果を行き渡らせ持続させることだ。
多分、解呪の魔法も試みられたのだとは思う。
全く効果がなかったので呪いの類では無いと判断されたのかもしれない。
実際、強力な解呪魔法であれば対処出来るとは思うけど……今回の『黒蛇呪』のような古代の特殊な呪いなんかだと、その特性を見極めて細かな調整を行うセンスが重要になってくるのだ。
そんな使い手は早々いないだろうし、『黒蛇呪』を見抜けるような知識を持ってる人となれば尚更だ。
私もそこまで強力な解呪魔法は使えないのだけど、だからこその魔法薬だ。
魔法の威力不足や微調整を薬に代行してもらうというわけだ。
私は鞄から取り出した薬の材料や器具を机に並べ、手順に従って調合していく。
下準備はしてあるので、基本的には混ぜるだけなのだが……順序や温度、混ぜる時間が重要だ。
そして、小一時間ほど時間をかけて配合を終える。
後は薬に魔法を付与するだけだ。
魔法付与のための特別な容器に薬を移し、私は詠唱を……っと、その前に。
「グリーナさん、この部屋での魔法の使用は……」
部屋の隅で調合作業を見守って(監視して?)いたグリーナさんに確認する。
「ええ、大丈夫です。魔法薬とお聞きしましたので、既に許可を取っています」
お〜、流石に王族付きだけあって気が利く方よね。
魔法使用は問題ないとの事なので、私は早速詠唱を開始する。
『……清浄なる気よ、ここに集いて邪を退ける力となれ』
詠唱と共に私の掌から放たれた光は、薬の容器の蓋に嵌め込まれた宝玉に吸い込まれ、周囲に刻まれた魔法陣へと流れていく。
暫く魔法陣は光り続け、やがて収まる。
「……完成した?」
興味深げに眺めていたイェニーが聞いてきた。
「ええ。完成したわ。森の魔女特製解呪薬よ」
「じゃ、じゃあ早速、姫様に……」
「その前に。大変失礼なことを申し上げますが……毒見をさせていただいても?」
「ちょっ!?姉さん!!」
「ええ、大丈夫です。そう思って多めに作ってますから。特に害もありませんし」
イェニーが抗議してくれるのは嬉しいけど、まぁ当然の話よね。
もちろん予想していたので私は全く気にしてない。
私は魔法付与容器から小瓶に移し替え、さらにグリーナさんが持つガラスのコップに1/3程の分量を注ぎ入れる。
薬は透明の液体だが、キラキラと淡い光が炭酸の泡が弾けるように輝いていた。
「はいどうぞ、召し上がれ」
「では、失礼して……」
先ずは一口だけ口に含んで確かめてから……残りもコクコクと飲み干すグリーナさん。
当然のことながら何も起こらない。
「……何かこれ、凄く美味しいのですが」
「はい。こだわってますから」
婆ちゃんのレシピ通りに作ると途轍もなく苦くて不味いんだけど。
良薬口に苦しとは言うけど、どうせなら美味しい方が良いでしょう?
凄く美味しいと聞いてイェニーが羨ましそうな目で見てるけど、残念ながらそこまでの量はないから諦めなさいな。
「ありがとうございました。問題ない事は確認できましたので、姫様に……」
グリーナさんの許可も得て、私達は再び寝室の姫様のもとへ。
薬は問題ない。
あとは、彼女次第だ。
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