第8話 目指せ優勝 大魔王の遺産を手に入れろ
モクドラ町に着いた一行…
「この町すごいね…!どこも道が整ってるし、高い建物もいっぱいあるよ…!」
自分が住んでいた村とは全く違ったモクドラの町並みにミサキは驚愕していた。
「当たり前よ、だってここは…」
ビーンズ島の最大の国であるドリュー王国、しかしそれが出来たのはつい二十年程前の事である…
そして今ムスビ達がいるこのモクドラこそ旧王国であり、その昔はモクドラ王国と呼ばれた地だった…
その名残は王国が移った今も残っており、王国に負けぬ賑やかさがあり、力のある騎士や貴族家も王国に次いで多く住んでいる場所なのである。
いうならここは王国の第二の重要都市なのだ。
モクドラ王国の百年以上もの歴史は今もここに様々な形で残っている…
山にそびえ立つ旧王城…
モクドラの生活の支えとなる古くからの地下水道…
平和となり戦いが終わった時代、戦士達が己の力を奮いそれを皆で讃え賑わう闘技場…
古代の遺物が眠るとされ未だ解明されていない謎が多い地下遺跡…
「本当に凄いんだね…!」モクドラは他の島で暮らしていたミレアも知っている程有名なものであった。
(思い出すなぁ…昔ショコラと一緒に色んな町の本を読んでいつか一緒に行きたいって話してたけど…こんな形で来ることになるなんて思わなかったな…)
そうこうしている間に宿へ着いた…
旅の開始地点である村を出てから十日程経っている。そして港町のヘビヅチへ向かうには五日かかり、港から出る船に乗りシュガー島まで向かう。
「…提案がある」ムスビの言葉に二人は反応するが…
「…ヘビヅチへ向かうのを遅らせよう」
その言葉に二人は驚いていた…
「ムスビ何悠長な事言ってるのよ…早く助けないと皆何されるか分からないのよ…」
「…だが、今行っても勝てない」
「当たり前よ、奇跡でも起こらないと勝てる相手じゃないのは分かってるわ!だからってここで足踏みするだなんて…」
「ムスビちゃん…今そのまま向かってもそう簡単に勝てないのは私でも分かるけど、逆に今ここに残ったら勝てるようになるの…?」その問いに答えるようにムスビは一枚のチラシを出した。
「これって…闘技場?」
「三日後に大会が開催されるみたいね…」
「形式は参加者全員での乱戦、闘技場から落ちたら敗北……。栄えある優勝者には500,000の賞金と魔導具等の品が与えられる…ってまさか…」
「これに出るの?」ミサキの言葉にムスビは頷く。
「分かったわ…、魔導具でもなんでも手に入れなきゃ敵いっこ無いものね。ムスビきっと勝って頂戴ね!」その言葉にムスビは頷く。
一方、ムスビ達ががモクドラに居る頃のシュガー島では…
「グリド様…ご報告がございます…」
「何だ?」
「例の連絡が途絶えてしまった取引先の事なのですが…」
「ああ、その件か…」
「その取引先…奴隷の売買を手伝わせていたアボー達が何者かに倒され捕まりました…」
「何…?良いビジネス仲間になると思っていたんだが……こんなとこでこけるとは情けない…、それにしても何で捕まったんだか…」
「それが調べによるとその逮捕に不自然な点がございます…」
「不自然?」
「それが…身を置いていたスイギュー町ではなく、隣のヒネズミに捕まっているとの事なのです…」
「…?わざわざ隣の町の警察…いや警備隊がアボーを捕まえたって言うの?」
「は、はい…アボーは自分の住むスイギューの警備隊には賄賂を贈って何度も罪を揉み消していたので…ただ隣町のヒネズミにはそうもいかなかったようで…」
「そうは言っても、警備隊って国の都市にある警察を置けてない田舎町が代わりに置いてるだけの組織でしょ…、一応警察に認可されてる組織とは言え、貴族や商人の逮捕を警備隊がするなんて相当稀な事なのにそれも隣町のだよ…?」
