近所のサッカー少年(完結)

(前回の続きです。1000越えの文章をまとめるとするならば

「今から6年ほど前、オーストラリアから来た男の子‘T君’と仲良くなった。彼が母国に帰ってしまうのが寂しい…(._.)」

要するにこういうことです。)


楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

T君が学校に来れる最後の日。

担任の先生が授業を削ってお別れ会を企画してくれた。

校庭で鬼ごっこやドッチボールをして遊んだ後

T君にバレないようにみんなでこっそり書いた色紙を渡して

お楽しみ会は無事終了した。


帰りの会が終わり、T君の周りには次々に人が集まる。

「また会おうね」「また日本に遊びにきてね」

クラスメイトに囲まれて、照れ臭そうに笑って答えるT君。

私はその輪の中に入らずにいた。

今日も一緒に帰ろうって約束したし、みんなよりもまだ長い時間話せる。

そう思って彼を眺めていた時、担任の先生に呼び出されたのでその場を離れた。


私の学校では、毎年夏休みの宿題として読書感想文が出されるのだが

その中から上手く書けている人を選んで、出品することがある。

私は偶然にもそれに選ばれていた。


「今から原稿用紙に丁寧に書き直してくれないか。どうしても今日中にやってもらいたいんだ。急にごめんな。」


なぜ、今なのか。大事な用事ならばもっと先に知らせておいてほしかった。

明日以降ならどんな放課後の用事でもきっと断らないのに。

今日だけは放課後を拘束されたくは無かったのに。


そんなことを思っても、私にはどうすることもできなくて

先生に従って、原稿用紙に文を移す作業をした。出来る限り急いで。

やっと作業が終わったとき、1時間は経っていた。

走って階段を降りて、廊下を走って、下駄箱まで行ったけれど

無論T君はそこにはいない。


約束を果たせないまま、会えなくなってしまった。

家に帰り、部屋にこもって一人で泣いた。

引っ越しが多かったこともあり、別れをたくさん経験してきたけれど

私史上1番悲しい別れだった。



6年後の今。新たな進展がある。


1週間ほど前のこと。

学校帰りに公園の前を通ろうとしたとき、ボールが道に転がってきた。

自転車のスピードを落として様子を遠くからみていると

一人の少年が出てきた。

少し茶色がかった金髪で、整った顔立ちの少年は

明らかにT君の面影があった。



最近、頻繁にサッカーを練習しているT君を見かける。

一体彼は私のことを覚えているのだろうか。

彼を見れるのはあの頃のように、あと1ヶ月ほどなのだろう。

当時の私の淡い想いが、見かけるたびに蘇ってくる。

近所のサッカー少年として再び私の前に現れてくれたT君に、

仲良くしてくれたお礼と、一緒に帰れなかったことをいつか謝りたい。


そう思いつつ、まだ一度も話しかけられずにいる。











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