何でも屋4
風雷
外伝1 報告
「隊長。ただいま戻りました」
研究所を見張っていた三人組は、どこかにある自分達の基地へと戻っていた。
「あぁ。お帰りなさい。お疲れ様でした。無事に帰ってきて良かったです」
すらっとした女の声に振り向いた男は、シュヴァルにハイベルと呼ばれていた男だった。その隣には、エフェルの姿もある。近付いてくる三人を微笑みを浮かべて待っている。
「戻ってきて早速ですが、研究所の方はどうでしたか?」
「はい。隊長が言っていた通り、研究所に大佐達が現れました。暫くして、大佐と仲間の男は死んでいるようにぐったりしており運ばれて行きました。あの感じからするに、どうやら、博士はやられてしまったようです」
「そうですか……」
ハイベルが辛そうに顔を伏せる。
「それは、ちゃんと確認したんですか?」
隣のエフェルが疑問の表情を浮かべて言う。
「他にどの勢力がどのくらい関わっているのか分かりませんでしたし、相手の勢力や研究所の生き残りに見つかったりして余計な戦闘をしたくなかったので、中まで入って確認はしませんでした」
「ふむ……」
その答えに対して、エフェルは少し不満な顔を見せる。
「いいではないですか、エフェル。私がそんなに細かく指示を出していないのですから」
「い、いえ、責めている訳ではないのですが……気になりましたので……」
それを、優しく注意をされ、エフェルは焦って顔を背ける。本当に、ただ確認をしたかっただけのようである。
「それで、他に何かありましたか?」
ハイベルはニコリと笑い、話を続けるよう促した。すらっとした女は、一度軽く頷くと口を開く。
「大佐は、他の勢力と共闘しているようでした。女性のグループで、一部はあのロボマニアの方が作った兵器でしたね。仲間割れ?の様な事になっていましたけど」
「あの方ですか。まぁ、あれ以来何処に居るか分かりませんからねぇ……ですが、その方々は放っておいていいでしょう。今回限りの共闘でしょう」
右目の眼帯を触りながら言う。
「他にも、二人の子供の姿を確認しました。不思議な力を使ってるようでしたね」
「子供……ですか。不思議な力と言うのは?」
「空を飛んでいたり、自分の周りの空間から球体を出し合って互いに撃ち合っていたり」
「そうですか……」
ハイベルは、再び顔を伏せてしまう。
「悲しいですね……未だに、戦場に子供がいるというのは」
「ティレック博士の事です。どんなことをしていたのか……」
「ですが、彼がどういう人物かを知っていて、それを黙認していた私達も、また同罪です」
「隊長は違います!隊長は、我々を救ってくださっている!貴方がいなければ我々は――」
「エフェル!良いのですよ……分かっています。ただ、そこまで私を慕ってくれて、どうもありがとう」
興奮気味にまくし立てていたエフェルの肩にそっと手を置き、やんわりとなだめる。
「……取り乱しました。申し訳ございません」
エフェルは深々と頭を下げ、しゅんとしてしまった。そんな姿に、ハイベルは困ったように微笑んだ。
「隊長。話を続けてもいいですか?」
軽く手を上げて主張したのは幼く見える女だ。
「あぁ。すみませんね。どうしましたか?ルネリッサ」
ルネリッサと呼ばれた幼く見える女は、手を下ろして答える。
「はい。今後の予定などは決まっているのかと思いまして」
「うーん。そうですねー」
ハイベルはしばし考え込む。その間に、すらっとした女が話しかける。
「リッサ。何かしたいことでもあるの?」
「特にないんですけど、休日を貰って、イルダとお買い物とかしときたいなって」
「買い物ですか?何を買いに?」
「目的は無いんですけど。でも、行きたいなって」
二人の会話を聞いて、ハイベルは顔を綻ばせる。
「お買い物……良いですね。それ。行ってきたらどうですか?」
「隊長!こんな時に、そんな事を」
「いいではないですか。ずっと戦いの日々だったのです。これが始まったら、もう後戻りは出来ません。その前に、やりたいことはやっておくべきです」
「しかし……」
ハイベルの嬉しそうな顔、ルネリッサの子供が物を欲しがるような顔。二つの顔を交互に見て溜息を付きつつ、要求を呑む事にした。
「はぁ……分かりました。リッサ。行きましょう」
「……はい!隊長。ありがとうございます!」
すらっとした女、イルダは、片手で頭を抱えながらも、隣で静かに喜んでいるルネリッサに表情を緩めた。
「女性二人はお買い物ですか。良いですねー。デルバドはどうしますか?」
女二人の後ろで、ただじっとしていた大男、デルバドはたどたどしく答える。
「オ……レハ……ナニモ……スルコ、ト……ナイ。シタイ、コトモ……ナイ」
「そうですか……でしたら、女性二人のお買い物に同行していただけませんか?ボディーガードとしてね」
「タイ……チョウノ……オネガイ……ハ、キク……」
「お願いしますね。二人も、いいですか?」
「はい。問題ありません」
「宜しくお願いします」
「ワカッ……タ……」
女二人は、軽く会釈をして部屋から出て行く。デルバドも、遅れて出て行った。
「宜しいのですか?暢気と言いますか、緊張感に欠けていると言いますか」
三人が出て行くのを見送った後に、エフェルは口を開いた。
「良いのですよ。先程も言いましたが、この作戦が始まったら後戻りは出来ません。その前に、思い出を作っておくのは、悪い事ではありませんよ」
「そう……ですね……」
「エフェルは、何かしたいことは無いのですか?」
「私ですか?私は……」
エフェルは、考えようとしたが、すぐに首を横に振る。
「私はありません。私は、これしか知りませんから」
そう言って、腰に吊るしてある刀の柄を触る。
「エフェル……それは、悲しい事ですよ……」
その言葉を放つ瞬間のハイベルの顔は、とても悲しそうだった。取り繕うように、エフェルはにこやかに答える
「私は、幸せですよ。感謝だってしています。隊長に付き従っていなければ、どこかで無くなっていた命です。あの三人だって、多分、いいえ、絶対に、同じ気持ちのはずです。隊長、これからも、宜しくお願いします」
会釈をした後、ハイベルの返事を待たずに、エフェルはさっさと部屋を後にした。
「……はぁ」
残されたハイベルは上を向き、ぽつりと呟く。
「先生。人を導くというのは、難しいですね。皆、いい子に育ってはいるのでしょう。でも、こんな人生を送らせたくはありませんでした」
顔を戻して、何かの機械に手を置き、続ける。
「こんな事にも、本当は付き合わせたくはないのですがね……私は、本当に弱いです……」
自己批判をし項垂れる。一人でそこで何時までも佇んでいた。
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