「ですが確かな情報です…、追加で調べたのですがどうにもアボーをどうにか出来そうな者が来た痕跡は特にありませんでした…」
「………、どうにも変だな」
「はい、何というか腑に落ちないところです」
「………。ねえ憶えてる?ちょっと前に届いた奴隷達の事…」
「ええ…例の…」
「そう、届いたのは第一団だけ…。追加で第二団も届くって話だったのに第二団どころか向こうに送った盗賊達も帰って来なかった…」
「そういえば今となっても連絡はまるで来ませんね…」
「そう、俺達が逃がした吸血鬼を捕まえさせるついでに奴隷の調達もさせたあいつらだが…、最初は連絡もせずに遊んでるのか、それとも逃げ出したのかとも思ったが違うようだ…」
「まさか…」
「多分追い詰められた吸血鬼の小娘がついに本性を見せ、そして盗賊全員がその餌食になったんだろう…」
「そんな…、とても信じられることだとは思えませんが…。それに、そうだとしてもアボーの件とは関係ないのでは?」
「どうかな?もし逃がした吸血鬼が盗賊を撃退出来る力を得たなら次は俺達を狙うんじゃないか?吸血鬼からしたらいきなり自分を襲ってきた俺達には相当の恨みがあるだろう?それに奴の妹も俺達が捕らえているんだ」
「しかし、復讐というならやはりアボーは無関係なのでは…」
「復讐できる力を得て、復讐の為に動いてるなら奴は何が必要になると思う?この島まで来る為の旅費や物資を調達しようとするんじゃないか?それには近くの金を持った商人でも襲えば…、つまり今回捕まったアボーとかがさ」
「考えすぎなのでは…?それにもし吸血鬼が力を得てもわざわざグリド様に関わろうともしないのでは…」
「有るさ。俺達への復讐…、それが可能と考えてしまう程に吸血鬼というのは強力だ。事前にそんなのまるで知らないアボーならあっという間にやられても不思議じゃない。この逮捕も吸血鬼の覚醒という事故に巻き込まれた結果って言うならそこそこ納得もいくんじゃないか?お前も妹の方のヤバさ知ってるだろ?」
「た、確かに…既にあの吸血鬼を見た後だとそうですね…」
「まあ、それでも今の内に分かって良かった。今すぐ連絡をしよう。奴は吸血鬼…。弱点の一つは流水…、つまり川や海を泳ぐことは出来ないし雨が降るだけでも外を出歩けない。海の上なら逃げ場はないだろう?」
「わ、分かりました!」
「ふふふ、もし本当に今言ったことと同様のことが起きていたんならむしろ強くなってくれて好都合…!商品の価値が上がるというのは商人にとっては嬉しさこの上ないもの…!楽しみでしょうがない!」
セブンス・グリドはこちらにやって来るミレアを脅威ではなく、ただの商品としか見ていなかった…
だがグリドは大事な事を見落としていた…
ミレアが吸血鬼としての力に目覚めたのなら何故アボーは殺されるのではなくわざわざ隣町の警備隊に捕まえられる事になったのか…
そしてそれに関わる
そして大会当日を迎えたムスビ達…
「じゃあ私達はここで見学してるから…」
「ムスビちゃん、怪我しないよう頑張ってね!」
「…行ってくる。あとちゃんは止めて…」
そう言って闘技場へ向かうムスビであった…
『ワアァァァァァァ!!』
闘技場には観客の歓声が沸き上がり選手達を歓迎した…
「す、すごい熱気ね…」
「お、応援してもこれじゃ聞こえないね…」
闘技場は真ん中に円形の舞台がありその中心となる位置には今大会の主催者とアナウンサーが居た。
「選手皆様、観客皆様お待たせいたしました!これより今大会を始めたいと思います!ですがその前にルール確認です、ルールはこの舞台から落ちてしまったら負け!気絶しても舞台から落ちない限りは続行!また武器の使用は許されますが、相手を殺してしまった者は失格となります!事前に殺傷能力の低い武器は用意しておりますので使いたい方は今の内に申し出てください!」
