文化祭

「お化け屋敷がいいと思います」


クラスの中心にいるあなたの意見にみんなが賛成した結果、私たちのクラスの出し物はお化け屋敷に決まった。他のクラスとの兼ね合いもあり、やれるかどうかはわからないとは先生が言っていたが、流石は主人公のようなあなた。クラスの代表として他のクラスとのお化け屋敷の権利をかけたくじ引きに参加して、見事お化け屋敷の権利を勝ち取った。

私は怖いのは苦手だけど、あなたの嬉しそうな顔を前にしたらそんなこと言えるわけなかった。助かったのは、私は小物の準備班だったことだ。この班なら当日暗闇の教室に入る必要がないから怖くない。


「文化祭、楽しみだね」


話し合いが終った後の放課後。2人きりの帰り道であなたは言った。


「そうだね」


「あれ?なんか乗り気じゃないの?」


「いや、楽しみだよ」


「ならいいんだけど」


「それよりさ。香澄は咲耶君と一緒に文化祭回らないの?」


話を変えるために振った話題だが、自分で言っておきながら自分の心が痛んだのには気づかないふりをする。


「んー。回りたい気持ちはあるんだけどさ。まだ早いかなぁって気もするんだよね。だから今年は奈央と一緒に回ろうかと思ってたんだけど、もしかしてもうすでに予定入ってたりする?」


言われた瞬間私は全力であなたから顔を背ける。


「どうしたの!?大丈夫?」


「だ、大丈夫。夕日が目に入っただけだから」


顔が熱い。きっと今の私の顔は夕日の赤さに勝るとも劣らないだろう。それに弛みきってしまってとてもだらしない顔をしているだろう。こんな顔をあなたに見せるなんてとてもじゃないけれど私にはできない。


「ほんとに大丈夫?」


あなたは心配そうに私の顔を覗き込んでくる。私はあなたから逃げる。


「大丈夫だから!ちょっと待って」


「う…うん」


珍しい私の大声にあなたは少し圧されたように一歩後ずさった。

そして数秒後。


「はぁー--。よし。もう大丈夫」


「ほんとに?」


「うん」


「そっか。じゃあ話し戻すけどさ、文化祭、私と回ってくれる?」


その問いに対する答えはいつだって


「もちろん」


それしかありえない。




文化祭当日。


私たちのクラスは順調に進み大きなトラブルもなく当日を迎えた。

香澄は午前にシフトが入っているので、午後から2人で回る約束をしている。

私と数人の小物準備班は当日のシフトはないので、お化け屋敷に近寄る必要は無い。仕事しているあなたを見れないのは残念だが、怖いものは仕方がない。

というわけで私は時間まで演劇部の演劇を見ることにした。香澄は興味無さそうなので、私一人で見るのに向いているだろう。

その時、1人の男の子が目に入った。

その男の子は友達と一緒にベンチに座って話をしていたので、私は少し聞き耳を立てた。


「暇だなぁ」


「なんかホラー系の出し物無かったっけ?俺怖いの好きなんだけど」


「あったっけ?パンフレットすぐ無くしちゃったから見れてないんだよね。わざわざ探すのと面倒だし、別にいいだろ」


「えー。まぁ面倒だけどさ」


どうやら咲耶君はホラーが好きならしい。敵に塩を送るわけではないが、聞いてしまった以上、これは是非私ののクラスに来てあなたに会ってもらうしかない。


「そこの2人」


「ん?」


「暇ならさ私のクラスでお化け屋敷やってるんだけど来ない?」


「お化け屋敷!?行く行く!何組でやってんの?」


私が声をかけると思ったより食いついてきて驚く。まぁそっちの方が好都合ではある。


「2年2組でやってるから是非来てね」


と宣伝して私はその場を後にした。

そのベンチから見えなくなったところで人目につかない所に入る。


「ふぅ」


大きな息を吐く。普段男の子に自分から話しかけることがないのに、勇気を出したせいかすごく気が抜けた。まぁこれもあなたのため。あなたが幸せなら私は嬉しい。


約束の時間に、待ち合わせ場所であなたを待つ。10分早めに着いたけどきっとあなたも時間より早く来るだろうから大丈夫。

予想通り約束の時間より5分早くあなたは来た。


「奈央ー!お待たせ」


「まだ時間前だから大丈夫だよ」


「待った?」


「ううん。私も今着いたばっか」


「なら良かった。なんか今のやりとりカップルっぽかったね」


あなたは笑顔でそう言った。

カップルとか付き合うって言葉に私が毎回反応している事に、もしかしたらあなたは気づいているのかもしれない。気付かないふりをしているのか、それとも本当に気づいていないのかそれは分からないけれど、あなたが私の隣にいてくれるならそれでいいと思った。


「なんか食べよう?お腹すいちゃった」


確かに午後1時を回った今の時間。昼ごはんを食べていない身としてはお腹が減る。


「何食べる?」


「んー。まだ決まってないから、とりあえず出店の出てるとこにいこう」


「そうだね」


あなた少し早歩きで私の前を行く。お腹すいているのか、それとも楽しみなのか。きっとその両方だ。


「奈央は何食べたい?」


「たこ焼き」


「いいねー!私もたこ焼き食べよう」


出店に着くと私はたこ焼きを一つ。香澄はたこ焼きを二つ頼んだ。


「2つ?」


「うん。一つじゃ足りない気がして。まぁ二つくらい余裕でしょ」


「さすが運動部」


宣言通り、あなたは8個入りのたこ焼きを二つペロリと平らげてしまった。


そこからしばらくは遊戯系の出店を回って、小腹がすいたら食品の出店でなんか食べるというのを繰り返した。

そして文化祭が終わる時間がやって来た。


「楽しかったね」


「うん。本当に」


「おっ。心がこもってる感じでいいね」


「まるでいつもは心がこもってないみたいな言い方するね」


「いや、いつももこもってるよ?ただ今はいつもよりこもってる気がしただけ」


「そっか」


確かに今の言葉は、ちゃんと私の心からの言葉だった。今年はあなたと回れて本当に嬉しかった。だからこそ。


「来年は咲耶君誘えるといいね」


「じゃあ奈央も相手を探さないといけないよ?誰かあてがあるの?」


「あるよ」


「えっ!?だれだれ!?」


「ないしょ」


「えー。教えてよー」


私は笑う。私が来年も文化祭を回りたいのも隣にいてほしいのもあなた。だけどこの気持ちは言えない。


「ねー誰なのー?」


しつこく聞いてくるあなたを見て、私は笑いながら誤魔化した。




















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