スライムくん!
神凪紗南
1話①
ムーンレット王国。
大陸にある小さすぎず、大きすぎないほどほどの大きさの国。
その国には魔法が存在し、人々が使い魔を持つのが主流であった。
使い魔とともに冒険したり、生活の手助けをしてもらったり。
愛玩用として、癒しを求めているものもいた。
「来週からは使い魔と一緒に授業を受け始めます。校庭でやるので、今まで大きくて、学校では出せなかった人も安心してくださいね」
「はーい」
王立リアン学園、初等部5年の教室。
いかにも魔法使いのかぶりそうなとんがり帽子をかぶった、ふわふわのウェーブがかった髪で、葉の色のような濃い緑色の目に眼鏡をかけた20代半ばの女性。
教師、ローズマリーが教卓の後ろで生徒たちに呼びかける。
その呼びかけに生徒たちは元気よく、何人かは手を上げながら、答えていた。
みんな近くの生徒に自分の使い魔がどれほどすごいか自慢し合っている。
その言葉に、うつむいて答えられない生徒がいた。
拳をギュッと握りしめ、口をきゅっと引きしめている。
透き通るような真っ白な肌と、同じような雪みたく真っ白でショートカット。
瞳の色は淡くも光輝く黄色。
誰もが注目する美少女。
彼女の名はヒカリである。
「先生」
「どうしたの、ヒカリちゃん」
授業が終わり、生徒たちがまばらに帰り始めた頃、少女は教師のもとへ向かう。
「ヒカリ、使い魔いない」
「え!?」
目を見開き、大きく驚きの声を上げる。
それに驚いて、教室にまだ残っている生徒たちは振り返った。
「ごめんなさいね」
「大丈夫」
ヒカリは動じずに答えた。
「それで本当なの?使い魔がいないってのは」
「本当」
コクリと頷いた。
「でも、まさかねえ…。あの方なら、使い魔の一体や二体ヒカリちゃんに持たせていると思ったけど…」
教師はぶつぶつとつぶやく。
この国の人間は、子供の頃から使い魔を持っている。
貧富の格差はあるものの、街や森で見かける虫や鳥にも魔力を持っているものがいて、それらを最初の練習として、使い魔にする人は珍しくはない。
そのまま愛着を持って、一生の使い魔にする者も。
だから、この年で契約していないことは珍しいことなのである。
「よし。ヒカリちゃん、日曜日は空いている?」
「はい」
ヒカリはこくんと素直にうなずく。
「じゃあ、街に出てペットショップに行きましょう。きっと良い子が見つかるわ」
「先生は大丈夫なの?」
「私は予定はないから平気よ。ただ今日の放課後と明日は予定があるから、待たせちゃうんだけど」
「平気。ありがとう、先生」
そう言って、教師のもとを去り、友達のもとへと向かう。
「ヒカリちゃん、大丈夫?」
「びっくりしちゃったわ。まさか、ヒカリちゃん使い魔持っていないなんて」
心配そうに声をかける男子と笑いかける女子。
「リュー、ドリー」
整えられた茶髪に茶色の目。
よく見ると、ちょっと可愛いと言われそうな顔立ちをしている少年、アンドリュー・エドワーズ、通称リュー。
ツインテールの金髪に海のような深い青色の瞳。
ちょっと気が強そうだが、ヒカリとは違うタイプの美人、ドリー。
「うん。今度先生がペットショップ連れてってくれるって」
「よかった。ヒカリちゃんも一緒に授業を受けられるね」
「ヒカリちゃんにも私のルーナを見てもらえるわ」
「ボクのフレアもかっこいいよ」
このいつも集まる三人組で笑い合って、和気あいあいと話していた。
しかし、彼らに近づく人影があった。
「おい、貧乏人」
そう声をかけてきた。
三人がそれに気づく。
「げ、カイル」
ドリーが顔をしかめる。
カイルと呼ばれた少年は、黒いツンツンとんがった髪に、黒い瞳。
このクラスのガキ大将と言われるような存在だ。
後ろに取り巻きも三人いて、二人は少年、一人は少女。
少女は人間ではなく、とんがった耳を持つエルフ。
透き通った宝石のような緑色の髪や瞳を持った美少女のエルフが、おどおどと自信なさげに後ろから顔を覗かせている。
「また、エメラルドちゃんをこき使っているの?」
はあ、と呆れたようにため息をつく。
「あ、ドリーさん、大丈夫だよ。私はカイル様のものだから」
「そんなことより、お前だよ。今どき使い魔も持っていない貧乏人」
カイルがびしっとヒカリを指さす。
「駄目だよ、カイルくん。友達にそんなこと言っちゃ」
アンドリューがたしなめる。
「けっ。誰が友達だ。貧乏人だからって、先生に依怙贔屓されやがって」
「…ヒカリ、みんなと同じ」
ヒカリはその発言にむすっとする。
「同じなもんか。先生がわざわざ使い魔買ってくれるんだろう。さぞかし高くていいやつ選べるんだろうなあ」
「「やーい、ずるいぞー」」
少年の取り巻きがはやし立てる一方、エメラルドはなんとか止めようと慌てふためいている。
「ヒカリがお金払うよ?」
「寮暮らしの初等部の生徒がそんな金持っているかよ。とにかく卑怯なお前に負けやしない。勝つのは、俺の使い魔だ。行くぞ、お前ら、エメ」
「は、はいカイル様」
そうして、教室を出て行った。
「別に初等部の授業で使い魔同士戦わせたりしないよね」
「あいつ、いつもの授業でヒカリちゃんに負けているから、やっかんでいるだけよ」
「ヒカリちゃん5年の首席だからね。いつもすごいなあ」
「どうせあいつも家の力で強い使い魔出すんでしょ。気にすることないわよ」
ドリーはヒカリにポンと優しく肩を叩く。
「…」
「ヒカリちゃん?」
アンドリューやドリーの声かけに答えず、一人考えこんでいた。
「ヒカリ、やっぱり自分で探す」
「「え!?」」
ふん、と鼻息荒く意気込むヒカリに驚く2人。
「カイルくんたちのこと気にしているの?」
「あいつら僻んでいるだけだから、気にすることないわよ」
カイルたちの発言で落ち込んでいるのかと思った2人は必死に励ます。
「それだけじゃないの」
ヒカリはフルフル首を横に振る。
「使い魔はヒカリの一生のパートナーになるかもしれない子。それなら、お店じゃなくて、自分の力で見つけたいの」
「ヒカリちゃん…」
言葉に傷ついたのでなく、前向きな気持ちで言ったことが分かり、安心するアンドリュー。
「そうよね。だいたいヒカリちゃんに釣り合うレベルの強いモンスターなんてお店じゃ見つからないわ!ルーナだって、森の中で見つけたんだから!」
「フレアも外にいるところを拾ったからなー」
それぞれ自分の使い魔を見つけたときのことを思い出し、懐かしく思っている。
「やっぱり森の方がいっぱいモンスターいるかな?」
「確かに見つけやすいけど…」
窓の外をみんな眺める。
そのずっと奥に木々がたくさん生い茂る森があった。
しかし、命を感じるような緑色でなく、おどろおどろしさを感じられる黒さだった。
「学校の近くにあるのあの森くらいしかないよね」
「あそこって怖いモンスターばかりだものね。子供だけじゃ危ないかも」
「日曜日にローズマリー先生が来てくれるんだよね。そのときについてきてもらったらどうかな」
「そうだね…」
そう話すと、3人は寮へと帰って行った。
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