「それでは武器の方はこれでよろしいですね!ルール説明は以上となります。そして栄えある優勝者には賞金500,000と今大会の目玉『大魔王の遺産』シリーズが進呈されます!」
「大魔王の遺産…?」
「書いてあった魔導具の事かしら…」
アナウンサーの言っていた『大魔王の遺産』が何なのかいまいち分からない二人…だが…
「え~、今大会優勝者に進呈される『大魔王の遺産』シリーズを説明しますと、遥か昔に君臨していた大魔王がこの地に遺した史上最高の宝と呼ばれ非常に希少なものですが、同時に史上最悪の宝とも呼ばれています!」
史上最高なのに史上最悪の言葉に二人は不思議そうにしていたが続けて…
「何とこの『大魔王の遺産』シリーズはどれも強力な呪いがかけられており、普通の者には扱う事が出来ません!」
二人はそれを聞いて驚愕した…
「そ、そんなの…」
「ただの嫌がらせじゃない…」
当然の反応だ…しかも優勝者にそんなのを渡すと言うのだから…
「ですがごく稀に使いこなす者が存在し、一度その力を発揮したら、どんな武器や道具にも勝る最高の秘宝となります!謂わばこの宝は所有者を自ら決め、そしてこの大会はそれに相応しい人間を決める大会でもあるのです!勿論、優勝者が拒むなら代わりの品は用意しておりますので貰うかどうかは優勝してから決めてください!」
アナウンサーのそんな言葉も先にそんなのをを聞いた二人には響かなかった…
(ムスビちゃん…)
(勝っても貰うのは絶対に普通のにして…)
バラバラの位置に参加者がスタンバイし、
「では、出場者六十二名全員が準備終了したので始めたいと思います!」
「勝つのは俺だ!」
「いい?やるわよ!」
「分かってるよ!」
「観客の皆さん注目してますね~、選手達は恐い顔でこっち見てますが…」
「…」
「それでは試合開始!!」
こうして戦いの火蓋は切って落とされた…!
「うわあああ!」「うぐっ!」「ブヘッ!」
試合開始から三十秒で既に三人の選手が倒れ場外へと飛ばされた…
どこもかしこも戦っており一対一や数人が一斉に一人を狙ったりとその場その場で様子は変わっていた…
ムスビはただその様子をポツンと一人眺めている様だが…
「おいあのガキ全然戦わねえぞ?」
「ビビって足がすくんでんじゃねえか?」
「おら!舞台に上がってんなら戦え!」
観客の何人かはそんなムスビを気に入らず罵声を浴びせる者も中には居た…
「ミサキちゃん、他の人の声は無視しましょう!ムスビ、ファイト!」
「うん分かってる!頑張れムスビちゃん!」
二人は周りを気にせずムスビを応援していた
「へへへ、おいガキ。さっきからずいぶん余裕そうだな?」
試合開始から数分が経ち、いよいよムスビにも近づく相手が来た…
「…」
「おっ!遂にあのガキやっちまうのか?」
「よし行け行け!戦わねえ奴なんてさっさと叩き落としてしまえ!」
「…こんな所でまでちゃんは止めてくれ」
「試合中に何訳わかんねえ事言ってんだてめえ!」
「こっちもろくに見もしねえでなめてんじゃねえぞ!」そう言ってムスビに向かって武器を振り下ろすが…
サッ
「なっ!」
ゴフッ!
男の攻撃は躱され、次の瞬間男は顔に肘打ちをくらわされて倒れていた…
「な、何とムスビ選手!一撃で相手を倒してしまった~!小さいながらなんというパワーだ!?」
「何だ!?今のどうやったんだ!?」
「流れるように倒しちまった!」
観客はムスビの戦いように驚き大きな盛り上がりを見せた…だが…
「おっとどうしたことか!ムスビ選手の周りを他の選手が囲んでいる!さっきと打って変わってこれは厳しいか!?」
様子を見ていた選手五人がムスビを標的に定めた…
一人が槍を構え一気にムスビに詰め寄るが…
「ぐおっ!」
槍を躱したムスビは勢い良く突っ込む槍使いに木の棒を顔に思いっきりぶつけた!
