13 飛竜


SIDE:メリア



 再び騎士団詰所に戻って中隊長に話をした私達は、彼に案内されて飛竜の厩舎へと向かった。


「そちらのお嬢さんが本当に治せるので?」


「……疑ってるのですか?」


 中隊長の疑念に、何故かカールが不機嫌そうに答えた。

 あなた、一番私のこと疑ってたじゃないの。



「観てみないと何とも言えませんが、可能性はあると思います。……ところで、何で飛竜が病気にかかったこと……内密にしてるんですか?」


「!それは……」


「……飛竜は国の重要な戦力だ。だから、もし何らかの落ち度があって損失なんてことになれば……それは管理する者たちの失点になる。そんなところだろう?」


 カールがそんなふうに推測する。

 要するに不祥事隠しってこと?


「……はい」


「まぁ、最初に約束した通り、飛竜の病が不可抗力なのであれば……あなた方の責任は極力追求しないよう口添えしますよ」


「ありがとうございます……」



 不可抗力ならば……ね。

 ……さて、どう出るのやら。












 そうしてやって来た飛竜の厩舎。

 彼らは清潔好きなので、厩舎内は奇麗に掃除が行き届き、獣臭さもそれ程感じない。


「あ、レヴィはあまり近付かない方が良いかしら?」


「わぅ?」


 野生の飛竜は確かギルドのランクで言えばBランクだったか。

 竜種の端くれとはいえ性格は穏やかで臆病だったはず。

 レヴィが近付いたら怯えるかも?



「いえ、訓練してるので大人しくしてもらってれば大丈夫ですよ」


 その辺は流石に軍用なだけはあるわね。



 そして、私は竜が休んでいる馬房ならぬ竜房の一つに入った。












「くるるる……」


 私が竜房に入ると、そこには体長5メルテ程の飛竜が横たわっていた。

 私に気がつくと力なく鳴き声を上げる。


 円な瞳は黒目がちでウルウルしていて……ヤバい、凄く庇護欲が掻き立てられるんですけど!?

 くっ……弱っていて可愛そうなんだけど、凄く癒やされる。

 飛竜ってこんなに可愛いの?



 と、服の裾がクイクイッ、と引っ張られる。

 見るとレヴィが……


「どうしたの?……もしかしてヤキモチ焼いてるの?」 


「ワゥー……」


 図星か。

 全く、こんなに大きなナリして……可愛いやつめ!


「大丈夫よ。あなたのモフモフは世界一よ」


「ワウッ!!」


 よしよし、どうやら機嫌を取り戻してくれたみたいね。





 っと、そんなやり取りをしてる場合じゃないか。

 とにかく症状を見なければ……



 とは言っても、私は飛竜など診たことなどないんだけど。

 ま、取り敢えず診てみますか……


「ごめん、ちょっと見せてね」


「キュイ」


 いいよ、って事かな。

 勝手に解釈して、近付いて首筋を撫でる。

 硬くツルツルした鱗の感触が何だかクセになりそうだ。



 そして一通りあちこち撫でたり目を見たり、口の中を覗き込んだりして、発汗発熱動悸その他症状の有無を確かめるが……うん、分からないわ。


 そりゃあ、専門外なんだから最初から分かっていた。

 一先ずざっと見て分かりやすい異常がないか確認しただけだ。

 そして、ここからが本番である。



 私は鞄から紙片を幾つか取り出す。

 それぞれに薬物を検知する試薬を染み込ませている。

 そして、検出するものがそれぞれ異なり、それが分かるように色分けされている。


「ちょっと口を開けてもらえるかな?」


「キュッ」


 私のお願いに、一声返事をしてから口を開けてくれた。

 やっぱり、言葉が分かるみたい。

 賢いなぁ……



 私は感心しながら、口の中の唾液で濡れているところに紙片を、ちょん…と付ける。


「ありがとう、もういいよ」


「キュゥ」



 さて、あとは暫らく待つだけだ。


 グレンたちは私の行動に口出しせずに黙ってみていたが、そのタイミングで質問してきた。



「メリア、何か分かりましたか?」


「まだよ。ちょっと待っててね。今、反応が出るか待ってるところだから」


 今試した試薬に何か反応があれば……それは毒物反応なんだけど、処置可能なものという事だ。

 反応がなければ、残念だけど直ぐに対処できるものではない。

 その場合は専門家に任せて……私達は明日の朝から、また馬に揺られて王都を目指すしかない。



 さぁ、そろそろ結果が出る頃だ。

 果たして……?



















SIDE:???



 不味い……

 よもやあの小娘がそこまでの薬師だとは。

 このままでは足止めは失敗に終わるだろう。





 ……まぁ良いか。


 そもそも急な指示では緻密な策を練る時間も無かったのだ。

 出来るだけの事はやったと言い訳も立つだろう。

 奴らはここで犯人を探すような時間も無いだろうし、あとは王都の連中に任せれば……






 全く、権謀術数渦巻くとは言うが、何とも恐ろしいことよ。

 その深慮遠謀など我ら末端の者では窺い知る由もなし。

 そういう意味では……あの者たちも私と同じではないだろうか?



 いや、あるいは。

 あの少女だけは……物語の主役なのかもしれぬな。

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