攻撃を続けて一人倒そうとしたがそこへ…
「うおぉぉぉぉ!」剣を振りかぶる男がそれをさせなかった…
身を一歩引いて避けたがムスビに更なる追撃が襲いかかった!
ズドンっ!!
一人が既に後ろに回り込み持っている木槌で狙ってきた!
ムスビは横に転がり三人から離れるが…
ビュンッ!
体勢を整える時に飛んできた鎖がムスビの体を捕らえた!
「…!」
「ムスビ危ない!」
鎖の拘束を解こうと考えるもつかの間…!
目の前からメリケンサック付きの拳が飛んできた!
「ムスビちゃん!?」
拘束されていて身動きの取れないムスビに連続パンチが襲う…だが…
七発目辺りでパンチに間があり、転びながらも横に避けるのだった。
「ちっ!逃すか!」
だがもう遅かった…
ムスビは既に鎖使いに狙いを定め、そちらへ向かっていた!
「させんぞ!」
しかし鎖使いの周りには既にさっきの槍使いと剣士が居た…
「戦いはどこも白熱しております!特にムスビ選手!ここでは先ほどから五人の連携がじわじわとムスビ選手を追い詰めています!」
「何だが恐ろしい程息ぴったりでムスビが追い詰められてるわ…!」
「ムスビちゃん…あんなに殴られて…」
「うおっ!こいつ!」
ムスビはならばと鎖を逆に引っ張り返すが近づくメリケン男と木槌男がそれを続けさせなかった…
「くそ!鎖巻かれてんのにちょこまか動きやがって!」
二人の攻撃は空振りに終わるが状況は不利なことに変わりない…
そして鎖使い以外の四人が一斉に四方から来るが…
ビュンッ!!
「へぶっ!!」
鎖使いの顔にムスビの靴が飛んできた…その瞬間にムスビは走りだし鎖は男の手から離された…そして…
ムスビは一番動きが鈍い木槌男を躱して包囲から抜け、鎖の拘束を解いた…
ミサキ・ミレア「やった!」
「ぐっ!何て奴だ!」
「慌てるな!奴だって体力は消耗しているはずだ!全員でかかれば倒せる!」
「…さて反撃開始だ」
そう言いムスビは一番近くに居る木槌男の腹にパンチを放った…
「ウボォッ!」
男は腹を抱えてその場でうずくまってしまう。そして男の持っていた武器はムスビの第二の攻撃に利用された。
「うおっ!」
飛んできた木槌を躱し、突撃準備をするところで槍使いはムスビの姿を見失っていた。
「後ろだ!」
剣士の言葉で後ろを振り向き防御をしようとするが、槍使いに次の瞬間回し蹴りが炸裂した…その攻撃で同時に槍の柄の部分が折れてしまった…
「おのれぇ!」
剣士はムスビに斬りかかるがムスビは自分が巻かれていた鎖を今度は剣士に放ち、まるでムチのように剣士の手から剣を叩き落とした…
「しまった!」
慌てて剣を拾おうとした時には既に目の前にはムスビの蹴りあげようとしている足が見えていた…顎に蹴りをくらい剣士も倒れ残り二人となった…
「ぐっ!一旦引くか…!」
そう言いメリケン男ともはや鎖も持たない男はムスビから離れようとしたが…
ダッ!
「うっ、回り込まれた…」
既にムスビは逃げる二人の行く先に立っていた…
「く、くそぉぉぉぉ!!」
メリケン男は最早破れかぶれとなってムスビに殴りかかるが、突き出した腕をそのまま掴まれ次の時には背負い投げられ背中に衝撃が走っていた…
そして残った一人をムスビはジッと見て、その視線に相手側は怯えていたが…
「…こいつら連れて早く場外へ行け」
「は、はいぃぃぃ!」
男は慌てて仲間達を場外へ運び、全員運んだらそそくさと自分も飛び降り、その後無事だった事にホッと胸を撫で下ろしたのだった…
「す、凄いよムスビちゃ…」
「危なかったけどいい調子ねムス…」
『ワアァァァァァァ!!!』
二人の声も盛り上がる声援で搔き消された…
「な、何と言うことだぁ~!ムスビ選手拘束され不利な状況を見事に打ち破ったぁ~!!これにより五人が脱落し、残りは二十七人!参加者も半分を切り、いよいよ戦いも佳境に入ったかぁ~!?」
(…他の参加者を見たがやはり何人かは組んでいるな。…近くの二人と離れた三人組、…そして真ん中で一人を囲んでるあの六人組)
「…!」
「うわぁぁぁぁ!!」
選手の叫びが闘技場に響き渡る…
試合開始から約五分経ったがその短時間である一人は既に十四人を脱落させた…
舞台の中央で囲まれている男…
シルクハットを被り、紫のスーツを着こなすマジシャンがそれをやってのけたのだ…
「ただ派手なだけの目立ちたがりかと思ったが相当強いようだな」
「だが、連戦で疲れていては俺達六人を相手にはどうしようもあるまい!」
「逃げ道はないぞ!覚悟しろ!」
六人はいよいよマジシャンに突っ込もうとした所だが…
「そんな恐い顔しないで…、一つ手品でもいかがです?」
マジシャンはとても余裕に溢れていた…だがそれは六人にとってはただの挑発でしかなかった…
「ふざけんじゃねえぞ!」
六人全員で斬りかかるが剣は男に届かない…
「か、体が…動かな…い…」
六人全員の動きが止まっていた。
そしてマジシャンは懐からナイフを出して何もない空を裂いた…
「一体何を…」
「ふざけているのか…」
それを見ていた選手はマジシャン野郎のする事はさっぱり分からんと言った様子だが…
数秒後には六人の体に震えが走った…
六人の剣や盾、そして鎧が瞬く間にバラバラになっていたのだ…
「ど、どうなってやがる…」
「触れてもないのに俺達の装備が…」
「どうです?驚きました?何ならもう一つお披露目して終わりにしますか?」
「ぐっ、ふざけやがっ…!?」
「あばばばばっ!?何だこりゃ!?」
マジシャンが指を上にクイっとすると、周りの六人の体が宙に浮いていた…
「更にクルっと」
マジシャンが指をクルリクルリと回すと浮いている六人もグルグルと回り、それを見ていた選手達は唖然としていた…
「うおぉぉぉぉぉ!!凄えぇぇぇ!!」
「どうなってやがんだ一体!?」
「マジシャンいいぞぉ!!」
「匿名希望のマジシャン選手!!種も仕掛けも分からない戦い方です!この強さまさに圧倒的です!これは優勝は彼のものか~!?」
反対にマジシャンの注目を集める戦い方はアナウンサーや多くの観客を熱狂させた…
「それでは、ポイっと」
六人は場外へ飛ばされていた…
何人かの選手もそれに巻き込まれて参加者もとうとう二十人を切った…
「あれどうなってるの?」
「分からないけどムスビちゃん勝てるかな?」
二人から見てもあの異常な強さはさすがのムスビでも無理じゃないかという空気が漂う…
「…」
沈黙しているムスビだったがそこに二人の選手が近づく…
「私達姉妹があなたの相手よ!」
「もし怪我したくないなら舞台から出なさい!」
「出ないのなら…!」
「子供相手とは言え、これは勝負!場外へ送ってやるわ!」
「おっとこの大会の数少ない女性参加者のミカン選手とオレン選手が今大会最年少参加者ムスビ選手と戦い始めるようだ!」
「…」
「分かってるわね、オレン!」
「ミカン姉こそ!油断しないでね!」
ミカン・オレン「行くわよ!」
そう言って二人はムスビとの距離を詰める。
(…速い!)
オレンが斬りかかり、ミカンが躱したムスビに更に拳で連撃!
ムスビはそれをも避けてオレンに反撃の蹴りを繰り出すがミカンが盾でそれを防いだ。
そしてもう一度二人がかりでムスビに襲いかかる…
「どうやら防戦一方ね!」
「終わりね、もうすぐ場外よ!」
二人の連撃はじわりじわりとムスビを後ろに追いやり、とうとう場外もあと五歩も無いところまで来てしまった…
「ああ!ムスビちゃんそれ以上は!」
「場外で負けちゃうわ!」
「これで!」
「終わりよ!」
一気に押し出そうとムスビに突っ込む二人!
ビュンッ!
ムスビはジャンプし二人の突撃は空振りに終わる…
「なっ!」
「お、落ちちゃう!」
何とか二人はギリギリ勢いを止められたが…
上にジャンプしたムスビはミカンとオレンの後ろに着地していた!
「ちょ」
「まっ」
『ドスンッ!』
ムスビは勢い良く二人にぶつかった…
そして一気に二人は押し出され場外へ落ちていた…
「やったムスビちゃん!」
「最初から場外を狙ってたのね!」
「おっと!どうやらこっちも決着がついた!ムスビ選手が二人をギリギリまで誘い込み場外へと直接落としました!」
「こっちも?」
「まさか…」
「…」
ムスビが振り返ると舞台場に居たのはさっきのマジシャンただ一人…
他の選手は全て既に場外行きだった…
「ふふふ、途中から見てたけど坊や達の闘いとても良かったよ。二人のコンビネーションも中々のものだったからとても見応えがあってね」
「出来るなら折角の優勝もお嬢さん方を倒した坊やに譲ってあげたいけど…」
「残念ながら大事な大事なコレクションは譲れないからね…勝たせてもらうよ」
「…コレクション?」
「そう…集めなきゃいけない大事な大事なコレクション…」
「…残念だが使うのは俺達だ」
「ふふふ、面白い事を言うね…。でもあれは昔々の大魔王様が作った伝説の代物だから、坊やにはちょっと使えないかも知れないよ?」
「…それでも今はそれが必要」
そう言ってムスビは木の棒を思いっきり振りマジシャンに攻撃を仕掛けたが…
「言葉で納得いかないならこうするしか…」
ムスビの攻撃を避けて…
「ないようだね…!」
マジシャンはムスビを蹴りあげた!
落下したムスビは舞台に叩きつけられすぐに立ち上がるが…
「坊や…今の相当痛かったろ?悪いことは言わないからもう止めておきなさい」
「…無理だとは思うが勝負は最後まで投げない」
「じゃあ仕方ない…一気に場外へ送るとしよう。さっき見せた手品でね」
「…」
クイっ
「おっとマジシャン選手!さっきの様に指を動かしている!ムスビ選手もこのまま浮いてしまうのか!?」
………しかしムスビは全く動かなかった
「ん?あらら?」
「どうしたんだ!?何も起こりません!?マジシャン選手失敗したのでしょうか!?」
「そうか…何で知ってるかは分からないけど凄いね坊や…この手品の弱点知ってるなんて…」
「…昔その技をじいちゃんが使ってた」
そうマジシャンの手品…
いやマジシャンの技は魔法とは違った潜在エネルギーの使い方で出来る一つの技…
その条件は最初の指を上げる動作を相手に見せることであり、条件を満たした相手の体を浮かせる事が出来るのだ。
つまり、事前に目をつぶられるとこの技は不発してしまう…
「でも…それをしたら寧ろ君にとっては良くないよ」
「…打てる手は全部やって勝負する」
「いい勝負魂だね坊や…せめて一撃で終わらせようか…」
「ッ!」
マジシャンはムスビを殴り飛ばし、ムスビは場外目掛けて吹っ飛ぶが舞台に体を付けた摩擦でギリギリ持ちこたえた…
「ム、ムスビ!そこまで耐えなくても!」
「も、もう充分頑張ったよムスビちゃん!それ以上やったら怪我しちゃうよ!」
観客席の二人はもう止める様に言うが…
「…やるだけやる!」
意地でも続けるようだ。
「ガールフレンドも心配してるのに頑固な子だ」
すぐ近くまでマジシャンは来ている…
「…」
クイっ
「ふふふ、でもいつか強くなるよ君は………っ!これは!」
「…初めて出来た」
「ななな、何と!ムスビ選手を追い詰めたマジシャン選手が今度は浮かされてしまった!これはもしやムスビ選手の仕業か!?」
そう。マジシャンがしていたのと同じことをしたのだ。油断していたマジシャンはまんまとそれにかかってしまった。
「驚いた…潜在エネルギーはそれを知っていても並大抵の者じゃ扱えないのに…」
「どうなってるか謎だけど凄いわムスビ!」
「なんでか良く分からないけどこれなら!」
ムスビはすかさず場外へマジシャンを飛ばすが…
「でも残念ながら通用しないよ」
そう言うとマジシャンは場外近くで着地し、ムスビの方を向いた。
「う、嘘…」
「もうちょっとだったのに…」
「そしてこれでフィナーレ…!」
ムスビ目掛けて拳が飛んで来た!
(…これまでか)
「ムスビちゃん!逃げて!」
『ブオオオオオオンッ!』
「何っ!?」
マジシャンのパンチはムスビに当たる前に何もない空で動きを止めていた…
「こ、これは光の壁…!」
いや、良く見るとムスビの周りには太陽の光を反射してかろうじて分かる透明な壁があった…
「…?」
「坊やではなさそうだね…となると…」
マジシャンは振り返り観客席を見るすると…
「え?え?どうなってるの?ムスビちゃんどうして?嬉しいけどなんで?」
「さ、さあ?ってあれミサキちゃんそれ…」
「へっ?な、何このブレスレット…!?」
そして観客席とは離れた場所…、主催者側の方から声が響いていた。
「な、無い!優勝者へ渡す星のブレスレット!大魔王の遺産が!?この箱に入れていたはずなのに無い!?」
大会終盤にして、マジシャンの勝利目前で止められた攻撃、そして大魔王の遺産が消えたことに対し、これは一体どういうことなのかと観客一同が騒然としていた…
「大魔王の遺産は持ち主を選ぶ…今彼女の手にそれがあるって事は…」
「…ミサキなのか?」
「坊や…良いガールフレンドを持ったね、この後何か一緒にお祝いすると良いよ」
そう言うとマジシャンはどこからか花束を出してムスビに渡し…
「優勝おめでとう、それじゃ私は行くよ」
との言葉を共に送った…そして…
ピョンっ
マジシャンは舞台を降りた…
「な、な、何ということでしょう!?勝利目前まで来ていながらマジシャン選手、ムスビ選手に花束を渡して舞台を降りてしまったぁ~!?大波乱です!今大会の優勝は最年少のムスビ選手に決まったぁ~!?」
「…コレクションはどうした」
「使う人間が見つかったなら別ですよ」
そう言うとマジシャン選手の姿は数十羽の鳩へ変わり闘技場から消えた…
「ムスビ!見てこれ!ミサキちゃんの腕に」
「ムスビちゃん!ぬ、盗んだんじゃないよ!これが突然私の腕に…!」
試合が終了したらムスビにミサキとミレアが駆け寄った。
「な、何と!それは今大会優勝者へ渡される大魔王の遺産、星のブレスレットです!」
「へ?これが?あのこれは盗んだんじゃ訳じゃないんです、突然これが…」
「いえ、それは別に疑ってませんが…それより大丈夫ですか?それは呪われているのでお体の方は…?」
「え?全然元気です…」
「な、何ということだ!これは凄い!大魔王の遺産に認められたのはこの少女だった!私は驚いています!何せそれを扱う者は限りなく少ない秘宝!その秘宝自らに選ばれた者を間近に見ているのです!」
観客や周りに居る参加者一同騒然としていた…
「ほっほっほっ、そうかそうか。どこへ行ったかと焦ったがその少女が選ばれていたのか…!」
「えっと、あのこれ…」
「良いんじゃよ。それを使える者が現れるのがわしらにとっても本望じゃ!何せ使いたくても呪われてて使えんからのぉ!フォッフォッフォッ!」
本当に大丈夫かなこれ…とミサキとミレアは複雑な心境だが返しても受け取らなさそうなので大人しく貰うことにした…
「だが、優勝したお主に渡すのが賞金だけというのはあれじゃの…そうじゃほれ!こっちの魔導具を渡そう!」
「…しかし」
「なぁに、遠慮しなくて良いですよ!何せ大魔王の遺産は誰も欲しがらないだろうからこっちが渡るものだとずっと主催者と二人で思ってましたから!」
そうしてムスビは優勝賞金500,000と魔導具を手に入れ、ミサキは伝説の秘宝『大魔王の遺産』シリーズ・星のブレスレットの所持者となった…
夕方、モクドラのある川沿いの道…
「はあ…負けちゃったねミカン姉…」
「こら落ち込まないの。それに最後のマジシャンは私達じゃどうやっても勝てないわよ」
「でもお父さんのお薬は…私達二人共働いてるけど330,000なんて急に無理だよ…」
「でも、何とかするしかないわ…」
「ま、まさかミカン姉!あの気持ち悪いオヤジの誘いに乗るきじゃ!?ダメだよあれは!お父さんも絶対反対するよ!?」
「でも、じゃなきゃ父さんは…」
「…これを使え」
「え?貴方は…」
「大会の…というかその手にあるのは…」
振り返るとムスビが薬の入った小袋を手に立っていた…
「もしかしてそれを私達に…?」
ムスビは頷くが…
「というか何でそんなこと知って…」
「…別に、たまたま話しているのを聞いただけ」
「ダメよ…いくらなんでも受け取れないわよ…」
「…要らないのか?」
「そうよ。勝った貴方から、何も関係ない子供からは受け取れないわ」
「…要らないなら捨てるぞ」
それでも二人は受け取ろうとはしない様子…
するとムスビはスタスタと近くの川に行き…
「………せぇ~のぉ~!」この男、本当に捨てる気である…
「ちょちょちょ!本当に捨てようとしなくても良いじゃない!?」
「やっぱり要るわよ!受け取るわよ!さっきの無し!!だから捨てるの止めて!?」
その言葉を聞きムスビは捨てるのを止めて、必死で止めに入った息絶え絶えの二人に薬を渡した。
「本当に良いの?」
ムスビは頷く…
「…じゃ」
そう言ってムスビはその場を離れていった…
「ありがとうこの恩は忘れないわ!」
「また会ったらお礼させてね!」
「…別に忘れて良いよ」
ムスビはそうしてその場を離れ、馬車に追い付き二人に合流しに行った…
「あっ帰って来たね!」
「全く甘いわね、関係ない人次から次へと助けて…でも…」
ボソッとその後続けて何かミレアは言ったが…
ムスビ「…今なんか言ったか?」
「別に?心の声が漏れただけよ、ちょっとだけね」
決してその内容をムスビには教えないミレアであった…
「ムスビちゃんはいつもムスビちゃんで安心するなぁ~何だか一緒だと落ち着くよ」
「…ミサキ。だからちゃんはやめてと言って…」
一行はモクドラを発ち、港町のヘビヅチを目指す…
歴史ある町モクドラでムスビはマジシャンや姉妹と戦いまた一つ経験を積んだ…
これから向かうヘビヅチから無事シュガー島までたどり着くことは出来るのだろうか…
次回に続く…
第八話 目指せ優勝 大魔王の遺産を手に入れろ 終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます